「KIMONO」は誰のもの?2019年キム・カーダシアン米国商標騒動を、いまの視点で読み解く

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2019年6月当時、「キム・カーダシアンが米国で『KIMONO』を商標出願した」というニュースでも報じられましたが、”炎上”を引き起こしました。争点が「商標法」だけにとどまらず、「文化」「言葉」「感情」が一気に交差してしまったことが、この事件の特徴だったのです。

私自身も当時、専門家として解説の場に立ちました。2019年6月27日放送のフジテレビ「とくダネ!」に出演し、解説したことがあります。

そして2026年のいま、検索環境も変わり、「当時の出願番号を打っても見当たらない」と感じる方も出てきています。

実はここに、商標実務の落とし穴が詰まっています。米国では「日本の着物に関する商標登録」はどこまで許され、どこからがアウトなのか。2019年のエピソードを軸に、いま改めて整理してみます。

1. 結局、米国で「KIMONO」は登録されたのか?

結論から言うと、2019年に大きく報道された「KIMONO」について、キム・カーダシアン側(関連会社)の主要な出願は、少なくとも4件いずれも「Abandoned(放棄)」になっています。

商標登録(登録証が出る状態)まで到達していないという理解が実務的には妥当です。([International Trademark Association][1])

SNSで拡散された「言葉を商標登録=言葉の所有」という短絡が、商標制度の現実とズレていた点です。

商標は”単語そのもの”を所有する制度ではありません。

指定した商品・役務(ビジネスの範囲)に関連して独占的に使える権利が発生するにすぎません。たとえ「着物」の文化語であっても、指定範囲の取り方次第では話が複雑になります。

2. 2019年に出願されていた「KIMONO」4件の中身

INTA(国際商標協会)の解説では、2018年4月にキム・カーダシアン関連会社が「KIMONO」について4件の米国出願を行い、2019年6月に追加の動きがあったことがわかります。([International Trademark Association][1])

米国特許庁データベース上では、以下のような内容・経過が確認できます。いずれも「Abandoned – Express」(明示的放棄)の扱いとなっています。

「KIMONO」出願その1(化粧品・バッグ系)

米国出願番号87886635は、2018年4月20日に出願されました。香水・ボディローション等(国際分類3)、バッグ等(国際分類18)を権利範囲としていましたが、2019年8月22日にAbandoned – Expressとなりました。([trademarks.justia.com][2])

「KIMONO」出願その2(補正下着・衣類系)

米国出願番号87886640も同じく2018年4月20日に出願されています。ランジェリー、シェイプウェア等(国際分類25)を対象としていましたが、こちらも2019年8月22日にAbandoned – Expressとなっています。([trademarks.justia.com][3])

「KIMONO」出願その3(小売サービス)

米国出願番号87886644は、化粧品、バッグ、下着等を扱う小売サービス(国際分類35)を対象として2018年4月20日に出願されました。2019年8月22日にAbandoned – Expressとなっています。([trademarks.justia.com][4])

「KIMONO」出願その4(デザイン化された文字)

米国出願番号88479867は、2019年6月19日に出願されました。バッグ(18)、衣類(25)、小売(35)を権利範囲とし、商品リストに「KIMONOS」が含まれていたことが注目されます。2019年8月22日にAbandoned – Expressとなりました。([trademarks.justia.com][5])

この「その4」が象徴的でした。世間が感じた違和感は「補正下着に”キモノ”?」だけではありません。「Kimono」という文化語を、衣類カテゴリで広く押さえにいくように見えた点に、さらなる批判の声が上がったのです。

3. 「出願番号が見つからない」現象の正体

最近のUSPTOは検索システムをアップデートしており、クラウドベースの検索環境へ移行しています。([特許商標庁][6])

この種の移行が起きると、検索画面や既定のフィルタ(例えば生存中のみ表示)によって、放棄(Abandoned)案件が見えにくくなることがあります。「番号が消えた」というより、検索の前提が変わり、かつ当該出願が放棄になっているためデフォルト表示から外れている、という合わせ技で「見当たらない」感覚が生まれやすいのです。

4. 米国で「KIMONO」は登録できるのか?

ここからが本題です。米国商標の世界では、「その言葉が一般名称(ジェネリック)なら登録できない」という原則があります。TMEP(審査マニュアル)でも、一般名称(generic terms)は商標登録できない趣旨が明確に示されています。([特許商標庁][7])

では「KIMONO」は一般名称なのか。ポイントは、何の商品・役務について登録しようとしているかです。

着物(日本の伝統衣装)に「KIMONO」を登録するのは困難

「kimono」は英語圏でも普通に通じる借用語で、少なくとも和装の着物を指す語として一般に理解されています。

商品が「着物」である限り、一般名称である可能性が極めて高く、商標としての独占は通りにくいと考えられます。これは商標制度の根幹であり、誰か一社に独占させると市場の言語が死んでしまうからです。

着物以外なら登録の余地がある

一方で、香水・化粧品、バッグ、あるいは全く別の分野で「KIMONO」を使う場合はどうでしょうか。

この場合、「KIMONO」がその商品の普通名称ではない以上、識別力(ブランドとして機能するか)が残る可能性があります。実際、2018年4月の出願は、化粧品(3)やバッグ(18)など、着物から距離のある分野も含めて構成されていました。([trademarks.justia.com][2])

「文化語だからダメ」でもなければ、「問題になったから通る/落ちる」でもありません。指定商品との関係で、結論が変わるのが商標なのです。

5. 「外国語同等の原則」とは

米国審査で見落とせないのが、いわゆるDoctrine of Foreign Equivalents(外国語同等の原則)です。

TMEP上も、外国語の英語訳が、識別力判断(記述性・一般名称性など)で問題になり得ることが明記されています。([特許商標庁][7])

平たく言うと、「外国語だから通る」という発想は危険です。英語に訳したら”ただの説明・ただの普通名称”になってしまうなら、普通に拒絶対象になり得ます。

そして「KIMONO」の場合、さらに厄介な点があります。「外国語扱い」以前に、英語圏で普通に流通している語として扱われやすいのです。つまり、最初から翻訳を挟まずに一般名称判断に入ってくるリスクが高い。ここが「KIMONO」が燃えやすかった理由の一つです。

6. 2019年の勝敗を決めたのは条文ではなく世論だった

INTAはこの騒動を、法律上の障壁というより「文化的流用(cultural appropriation)」という法の外の圧力が大きかった事案としています。京都市長の書簡、そして日本側が特許当局者を米国に送る方針が報じられたことなど、政治・外交・文化が絡む展開になった点が象徴的です。([International Trademark Association][1])

京都市長の英語書簡は、「Kimonoは大切に受け継がれてきた文化であり、商標での使用を再考してほしい」という趣旨を、極めて丁寧な言葉で伝えています。([京都市ホームページ][8])

実務的に大きかったのは、キム・カーダシアン自身が「KIMONO」を使わない方向へ舵を切り、最終的にブランド名をSKIMSに変更した点です。([International Trademark Association][1])

商標の世界では、よくこう言われます。「登録できるか」よりも先に、「世の中が許すか」を見誤るとブランドが死ぬ。この事件は、その教科書的事例でした。

7. 米国で「KIMONO」商標は今も多数存在する

ここで多くの方が混乱します。「じゃあ結局、”KIMONO”って商標登録できるの?できないの?どっち?」

答えは、先ほどの通り「商品次第」です。そして現実として、米国では「KIMONO」を含む商標が、衣類以外も含めて様々な分野で使われています。例えば文具(ペンケース等)で「KIMONO」の登録例があるように、着物そのものから離れた分野ではブランドとして成立しやすいのです。([US Patent and Trademark Search][9])

「KIMONO」という単語が即座に封印されるのではなく、着物を意味する言葉としての一般性と、ブランド名としての識別性が、商品分野ごとにせめぎ合っているのが現状です。

8. 日本の事業者が米国で「KIMONO」を使うときの3つの実務リスク

ここからは、SNSで拡散されにくいのに、現場では痛い話です。「キム・カーダシアンは撤退した。じゃあ安心」とは限りません。

リスク1:米国の権利は米国で効く

商標権は属地主義です。米国で成立した商標は、米国内(そして米国向けの輸出・販売)に影響します。もし第三者が、バッグや小売サービスなどで「KIMONO」を権利化していた場合、日本側が「日本では普通名詞だから」と思って米国へ出すと、侵害リスクが現実化します。

リスク2:「服じゃないから盲点」になりやすい

この事件でも、化粧品(3)・バッグ(18)・小売(35)が組み合わさっていました。([trademarks.justia.com][2])

世間の注意は下着・衣類に集中しがちですが、実務ではむしろ、周辺カテゴリで事故が起きます。

リスク3:商標の争いは「抗議」では動かない

ここも誤解されがちです。署名活動やSNS抗議は、ブランド側の意思決定には影響しますが、法的に権利を消すには別の手続が必要です。

最初の出願設計(ネーミング・指定商品・証拠の積み上げ)がすべてになります。

9. まとめ:「KIMONO騒動」が残した商標実務の教訓

2019年の出来事は、「キム・カーダシアンが悪い/日本が勝った」という単純な勝敗では終わりません。むしろ教訓は明快です。

商標は言葉の所有権ではありませんが、ビジネス範囲では現実に人を止められる強い権利になります。

文化語は、法律だけでなく世論・外交・企業倫理が絡み、損得計算が一気に崩れることがあります。米国では商品次第で登録の余地が残るので、検索・監視・出願設計が重要になります。

2019年当時も、今も、言いたいことは同じです。

「みんなが使う言葉」を、誰かが合法的に囲い込めてしまう余地がある。感情論で終わらせず、制度の構造を理解して備える。それが、商標のプロとしての結論です。

※私の生出演による解説は、2019年6月27日のフジテレビ「とくダネ!」で放送されました。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

参考情報

  • [1]: https://www.inta.org/perspectives/united-states-claims-of-cultural-appropriation-sink-kim-kardashians-kimono-brand/ “International Trademark Association”
  • [2]: https://trademarks.justia.com/878/86/kimono-87886635.html “Justia Trademarks – 87886635”
  • [3]: https://trademarks.justia.com/878/86/kimono-87886640.html “Justia Trademarks – 87886640”
  • [4]: https://trademarks.justia.com/878/86/kimono-87886644.html “Justia Trademarks – 87886644”
  • [5]: https://trademarks.justia.com/884/79/kimono-88479867.html “Justia Trademarks – 88479867”
  • [6]: https://www.uspto.gov/trademarks/search/trademark-search-system-updates “USPTO検索システム更新”
  • [7]: https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/TM-TMEP-7th-edition.pdf “TMEP第7版”
  • [8]: https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/cmsfiles/contents/0000254/254139/Letter_from_Mayor_Kadokawa%28ENG%29rev.pdf “京都市長書簡”
  • [9]: https://uspto.report/TM/85879204 “USPTO Report”

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「「KIMONO」は誰のもの?2019年キム・カーダシアン米国商標騒動を、いまの視点で読み解く」への1件のフィードバック

  1. 大変ご無沙汰しております。
    元・積水化学の知財におりました濱野です。

    たまたまネットを見ていまして、平野先生のこの記事を見つけて読ませて頂きました。
    面白いと言っては何ですが、こんなこともあるのですね。
    キム・ガーダシアンさんはドメインネームでも「KIMONO.com」を取得されているようで「KIMONO」にけっこう思い入れがあるようですね。
    私的にはビジネスに必要なものを集め、取得されようとするところが立派だなと思いました。

    こんな感想ですいません。
    平野先生のご活躍を祈念しております。

    返信

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