1. 登録商標の変更は原則として不可
商標を出願するときは、願書に登録を受けたい商標を記載します。出願後にその商標を変更できる範囲は限られるため、実際に使う文字や図形を出願前に確かめておきます。
登録した後も、願書に記載した商標と実際に使う商標を見比べてください。文字の綴り、図形の有無、文字の配置などが変わると、登録した商標をそのまま使っているとはいえない場合があります。
商標権が及ぶ範囲と使用時の注意
商標権者は、指定商品・指定役務について登録商標を使う権利を専有します。
他人が類似する商標を指定商品・指定役務と同一または類似の商品・役務に使う場合にも、商標権の効力が及ぶことがあります。ただし、登録した商標と変えた商標の扱いは、どの制度で問題になるかによって異なります。
商標権者自身が商標をアレンジして使うときも、他人の権利との関係や、登録商標を使っていると認められるかを確認します。
不正使用による登録取消しのリスク
商標法51条は、商標権者が故意に登録商標に類似する商標を指定商品に使い、他人の商品との混同を生じさせる場合などに、登録取消しの審判を認めています。指定商品に類似する商品に登録商標や類似商標を使う場合も対象です。デザインを変えたこと自体ではなく、故意と混同・誤認の有無が問われます。
この規定は、商品の品質の誤認だけでなく、役務の質の誤認や他人の役務との混同を生じさせる使い方にも及びます。
審判で要件が認められれば、その商標登録が取り消されます。
不正使用による取消審判は、誰でも請求できます。競合企業からの請求に限られません。
変更前に確認すること
商標権者でも、登録時と違う形で使う際には、変更の内容と他人の商標との関係を確かめてください。
不使用取消審判では、書体だけの変更など登録商標と社会通念上同一と認められる商標の使用も、登録商標の使用に含まれます。
ロゴや表記を変える前に、登録した形、変更後の形、使う商品・役務を並べて確認しましょう。
2. 裁判例等
Afternoon Tea事件

カタカナとローマ字を併記した商標でも、実際には片方だけを使ったり、ロゴの配置を変えたりすることがあります。
こうしたアレンジが問題になった二つの裁判例を見てみましょう。
「Afternoon Tea事件」では、東京高裁が商標法51条の要件を認め、取消審判の請求を退けた特許庁の審決を取り消しました。判決が取り消したのは特許庁の審決で、商標登録そのものではありません。
事件の概要
この事件では、商標権者は登録商標「A」を持っていましたが、平成5年3月から、若い女性向けの衣類に対し「B」という異なる商標を使用していました。一方、請求人は昭和62年から「C」という商標を用いて生活雑貨を販売しており、その商標は若い女性の間で広く知られていました。
裁判所は、商標権者が「B」を使い始めた時点で、請求人の「C」が若い女性の間で広く知られていたと判断しました。請求人が「C」を使っていたのは生活雑貨、商標権者が「B」を使ったのは若い女性向けの衣類です。「B」のロゴは「C」によく似ており、出所の混同を生じさせるおそれと商標権者の故意を認めました。
裁判所の判断(当サイトによる要約・東京高裁 平成10年6月30日判決)
被告が請求人の使用商標と極めて近似した「B」のロゴを、若い女性向けのシャツ、ブラウス、ワンピースなどの衣類に使用すれば、単に「AFTERNOON TEA」という商標を使用することで生じる混同のおそれを超え、原告(請求人)またはその関連企業の商品であるかのように誤認される可能性がある。
問題になったのは、登録した形との違いだけではありません。他人の知られた商標に近いロゴを衣類に使い、出所の混同を生じさせた点です。
判決で重視された事情
アレンジの有無だけで結論は出ません。この事件では、次の事情が重なりました。
- 登録商標とは異なる形で使用している
- 既に認知されている他者の商標と酷似している
- 消費者が出所を誤認するおそれがある
変更後の商標が他人の商標にどう近づいたかを、使用する商品と合わせて見ます。
新しいロゴを使う前に、登録商標と先行する他人の商標を照合してください。
PROGREEN事件

登録商標の文字を横並びから段違いに置いたり、一部だけ大きく表示したりすると、見る人の目に入る部分が変わります。登録商標全体では他人の商標と類似しなくても、使用時に強調された部分によって他人の商標との類似が問題になることがあります。
「PROGREEN事件」では、特許庁が商標法51条に基づき登録を取り消し、知財高裁もその審決を支持しました。
事案の概要
登録商標Aは「MultiProGreens」と「マルチプログリーン」を上下2段に並べたものでした。使用商標Bでは「ProGreens」の左上に小さく「multi」が置かれ、「ProGreens」が目立つ配置になっていました。
請求人は「PROGREEN」などの商標を使っていました。商標権者の商品はインターネットで一般消費者へ販売され、請求人の商品は薬局・薬店で対面販売されていました。裁判所は、販売方法が違っても一般消費者には出所の混同を生じさせる具体的なおそれがあると判断しました。
裁判所の判断(当サイトによる要約・知財高判平成24年12月26日、平成24年(行ケ)第10187号)
薬局・薬店などの取引者には混同のおそれが高くないとしても、販売の実情を知らない一般消費者がインターネット上で商標権者の商品を見ると、請求人の商品と出所を混同する具体的なおそれがある。
販売方法が違う場合の判断
- 使用時に一部を強調すると、他人の商標との類似が問題になることがあります。
- 販売経路が異なるだけでは、混同のおそれは消えません。
- 登録した形と使用する形を照合し、他人の商標との関係も確認します。
使うロゴを変える際は、変更後の形でも他人の商標との混同を生じさせないかを確かめます。登録した商標の画像と販売現場で使う画像を並べれば、どの文字を大きくしたか、配置がどう変わったかを確認できます。
3. おわりに
登録した商標と違う形を使いたいときは、変更後の商標も出願するかを検討します。
不使用取消審判では、登録商標と「社会通念上同一」と認められる商標の使用も、登録商標の使用に含まれます。書体だけの変更や、同じ読み方と意味を生じる平仮名・片仮名・ローマ字の表示変更などが例です。この扱いを、商標権の効力が及ぶ範囲や不正使用取消しの判断にそのまま当てはめることはできません。
変更後の商標については、次の点を確かめてください。
- アレンジの程度が大きすぎると、登録商標と「社会通念上同一」とは認められず、不使用取消審判で登録商標の使用と認められないことがあります。
- 他人の商標と類似する形では、指定商品・指定役務との関係によって、他人の商標権への抵触や出所の混同が問題になります。
すべてのアレンジ版を登録するかは、費用と使用予定を比べて決めます。使う形が登録商標とどう違うか、他人の商標に近づいていないかを確認しましょう。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
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