2024年3月3日にTBS「アッコにおまかせ」から、大谷翔平選手の名前が無断で中国で先取り出願されている件で、取材収録がありました。
ことの発端は、中国の企業が、大谷翔平選手やドジャーズに無断で、中国でアパレル商品を指定して、中国特許庁に出願申請されていた件です。中国での先取り商標が大谷翔平選手や球団側に影響を及ぼすのか、何の目的で申請したのか、また結果はどうなるかなどについて解説しました。
1. そもそも商標登録って何?
商標登録は商標権を発生させる行政上の手続きで、各国に対して申請手続きを行うことにより、審査に合格した国で商標権が発生する制度です。
手続きは各国ごとに行う必要があります。日本での審査期間は平均で半年程度、中国で7ヶ月程度です。中国の法律は中国国内だけで有効です。このため、今回出願された大谷翔平という名前についての商標登録出願が審査に合格した場合、中国国内だけで有効です。
2. 中国企業は大谷翔平選手を知らないといっているが?
中国でもインターネットで調べると大谷翔平選手の情報はすぐに出てくるはず。知らないことはないと思います。中国の特許庁に、商標出願の願書の商標欄に大谷翔平と記載して出願するのは誰でもできます。
ちょうど、一定の資格を持つ者であれば、誰でも大学を受験できるのと同じです。入学試験に合格できるかどうかは別ですが。
3. 大谷翔平という名前を中国で商標登録する狙いはどこにあるのか
これは、ずばり、高額ライセンス費用とか、商標権の買取費用の要求が狙いです。商標権を取ってしまえば、権利に指定された商品について、登録商標を使えるのは商標権者だけになります。
2000年代の前半に、中国でアップル社のiPadの商標権が取られてしまい、アップル社は中国で6000万ドル、現在のレートで90億円の解決金を支払う結果になっています。
商標権は名義の書き換えにより移転ができます。この移転の条件を有償とすることにより、実質的に商標権を売買することができます。今回、大谷翔平選手の名前を無断で中国特許庁に出願した中国企業も、何らかのお金が得られないなら、権利申請をする意味がないです。
4. 中国特許庁の審査に合格した場合、何らかの影響はあるか?
商標権は事業者を規制する権利です。このため、日常生活の会話や文章で大谷翔平と表記することまでは、商標権の効力はおよびません。また商標登録する際には、商標だけを登録するのではなく、中国特許庁に出願申請する際に、何の商品について権利申請するか記載する必要があります。この記載された商品の範囲内だけで権利が発生するので、記載されていない、関係のない商品とは権利は関係がなくなります。
また中国の法律が及ぶのは中国の領域内だけですので、中国で商標権が得られても、日本や米国には権利は及ばないです。
5. 今回の大谷翔平の名前の商標は中国特許庁の審査に合格できるか?
できないです。中国特許庁では、氏名を商標登録してはいけないとの規定はないのですが、他人を欺く出願は登録しないとの規定があります。
実際、卓球の伊藤美誠選手の名前が中国で登録されましたが、今では無効になっています。東京五輪の有名選手名も他人により出願されましたが、中国特許庁はこのような商標の申請は審査に合格させないと宣言しています。
6. 大谷翔平選手側やドジャーズ側が取りうる手段は?
中国特許庁の審査には直接関与できないのですが、仮に審査に合格した場合には、異議申立や無効審判により登録取り消しの手続きが可能です。最終的には大谷翔平選手の名前の横取り商標の権利は認められない結果に落ち着くとみています。
7. 中国ではこのような商標の勝手出願はよくあるのか?
日本での年間の商標登録出願件数は18万件くらいですが、中国国内の商標登録出願件数は年間700万件を超えます。国民性から一発逆転を狙う投機として考える人が中国では多いです。
仮に最終的に権利が認められないにしても、その結論がでる期間をひっぱることは可能です。中国の企業は大谷選手側や球団側が中国で商売をする場合に、何らかの解決金を得ることを狙っていると思われます。
大谷翔平選手も球団も、相手の土俵に安易に乗らないことが大切です。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247