索 引
自分のイラストが、海外の通販サイトで勝手にグッズ化されている。動画がまるごと海外アカウントに転載されて、広告収益まで抜かれている。
いまや創作物は、投稿した瞬間から国境を越えていきます。相談の現場でよく耳にするのが「海外だから、どうせ止められない」という諦めの声です。
ただ、海外が無法地帯というわけではありません。日本の著作物が外国で保護されるルートは、ちゃんと用意されています。鍵を握るのは「国際条約」と「その国の国内法」です。
その仕組みを掴むのにうってつけの題材が、2019年に世界中で話題になった「ウルトラマン×仏像」騒動です。
1. 大原則は「日本の法律は海外にそのまま届かない」
まず押さえておきたいのが、法律の基本構造は属地主義(領域主義)だという点です。
日本の著作権法が直接効力を及ぼすのは、原則として日本国内に限られます。「海外での模倣・販売」を止める場面では、日本の著作権法をそのまま振りかざしても問題は解決しません。
ここで終わらないのが著作権の面白いところです。
著作権の世界には、国際条約によって「外国でも自国民と同じように保護する」という約束が整備されてきました。文化庁の制度解説でも、各国が条約を結んで相互に保護する枠組みがあること、そして保護は相手国の法で行われることが説明されています。
2. 国境を越えるカギはベルヌ条約という世界共通の合意
著作権が国際的に機能するうえで、軸にあるのがベルヌ条約です。加盟国は180を超え、現在は182か国が締約国とされています。
ベルヌ条約(および関連枠組み)を、実務で使う視点から噛み砕くと、ポイントは3つに整理できます。
内国民待遇
「外国人だから弱い」にはさせない、という原則です。ある国で保護を求めるとき、原則としてその国の自国民と同等の保護を受けられます。ベルヌ条約の条文上も、同盟国の国民は他の同盟国で自国民と同様の権利を享受する考え方が示されています。
無方式主義(自動的保護)
「登録しないと守られない」を原則にしない、という考え方です。著作権は、原則として創作した時点で自動的に発生し、登録などの手続を求められません。これがベルヌ条約の大きな発明です。文化庁の資料でも、ベルヌ条約に基づく「方式不要・自動的付与」の説明を確認できます。
守ってくれるのは「その国の法律」
誤解しやすいポイントですが、外国での侵害に対して戦う根拠法は、侵害が起きた国の著作権法になります。「タイで起きた侵害はタイ法で」「米国で起きた侵害は米国法で」、という具合です。
3. ウルトラマンの画像は海外で保護されるのか
日本国内なら、ウルトラマンの画像を無断でコピーして販売すれば複製権侵害、勝手に手を加えて販売すれば翻案権侵害などに当たり得ます。著作者人格権として同一性保持権(無断改変を拒む権利)も問題になります(著作権法20条・21条・27条)。
では海外ではどうでしょうか。
見るべき観点は「その国が条約に参加しているか」と「その国の国内法に、複製・翻案を禁止する仕組みがあるか」です。
今回の題材であるタイは、ベルヌ条約の締約国です。WIPOの条約データベースでも、タイがベルヌ条約に加入していること(加入日・発効日)を確認できます。日本の著作物がタイで保護される土台はある、と言っていい状況です。
ただし繰り返しますが、「タイで保護される」とは「日本の著作権法がタイで適用される」という意味ではありません。タイの著作権法にもとづいて、日本由来の著作物が保護される、という意味です。
4. タイで起きた「ウルトラマン×仏像」騒動が炎上した理由
2019年、タイ北東部で展示された絵画が物議を醸しました。中身は、仏陀のイメージをウルトラマン風に描いたもの。作者は大学生の女性で、批判の高まりを受けて謝罪したと報じられました。
この騒動が大きく拡散した背景には、論点が二重だった事情があります。
仏教国タイの宗教的感情・宗教保護の問題
報道では、宗教侮辱に関する法での処罰を求める動きがあったことも伝えられました。
著作権の問題
宗教の話と、著作権の話は別レーンで扱われます。
仮に宗教的な側面で謝罪して矛を収めたとしても、著作権侵害が成立するなら、著作権の側は別の問題として残ります。
この「一つの行為が複数の法律問題を同時に起こす」という構造は、商標・不正競争の現場でもよく見る話です。
5. タイの著作権法で見ると「複製」「翻案」はどう扱われるか
タイの著作権法では、用語定義として「reproduction(複製)」「adaptation(翻案)」が置かれています。複製はコピー・模写・録音録画などを広くカバーし、翻案は変形・改変・模倣といった実質部分の変換として解釈されます。
侵害の中核規定として、許可なく複製・翻案をすることや、公衆への伝達が侵害になり得ることが明記されています(Section 27)。
タイでも結局は日本と同じ発想です。「そのままコピーして売る」のもアウトになり得るし、「ちょっと手を加えた二次創作っぽいものを売る」のもアウトになり得る。
ここで誤解が出やすいのが、「改変してるなら別物だからセーフでしょ?」という感覚です。
著作権は、アイデアではなく表現を守る仕組みです。実質的に似ている・依拠している、となれば、改変していても危険域に入ります(この考え方自体はタイ法の構造からも読み取れます)。
6. 「買って転売した業者」も無傷ではない:「知って売った」という論点
もう一段、実務で効いてくるのが流通側の責任です。
タイ法には「それが他人の著作権侵害品だと知っていた、または知り得たのに、利益目的で販売等をした場合は侵害」という規定があります(Section 31)。
商標の偽ブランド流通と同じ発想で、現実の被害が製造者だけで完結しない前提に立った条文設計です。侵害品は、作った人だけでなく、広げた人によっても被害が拡大します。だから法は、流通にも手を伸ばします。
7. 現実の動き方:海外では「自動的に警察が動く」わけではない
ここが大事な現場感です。
条約があっても、法律があっても、放っておけば自動的に救済されるとは限りません。著作権は、ライセンスの有無が外から見えにくい権利です。行政やプラットフォームは、権利者の申告や証拠提示を起点に動くのが現場の実情です。
実務で海外侵害に遭ったときの流れを整理すると、こうなります。
「どこの国で」「誰が」「どのサイトで」「何を売っているか」をまず証拠化する。そのうえで、その国の制度に合わせて削除申立て・警告・交渉、場合によっては現地代理人を通じた手続へ進む。この段取りの設計こそ、海外対応の勝敗を分けます。
そして、費用対効果の現実も無視できません。海外での法的措置は、国内より重くなりがちです。権利者は、被害規模・ブランド毀損・今後の抑止効果まで含めて、総合的に判断します。2019年の騒動報道が示すように、社会的な炎上の有無が対応を左右するケースもあります。
8. 商標のプロとして一言:海外で作品を守るなら著作権だけに頼らない
ここまで著作権の話をしてきましたが、キャラクターやシリーズ作品の実務では、「著作権×商標」の二段構えが効いてきます。
著作権は自動的に発生します。一方、商標は原則として登録主義で、国ごとに手当てが要ります。ただ、商標には商標の強みがあります。名称・ロゴ・ブランド表示の差止めや模倣対策は、商標のほうがスパッと刺さる場面があります。
タイは、商標の国際登録制度であるマドリッド議定書にも加盟しています。「海外でブランドを守る設計」を取りやすい環境が整っているということです。創作活動がビジネスと結びつくほど、ここは後から効いてくる論点になります。
9. まとめ:著作権は国境を越えるが、守られ方にはコツがある
日本の著作物は、外国でも保護され得ます。その根拠は、ベルヌ条約を中心とする国際枠組みと、各国の国内法です。
海外での救済は「日本の常識の延長」では動きません。覚えておいてほしい一文があります。
「著作権は国境を越える。でも、手続は国境を越えない。」
海外で模倣されたときに要るのは、感情よりも段取りです。国・媒体・侵害態様に合わせて、著作権(場合により商標も)で、最短距離のルートを選ぶ。これが、現実に「止める」ための実務です。
※追記:私のコメントは、テレビ朝日のスーパーJチャンネル(2019年9月14日放送)で、当時の出来事として放送されました。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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