索 引
2013年7月29日、日本テレビの人気番組「世界まる見え!」で、知的財産権侵害に関する潜入捜査コーナーが放送されました。このコーナーの監修を担当させていただいたことがあります。模倣品が抱える深刻な問題について改めて考えさせられる機会となりました。
番組では、ビートたけしさんと所ジョージさんという日本を代表するタレントお二人が司会を務める中、携帯電話の偽バッテリーを中心とした模倣品の実態が詳しく取り上げられました。放送前に日本テレビから監修依頼を受け、知的財産権の専門家として内容の確認と助言を行いました。
番組のエンディングクレジットでは「ファーイースト国際特許事務所 弁理士 平野泰弘」として紹介されましたが、スクロール速度が速く、気づかなかった方も多かったかもしれません。
1. 携帯電話バッテリーに潜む危険性
番組で取り上げた携帯電話の偽バッテリーには、消費者の安全を脅かす重大な問題が存在します。正規品のバッテリーには、充電完了時に自動的に充電を停止する過充電防止回路が組み込まれています。この安全機能により、バッテリーの異常な発熱や劣化を防ぎ、製品の安全性を確保しています。
一方、模倣品のバッテリーには、このような安全回路が省略されているケースが多く見られます。コスト削減のために安全機能を犠牲にした結果、充電を続けるとバッテリーが異常に発熱し、最悪の場合、爆発事故につながる危険性があります。番組では、実際に偽バッテリーが爆発する瞬間の映像を取り上げ、視聴者に模倣品の危険性の情報が提供されました。
2. 認証システムの信頼性まで揺るがす模倣技術
模倣品問題の深刻さを物語る事例として、本物を証明するためのホログラム認証章までもが偽造されている現実があります。
ホログラムは本来、高度な技術を要する偽造防止策として採用されているものです。しかし、中国では、このホログラム認証章自体が偽造され、市場に流通している状況が確認されています。
消費者が本物と偽物を見分けるための最後の砦となるべき認証システムが機能不全に陥っている現状は、知的財産権保護の観点から深刻な問題です。正規品を購入したつもりの消費者が、知らないうちに危険な模倣品を使用してしまうリスクがあります。
3. 自動車部品にまで広がる精巧な模倣品
模倣品の問題は携帯電話のバッテリーにとどまりません。自動車部品の分野でも、見分けがつかないほど精巧な模倣品が流通しています。取材では、中国国内の正規代理店で働く店員でさえ、模倣品と正規品の違いを即座に判別できない事例が紹介されました。
自動車部品の模倣品は、単に経済的な損失だけでなく、人命に関わる重大な事故を引き起こす可能性があります。ブレーキ部品やエンジン関連部品などの重要保安部品に模倣品が使用された場合、走行中の故障や事故につながる危険性があるためです。
このあたりの感覚は、逃げる場所のある大陸と、逃げる場所のない島国の日本との差があるのでしょうか。職人としてのプライドはないのか、と思ってしまいます。
4. 取り締まりの現状と課題
中国当局も、知的財産権侵害に対する取り締まりを強化しています。
悪質な模倣品製造業者の摘発や、違法工場の閉鎖などの措置を継続的に実施しています。しかし、摘発された業者が別の場所で再び同様の違法行為を繰り返すケースが後を絶たず、当局と違法業者との間でいたちごっこが続いている状況です。
模倣品製造の背景には、巨大な需要と利益が存在します。正規品より安価な模倣品を求める消費者が存在する限り、この問題の根本的な解決は困難です。また、インターネットを通じた国際的な流通網の発達により、模倣品の拡散スピードは以前より格段に速くなっています。
5. 消費者保護と知的財産権保護の重要性
今回の番組監修を通じて、模倣品問題が単なる知的財産権侵害にとどまらず、消費者の安全を直接脅かす深刻な問題であることを改めて認識しました。携帯電話のバッテリー爆発事故や、自動車部品の不良による事故は、人々の生命と財産を危険にさらします。
知的財産権の保護は、企業の利益を守るだけでなく、消費者の安全を確保するためにも不可欠です。正規メーカーが安全性を確保するために投資した技術開発コストを無視し、安全機能を省略した模倣品が市場に流通することは、社会全体にとって大きな損失となります。
消費者の皆様には、極端に安価な製品には注意を払い、信頼できる販売店から正規品を購入することをお勧めします。
また、企業には、より効果的な偽造防止技術の開発と、消費者への啓発活動の強化が求められています。知的財産権の専門家として、今後も模倣品問題の解決に向けて、情報発信と対策提案を続けます。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247