索 引
1. 出願前に、専門家と何を話しておくか
商標登録を依頼するとき、見積書と名前の入力だけで願書の提出まで進んでいませんか。登録できた後に「この商品は権利の範囲に入っていなかった」と分かっても、元の出願に権利を継ぎ足すことはできません。提出前に話しておきたいのは、どの商標を、誰の名義で、どの商品やサービスについて取るのかという中身です。
専門家との協議は、難しい法律用語を覚えるための時間ではありません。お客さまの事業を願書の言葉に置き換え、指定漏れや名義の間違いを提出前に見つけるための時間です。ここでは、相談に持参する資料、調査結果の読み方、願書の確認、登録後の管理までをご紹介します。
2. 商標登録を済ませておく理由と、出願の順序
商標権は、特許庁の審査を通り、設定登録を受けて発生します(商標法18条)。願書を提出しただけで権利者になるわけではありません。同じ又は類似の商標を、同じ又は類似の商品・サービスについて別々の人が出願した場合は、先に出願した人が優先されるのが原則です(8条)。
先に使っていた事実だけで、いつでも他人の登録に対抗できるわけではありません。先使用権には、他人の出願前からの使用や周知性などの要件があります(32条)。商品を販売してから名前を調べるのではなく、候補を決めた段階で調査し、出願の時期を相談しておく方が、後から名称変更を迫られる事態を避けやすくなります。
ただし、他人に登録されたらどのような使い方も一切できない、という説明も正確ではありません。商標や商品が似ているか、どのような表示の使い方か、権利の効力が及ばない場合に当たるかを個別に見ます。自己判断で使用を続けたり、逆にすぐ名前を捨てたりする前に、登録内容と実際の使用を照合します。
日本の登録で海外の権利まで取れるわけでもありません。海外販売や現地でのライセンスを予定しているなら、その国の出願をいつ行うかも相談内容に加えます。国内の願書が終わってから考えると、発売日との調整が難しくなることがあります。
3. 納得のいく出願方針を決めるための資料
商標と名義を決める
名前を文字で取るのか、ロゴの図形を含めて取るのかで、出願する商標が変わります。使う予定の表記、読み方、ロゴ画像、商品の写真、ウェブサイトの画面などを見せてください。ロゴだけの登録で、名前の文字まで十分に保護できるかも、調査と併せて確認します。
会社の事業なのに代表者個人の名義で出す、共同事業なのに一方だけの名義で出すなど、名義の選択が後で問題になることもあります。設立予定の会社や共同開発者がいるなら、その事情を先に伝えます。将来の権利移転を予定している場合も、契約と名義をそろえて考えます。
指定商品・指定役務の漏れを確かめる
扱う商品や提供するサービスを、普段使っている言葉で説明して構いません。専門家が分類と表示に当てはめます。既存の商品だけでなく、開発中の商品、関連商品の展開、他社へのライセンス予定も伝えると、最初の出願で併記できる範囲を検討できます。
たとえば第18類の傘を申請するなら、同じ区分の「かばん類,袋物」を外していないかを確認します。同一区分の商品を併記しても特許庁料金は増えません。商品名を1つ増やすことと、別の区分を増やすことは料金上の扱いが違います。「区分を選んだので十分」とせず、願書に書く商品・サービスを1つずつ見ます。
同業者の登録も参考になります。ただし、その登録自体に漏れがある場合や、事業の内容が違う場合もあります。競合の願書をそのまま写すのではなく、自社で取れる範囲が抜けていないかを専門家に説明してもらいます。
調査結果と見積りを一緒に読む
調査では、同じ文字の登録だけでなく、読み方や見た目などが似る商標も検討します。データベースで完全一致が見つからなかったことと、審査を通ることは同じではありません。気になる先行商標があるなら、どの商品で問題になるのか、名称を変える案があるかを相談します。
見積りは出願時と登録時の金額を分け、拒絶理由への対応、区分の追加、更新時の費用も確認します。1区分・10年分一括納付なら特許庁料金は出願料12,000円と登録料32,900円の合計44,900円です。代理人の手数料は別なので、総額だけでなく、その料金にどの作業が含まれるかを見てください。
4. 後で分かる指定漏れと、出願前の最終確認
出願後の変更がすべて禁止されているわけではありません。誤記の訂正や指定商品の減縮など、認められる補正はあります。しかし、指定商品の範囲を広げる補正はできません。「傘」だけで出した願書に、後から「かばん類,袋物」の権利を足すという修正はできないのです。
漏れた商品を取るには別出願を検討します。新しい出願日で審査されるため、先の出願と同じ優先順位は得られません。費用を追加で払えば必ず登録できるという問題でもありません。その間に他人の出願があれば、選んだ名前での事業が難しくなることがあります。
このため、提出前に最終版を見せてもらい、次の項目を確認してください。分からない表示は、そのまま承認せず、具体的にどの商品を含むのか尋ねます。
- 出願する商標の文字・読み方・図形は、実際に使うものと合っているか。
- 出願人の名義と住所は、権利を持つべき人・会社のものになっているか。
- 商品・サービスの表示に漏れがないか。同じ区分で併記できる商品を外す理由は説明されたか。
- 先行商標の調査結果と、拒絶理由が来た場合の対応方針を聞いたか。
- 提出前に代理人本人が内容を確認し、最終版を依頼者と共有したか。
指定漏れが後で分かったとき、代理人にどのような責任があるかは、依頼した内容や説明、確認の経緯によって変わります。責任の議論をする前に、相談内容と最終版を残し、申請する範囲を双方で確認しておくことが、事故を防ぐ作業になります。
5. 提出から登録後まで、担当者に確認すること
願書を提出すると出願番号が付き、その後、方式や登録要件の審査が行われます。拒絶理由通知が届いた場合は、理由を読み、意見書や補正で対応できるかを検討します。どの商品で問題が起きたかを説明せず、権利範囲だけを削って登録を急いでいないかも確認する点です。
登録査定が出た後は、期限内に登録料を納めます。登録されたら、商標、名義、指定商品・指定役務が予定した内容になっているかを確認し、登録番号と更新期限を記録します。商標権の存続期間は設定登録から10年で、更新できます(商標法19条)。
登録した商標の使用資料も保存します。商品の写真だけでなく、いつ誰が販売したかが分かる請求書や納品書、日付入りのカタログなどです。不使用取消審判を請求された場合には、請求の対象と証明する使用を対応させて検討します。
登録後に商品を増やした、ロゴを変えた、会社名が変わった場合も、取得済みの権利で足りるか、追加出願や名義の手続きが要るかを確かめます。最初の相談で連絡窓口と登録後の管理範囲まで聞いておくと、変更のたびに誰へ連絡するか迷わずに済みます。
当事務所では、実務10年以上の弁理士・弁護士がお客さまを直接担当します。候補の名前や商品が決まった段階で、無料調査のお申込みからご相談いただけます。商標登録の費用では、出願から登録までの内訳をご案内しています。
6. 専門家との協議についてよくある質問
Q1. 商標登録には、どのような手続きがありますか?
商標と指定商品・指定役務、名義を決め、調査の上で願書を提出します。特許庁の審査を経て登録査定が出たら登録料を納め、設定登録によって商標権が発生します。拒絶理由への対応が入ることもあります。
Q2. 商標を選ぶときは、何を見てもらえばよいですか?
文字、読み方、ロゴ、商品・サービスの内容を一緒に見せてください。他人の商標との類似に加え、商品の特徴を説明するだけの名前ではないかなど、登録要件を検討します。
Q3. 自分で出願することもできますか?
自分で出願できます。代理人への依頼は必須ではありません。ただし、指定商品の漏れや先行商標との関係は、願書の形式だけを整えても解決しません。自己出願の場合も、提出前にその範囲を確かめてください。
Q4. 専門家に相談する利点は何ですか?
事業の内容を願書に反映し、同じ費用で取れる商品の漏れや、名義・商標の選び方の問題を提出前に検討できることです。誰が調査し、誰が願書の最終確認をするかまで確認すると、依頼する作業が明確になります。
Q5. 登録後に保護範囲を広げられますか?
既存の商標登録に指定商品を追加して範囲を広げることはできません。追加で保護したい商品・サービスは別出願を検討します。先の出願日を引き継げるわけではないため、出願前の指定が大切です。
参考資料
商標法3条・6条・8条・16条の2・18条・19条・25条・26条・32条・50条、特許庁「初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~」「産業財産権関係料金一覧」「手続補正書(商標出願の指定商品又は指定役務の補正)の書き方について」。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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