無料商標調査 次回定休日4/29-5/6

「KIMONO」は誰のもの?2019年キム・カーダシアン米国商標騒動を、いまの視点で読み解く


2019年6月、「キム・カーダシアンが米国で『KIMONO』を商標出願した」というニュースが一気に拡散し、世界的な”炎上”へ発展しました。争点は商標法だけにとどまらず、「文化」「言葉」「感情」が一気に交差した点に、この事件の特徴があります。

私自身も当時、専門家として解説の場に立ちました。2019年6月27日放送のフジテレビ「とくダネ!」に出演し、生放送で事件の見方をお話ししています。

2026年のいま、検索環境も変わり、「当時の出願番号を打っても出てこない」と戸惑う方も増えてきました。

ここには、商標実務のリアルな落とし穴が詰まっています。米国では「日本の着物を指す言葉の商標登録」はどこまで許され、どこからアウトになるのか。2019年のエピソードを軸に、いまの視点で整理し直します。

1. 結局、米国で「KIMONO」は登録されたのか?

結論から言うと、2019年に大きく報道された「KIMONO」について、キム・カーダシアン側(関連会社)の主要な出願は、少なくとも4件いずれも「Abandoned(放棄)」で終わっています。

登録証が発行される状態まで到達していない、というのが実務的な理解です。

SNSで一気に広まった「言葉を商標登録=言葉の所有」という短絡が、商標制度の実像とズレていた点が、この事件の根にあります。

商標は、”単語そのもの”を独り占めする制度ではありません。

指定した商品・役務(ビジネスの範囲)との関係で、独占的に使える権利が発生するにとどまります。たとえ「着物」のように文化を背負う言葉でも、指定範囲の切り方次第で話が一気にややこしくなります。

2. 2019年に出願されていた「KIMONO」4件の中身

INTA(国際商標協会)の解説をたどると、2018年4月にキム・カーダシアン関連会社が「KIMONO」について4件の米国出願を行い、2019年6月に追加の動きがあったことが読み取れます。

米国特許庁のデータベース上では、以下のような内容と経過が確認できます。いずれも「Abandoned – Express」(明示的放棄)の扱いで終結しています。

「KIMONO」出願その1(化粧品・バッグ系)

米国出願番号87886635は、2018年4月20日に出願されました。香水・ボディローションなど(国際分類3)、バッグ類(国際分類18)を権利範囲に設定していましたが、2019年8月22日にAbandoned – Expressで終了しています。

「KIMONO」出願その2(補正下着・衣類系)

米国出願番号87886640も同じ2018年4月20日の出願です。ランジェリーやシェイプウェアなど(国際分類25)を対象にしていましたが、こちらも2019年8月22日にAbandoned – Expressで終結しました。

「KIMONO」出願その3(小売サービス)

米国出願番号87886644は、化粧品・バッグ・下着類を扱う小売サービス(国際分類35)を対象に、2018年4月20日に出願されました。2019年8月22日にAbandoned – Expressで終了しています。

「KIMONO」出願その4(デザイン化された文字)

米国出願番号88479867は、2019年6月19日に出願されました。バッグ(18)、衣類(25)、小売(35)を権利範囲とし、商品リストに「KIMONOS」の文字が含まれていた点が注目を集めました。こちらも2019年8月22日にAbandoned – Expressで終結しています。

この「その4」が象徴的でした。世間が覚えた違和感は「補正下着に”キモノ”?」だけではありません。「Kimono」という文化語を、衣類カテゴリーで広めに押さえにいくように見えた点に、さらに批判の声が集まりました。

3. 「出願番号が見つからない」現象の正体

最近のUSPTOは検索システムをアップデートし、クラウドベースの検索環境へ移行しています。

この種の移行が起きると、検索画面や既定のフィルタ(例えば生存中のみ表示)によって、放棄(Abandoned)案件が見えにくくなる局面が出てきます。「番号が消えた」わけではなく、検索の前提が変わり、当該出願が放棄になっているためデフォルト表示から外れている。この合わせ技で「見当たらない」という感覚が生まれやすいのです。

4. 米国で「KIMONO」は登録できるのか?

ここからが本題です。米国商標の世界では、「その言葉が一般名称(ジェネリック)なら登録できない」という原則があります。TMEP(審査マニュアル)でも、一般名称(generic terms)は商標登録できない旨が明確に示されています。

では「KIMONO」は一般名称なのか。ここで焦点になるのは、何の商品・役務について登録しようとしているか、です。

着物(日本の伝統衣装)に「KIMONO」を登録するのは困難

「kimono」は英語圏でも普通に通じる借用語で、和装の着物を指す語として一般に理解されています。

商品が「着物」である限り、一般名称と判断される可能性が高く、商標としての独占は通りにくいと見るべきです。これは商標制度の根幹にかかわります。誰か一社に独占させると、市場で使われている言葉そのものが死んでしまうからです。

着物以外なら登録の余地がある

一方で、香水・化粧品、バッグ、あるいは全く別の分野で「KIMONO」を使うとしたらどうでしょうか。

この場合、「KIMONO」がその商品の普通名称ではない以上、識別力(ブランドとして機能するか)が残る可能性があります。実際、2018年4月の出願は、化粧品(3)やバッグ(18)など、着物から距離のある分野も含めて組み立てられていました。

「文化語だからダメ」でもなければ、「問題になったから通る/落ちる」でもない。指定商品との関係で結論が動く、というのが商標のリアルです。

5. 「外国語同等の原則」とは

米国審査で見落とせない論点が、Doctrine of Foreign Equivalents(外国語同等の原則)です。

TMEPでも、外国語の英語訳が識別力判断(記述性・一般名称性など)で問題になり得る点が明記されています。

平たく言えば、「外国語だから通る」という発想は危険です。英語に訳したら”ただの説明・ただの普通名称”になってしまうなら、普通に拒絶対象になります。

そして「KIMONO」には、さらに厄介な事情があります。「外国語扱い」の前に、英語圏で日常的に流通している語として扱われやすい。つまり、翻訳を挟まずに最初から一般名称判断に入ってくるリスクを抱えています。ここが「KIMONO」が燃えやすかった構造的な理由でした。

6. 2019年の勝敗を決めたのは条文ではなく世論だった

INTAはこの騒動を、法律上の障壁というよりも「文化的流用(cultural appropriation)」という法の外の圧力が決定打になった事案と位置づけています。京都市長の書簡、日本側が特許当局者を米国に派遣する方針が報じられた経緯など、政治・外交・文化が絡む展開になった点が象徴的でした。

京都市長の英語書簡は、「Kimonoは大切に受け継がれてきた文化であり、商標での使用を再考してほしい」という趣旨を、丁寧な言葉で伝えています。

実務面で決定打になったのは、キム・カーダシアン自身が「KIMONO」を使わない方向に舵を切り、最終的にブランド名をSKIMSへ改めた点です。

商標の世界では、よくこう言われます。「登録できるか」よりも先に、「世の中が許すか」を見誤るとブランドが死ぬ。この事件は、その教科書的な事例でした。

7. 米国で「KIMONO」商標は今も多数存在する

ここで混乱される方が出てきます。「結局、”KIMONO”って商標登録できるの?できないの?どっち?」

答えは、先ほど述べた通り「商品次第」です。現実に米国では、「KIMONO」を含む商標が、衣類以外にも広がる分野で使われています。例えば文具(ペンケースなど)で「KIMONO」の登録例があるように、着物そのものから離れた分野ではブランドとして成立しやすい傾向が見えます。

「KIMONO」という単語が即座に封印されるわけではなく、着物を指す言葉としての一般性と、ブランド名としての識別性が、商品分野ごとにせめぎ合っているのが現状です。

8. 日本の事業者が米国で「KIMONO」を使うときの3つの実務リスク

ここからはSNSで拡散されにくい、現場では痛い話です。「キム・カーダシアンは撤退した。だから安心」とは限りません。

リスク1:米国の権利は米国で効く

商標権は属地主義で動きます。米国で成立した商標は、米国内(および米国向けの輸出・販売)に影響します。もし第三者が、バッグや小売サービスなどで「KIMONO」を権利化していた場合、日本側が「日本では普通名詞だから問題ない」と考えて米国市場へ出ると、侵害リスクが現実化します。

リスク2:「服じゃないから盲点」になりやすい

この事件でも、化粧品(3)・バッグ(18)・小売(35)が組み合わさっていました。

世間の注意は下着・衣類に集中しがちですが、実務では周辺カテゴリーで事故が起きます。ここへの目配りが抜けるとダメージが大きくなります。

リスク3:商標の争いは「抗議」では動かない

この点も誤解されがちです。署名活動やSNSでの抗議は、ブランド側の意思決定には効きますが、法的に権利を消すには別の手続きが要ります。

最初の出願設計(ネーミング・指定商品・証拠の積み上げ)が、結局のところ勝負を決めます。

9. まとめ:「KIMONO騒動」が残した商標実務の教訓

2019年の出来事は、「キム・カーダシアンが悪い/日本が勝った」という単純な勝敗では終わりません。むしろ教訓は明快です。

商標は言葉の所有権ではない、しかしビジネス範囲では現実に人を止められる強い権利になる。この両面を押さえておきたいところです。

文化語をめぐる案件では、法律だけでなく世論・外交・企業倫理が絡み、損得計算が一気に崩れる瞬間があります。米国では商品分野次第で登録の余地が残るため、検索・監視・出願設計の組み立てが勝負を分けます。

2019年当時も、今も、伝えたい内容は変わりません。

「みんなが使う言葉」を、誰かが合法的に囲い込める余地がある。感情論で終わらせず、制度の構造を理解したうえで備える。それが商標のプロとしての結論です。

米国での「KIMONO」案件のように、文化語や一般名称ギリギリのブランドで海外展開を考えるときは、出願前の調査設計と指定商品の組み立てが事業の命運を左右します。実務10年以上の現役ベテラン弁理士・弁護士が直接担当する当事務所では、海外出願の戦略設計から現地代理人とのやり取りまで伴走します。費用感の確認は商標費用ページ、具体的なご相談は無料調査フォームからお寄せください。

※私の生出演による解説は、2019年6月27日のフジテレビ「とくダネ!」で放送されました。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

商標のことでお困りですか?

商標登録の出願・調査・侵害対応について、
弁理士が無料でご相談に応じます。お気軽にお問い合わせください。

ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘

コメントする