(1)商標権者側の団体が解散したら商標権はどうなる?
厚木シロコロ・ホルモン探検隊が解散したら
厚木シロコロ・ホルモン探検隊は所期の目標は果たしたとして昨年、団体を解散しています。団体が解散したら商標権はなくなってしまうのでしょうか。
シロコロホルモン関係の商標権は団体の名義ではなく、個人名義で取得されています。このため団体が解散したとしても、そもそも商標権は個人の所有になっていますので影響はありません。
商標権はそのまま残ります。このため商標権者である個人側が許可しないと、シロコロの商標は使えなくなります。
(2)ライセンスを更新しない、とは?
商標権そのものの更新と、登録商標を使える権利の更新の違いに注意
間違えやすいのですが、商標権を更新しないことと、登録商標を使える権利を更新しない、とは意味が違います。
商標権は10年が一応の権利存続期間です。商標権が失効する前に、商標権を更新することにより、権利をさらに10年伸ばすことができます。運転免許の制度と同じで、最初の一回は特許庁の審査を受けますが、以降は更新手続きにより権利を持ち続けることができます。
これに対してライセンスの更新は意味が違います。
商標権者側は、手持ちの商標権を誰に使用を許可するか、地域的にどの範囲で使用を許可するか、どの程度の数量の販売を許可するか等の使用の範囲を自由に決めることができます。
ライセンスをしている、ということは、シロコロの登録商標やそれに似た商標を使っても、商標権者側が文句をいわない、というのがライセンスの内容です。
もちろん使用を許可する代わりにライセンス料を徴収することもできます。
このライセンスを商標権者に更新して貰えないと、これまでシロコロの登録商標を使っていた業者は登録商標を使うことこができなくなります。
もし使うと権利侵害として訴えることができ、差止請求や損害賠償請求が認められることになります。
(3)交渉が決裂したら?
シロコロの商標権者側が希望する買い取り価格で商標権を厚木市が買い取りを拒否し、かつ、商標権側がライセンスを更新せず、新たにシロコロの使用を認めない場合には、厚木市はもちろん、これまでシロコロの商標を使っていた業者もシロコロの商標を使えなくなります。
商標権は他人に移転することができます。土地の権利と同じで、他人に売却することもできますし、貸して賃料をもらうこともできます。今回、商標権者側は買い取りを希望しています。
仮に厚木市側が商標権を買い取らず、現在の商標権者が別の企業に商標権を売却すればどうなるのか。
特許庁にライセンスがあることを登録していない限り、新たに商標権を取得した企業が登録商標の使用を認めなければ、厚木市側が登録商標を使えない状態が続きます。
ただ、誰もお金を払わない商標権を、他の誰かがお金を出して買い取るのか、という話も、もちろんあります。
(4)次回商標権を更新せず、権利が失効したら?
商標権者側の団体である厚木シロコロ・ホルモン探検隊は昨年解散し、その活動も終了するとのことですから、次回の商標権の更新時に更新の手続をしないことも可能性としてはあります。
次回更新で商標権を更新しないとどうなるか
次回の商標権の権利が切れる更新時に更新手続きをしないと、最終的に商標権は消滅します。
商標権がなくなった結果、誰もが自由にしろころの名前を使うことができるようになります。誰もが使えるなら問題は解消するのでは、と思われるかもしれませんね。
誰もがお金を払わず自由に使える、ということは、地元厚木市だけでなく他の地域でも自由に使えることを意味します。
また(他の法律に違反しない限り)質の劣る商品で、誰もこれはシロコロとは呼べないだろう、と思えるようなホルモン焼きを販売する業者が現れても、商標権でその行為を止めさせることができません。
地域を盛り上げるために他の業者が無断で使うことができないように管理してきたのに、その管理がなくなる、ということです。
仮に商標権が失効したら他人が商標権を取得できるのか
現在存在しているシロコロ関係の商標権が全て失効した場合、他人が商標権を取得できるか、というと理論的には可能です。
誰も権利を取得していない状態では、最初に権利申請をした者が商標権者になることが原則だからです。
ただし実際にシロコロ関係の商標権が失効して、厚木市とは全く関係がない第三者がシロコロについて商標登録出願をしても、特許庁の審査官が登録を認める可能性は低いと思います。
一つの理由は、シロコロの商標はホルモン焼きの名前として一般的な名称になっていて、今では誰もが自由に使える言葉になっている。このため特定個人や企業に権利を認めない、というものです(商標法第3条)。
もう一つの理由は、シロコロの商標はホルモン焼きの名称として広く有名になっているので、有名にした関係者を除き登録を認めない、というものです(商標法第4条第1項第10号など)。
いずれにせよ、一度権利を失効させてしまうと商標権を再取得するのは相当程度困難になると思います。
(5)まとめ
厚木市側も市民の税金を預かる関係上、商標権者側の言い値で商標権を買い取るのは難しいと思います。
一方、このまま両者が歩み寄らない状態で終わるなら、シロコロの商標は誰にも使われることなく、ひっそりと消えていくことになります。
ほどほどのところで地域が納得できる歩み寄り点があればそれに超したことはないのですが。
ちなみに法律でこのレベル以上で商標権を買い取らなければならない、とかのしばりは一切ありません。オークションと同じで、双方が納得して数百億円規模で取引される商標権もあります。
全ては当事者の話し合い次第です。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247