IOCの商標「五輪」登録の件で読売新聞にコメント掲載

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索引

(1)IOCによる商標「五輪」の登録内容

IOCが商標「五輪」を日本で商標登録

コミテ アンテルナショナル オリンピック(国際オリンピック委員会 、以下「IOC」と略)は平成29年(2017)12月19日に、日本に対して商標登録出願の手続を行いました。

特許庁の商標審査官による審査を経て、平成30年1月8日に審査の合格を知らせる登録査定通知が送達され、平成31年(2019)2月1日に登録、商標権が発生しました。

登録商標:「五輪」(標準文字)
登録番号:商標登録第6118624号
商標権者:コミテ アンテルナショナル オリンピック(スイス)
登録日 :2019年2月1日
区 分 :第1,3,9,11,12,14,16,18,21,24,25,28,30,32,35,36,38,39,41,42,43,45類
公開された商標公報より引用

区分とは商標権の権利の範囲の基本となる分類で、第1から第45類の45個に分かれています。商標登録可能な全ての商品や役務(サービス)は全てこの45個の区分のどれかに属することになっています。

標準文字とは

標準文字とは特許庁により準備された書体であり、商標が文字だけで構成されていて、特段文字にデザインを加える必要がない場合に選択します。

文字情報にデザインの制限がない、と考えれば、文字だけの商標の中では何ら制限の掛かっていない最強の商標登録の方法ということができます。

なお、商標権の効力は発音が同じものをその範囲に含みます。このため字体を変えたとしても、読み方が同じであれば商標権の範囲の外に逃れることはできません。

(2)商標五輪をどのように使うと商標権侵害になるのか

次に商標権の侵害になる場合について説明します。

登録商標「五輪」と同じ商標か似ている商標の使用

一般に商標権の効力は、登録された「五輪」の商標と同じ文字表現以外に、カタカナ表記、ヒラガナ表記、アルファベット表記のものをその範囲に含みます。上記で触れたように、同じ読み方のものも権利に包含するからです。

また意味が同じ場合も商標権侵害になる場合があります。

直接漢字で「五輪」と直接表現しなくても、輪が五つある状態を表現したイラストなど、五輪と意味が同じものを使うと権利侵害を問われる可能性があります。同じ観念の商標も商標権の範囲に含まれるからです。

登録されている指定商品・役務と関係する範囲内の商標の使用

では「五輪」との表現は一切許されないのか、というとそうではありません。商標「五輪」が登録された際に指定された商品、役務と関係する範囲で使用する場合に限る、という制限があります。

商標が同じでも、使用する商品や役務が全く異なるなら、同じ商標が並列して使用される場合があります。

例えば、三菱鉛筆の「三菱」と、三菱UFJ銀行の「三菱」の場合、両者は全くの別会社ですが、使用する商標の商品役務に共通点がないため、それぞれ「三菱」の商標を使用することができます。

業務における商標の使用

さらに商標権の侵害になるかどうかについては、業務上、商標を使用している場合に限る、との制限があります。

事業と全く関係なく「五輪」との表現を使う場合には商標権の侵害にはなりません。

例えば、自宅の自分の部屋の中に五輪と自分で書いたポスターを貼っても全く問題ありません。

また学校の授業で生徒が五輪に言及する感想文を書く場合も問題がありません。商売として商標「五輪」を使っているとはいえないからです。

文字表記による商標の使用

今回IOCが登録した商標は標準文字の文字情報です。このため文字情報を使うことなく、音声表現のみで五輪を表現した場合には商標権の効力は届かなくなります。

会話の中で五輪に言及する、友達同士で五輪についての感想を述べ合う、授業で先生が五輪に言及する、アナウンサーが五輪について解説する行為は、いずれもそれだけでは商標権の侵害とは関係がないです。

商標法に定める商標の使用

新聞記事、雑誌、個人のブログ等で五輪について言及すること自体は商標権の侵害とは関係がありません。五輪に対する各自の意見の表明は、商標法に定める商標の使用とはいえないからです。

ただし五輪について論説しているように装いながら、実質的に五輪との商標を使って宣伝広告などにより利益を上げている、商品の販売に絡めて五輪の商標を使用している等の場合には商標権侵害に問われる場合があります。

(3)注意すべき点

五輪を盛り上げようとする善意の行為が裏目にでる場合がある

五輪を盛り立てようとする行為に注意する必要があります。例えば、お店に「当店は五輪を応援しています。」と書いたポスターを貼りだした場合、一般需要者は、このお店が東京オリンピックの公式スポンサーと間違うかも知れません。

本来なら多額のライセンスフィーを支払わないと名乗ることができない公式スポンサーであるかのような表現を誰でも使えるなら、公式スポンサーは何のために多額のライセンスフィーを支払ったのか分からなくなります。

このため、許可なく五輪に関連する表現を使用していると、大会関係者側から訴えられる可能性があります。

また、商店街などで「五輪」を表記したのぼり、横断幕、ポスターを使用していると、商売に関連した五輪商標の使用により、やはり訴えられる可能性があります。

なお、損害賠償請求は、東京オリンピックが終わった後でも請求される場合があります。時効により損害賠償請求ができなくなるまでは裁判に訴えることができます。

また配達の車、トラック等に五輪関係の表記を東京オリンピック応援のつもりで表記した場合、やはり業務と関連して五輪の商標を使用しているとして商標権侵害に問われます。

五輪表記の制限は商標法だけではない点に注意

上記に商標登録されている区分について書きましたが、商標登録されていない区分について五輪商標を使うことにも注意が必要です。

五輪の商標を守る法律は商標法だけではないからです。他に五輪商標に関連する法律として不正競争防止法があり、無断で五輪商標を使うと商標法とは別の法律に基づいて攻撃を受けることもあります。

五輪関連グッズの転売に注意

五輪関連グッズを販売する場合、五輪商標が表示された商品が、正しくIOCの許諾を得た正規品かどうかを確認する必要があります。

個人であっても、正規品でない五輪関連グッズを販売すると、逮捕されたり裁判で訴えられたりすることがあります。
正規品かどうかをよく確かめずにインターネットのオークション等で転売していると、いずれトラブルに巻き込まれます。

事業で使う場合には大会関係者の判断をあおぐ

五輪を盛り上げようとした行為が違法行為になるのは誰も望むところではありません。業務に関連して五輪商標を使う企画がでてきた場合には、迷わず大会関係者に連絡を取って、善後策の判断を仰ぐことがよいでしょう。

これぐらいは大丈夫だろう、と独自に判断して五輪商標を無断で使用するのは危険です。国を挙げたイベントだからこそ、事前の根回しが必要になります。

(4)商標「五輪」が登録された意義

商標「五輪」の保護は日本国が保証している

花の一輪ざし、オートバイの二輪、幼児の三輪車、自動車の四輪など、「数字プラス輪」の表現は、誰もが制限を受けることがない日常の言葉として使用さています。

だったらこの延長線上で、五輪との言葉も商売に自由に使えるのではないか、と考える人がでてくるかも知れませんね。

上記の二輪、三輪、四輪の言葉については、乗物について使用する場合には確かに一般的な表現ですが、乗物とは全く関係がない場合に使用する場合には一概に一般的とはいえなくなります。

今回IOCが商標「五輪」について商標登録した意義は、国が損害賠償や差止請求を補償した商標法により保護することにより、商標「五輪」が知的財産として保護を受けるに値する表現であることを内外にアピールする狙いも含まれます。

(5)まとめ

イベントとしては世界最大級の行事となるオリンピックだけに、東京オリンピックに関連する五輪の商標についても知的財産の保護の観点から、しっかり商標登録されています。

今回のIOCによる商標「五輪」についてのコメントは、平成31年3月9日付け読売新聞の朝刊に掲載されました。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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