索 引
J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で自社の登録商標を見ると、「称呼(参考情報)」の欄に、想定していた読み方と違うカタカナが表示されていることがあります。この称呼は特許庁が検索のために付与する参考情報で、願書で指定する項目ではありません。
出願人の希望で称呼を書き換える手続は用意されていません。ただし、称呼の表示が違っていても、商標権の内容や権利範囲が変わるわけではありません。この記事では、称呼の位置づけ、権利範囲との関係、意図した読み方を伝えたい場合の選択肢をご説明します。
1. J-PlatPatの「称呼(参考情報)」とは
J-PlatPatは、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供する特許・実用新案・意匠・商標の情報検索サービスです。商標の登録情報には、商標の画像や文字、出願人、指定商品・指定役務、区分、類似群コードなどに加えて、「称呼(参考情報)」が表示されます。
称呼は、その商標が取引の場でどのように呼ばれるかをカタカナで表したものです。特許庁が審査や検索の便宜のために付与しており、一つの商標に複数の称呼が付くこともあります。例えば、アルファベット表記の商標なら、英語読みとローマ字読みの両方が付与される場合があります。
「参考情報」と付いているとおり、称呼は商標登録原簿や商標公報に記載される権利内容ではありません。商標登録の内容は、願書に記載した商標そのものと、指定商品・指定役務によって定まります。
2. 願書に読み方を指定する欄はない
商標登録出願の願書には、商標を記載する欄、指定商品・指定役務と区分を記載する欄、出願人の情報などがありますが、商標の読み方を届け出る欄はありません。音商標や立体商標などで必要になる「商標の詳細な説明」も、文字商標の読み方を指定するための項目ではありません。
称呼は、出願後に特許庁側で付与されます。その際の基準は出願人の意図ではなく、一般の需要者や取引者がその商標をどう読むかという客観的な見方です。造語や当て字を含む商標では、出願人の想定と異なるカタカナが付くことが起こります。
出願人の希望に基づいて称呼を追加・変更する手続は、特許庁にもJ-PlatPatにも用意されていません。明らかな入力ミスと考えられるデータについては、J-PlatPatのヘルプデスクや特許庁へ問い合わせる方法がありますが、これは権利内容の訂正ではなく、検索データの確認にとどまります。対応の有無や結果は個別の判断になるため、必ず直せるとは言えません。
3. 読み方が違っても権利範囲は変わらない
商標権の効力は、登録商標と指定商品・指定役務を基準に定まります(商標法25条、37条)。称呼の表示が想定と違っていても、登録された商標の文字や図形そのものが変わるわけではないため、権利範囲に影響はありません。
商標の類否を判断する場面でも、比較の対象になるのは登録商標そのものです。外観、称呼、観念の三つの要素と取引の実情を総合して判断され、その際の称呼も、需要者が実際にどう読むかという観点から検討されます。J-PlatPatに表示されたカタカナが、そのまま裁判や審判での結論を決めるものではありません。
実務上の影響が出るとすれば、第三者が称呼検索で先行商標を調べるときに、自社の登録が想定した読み方では見つかりにくくなる場面です。ただし、これは検索のしやすさの問題であり、商標権の有効性や効力の問題ではありません。
4. 意図した読み方を伝えたいときの選択肢
商品名やブランド名の読み方を、需要者にも審査でも確実に伝えたい場合は、商標の構成自体で示す方法があります。
- 漢字や英字の商標に、ふりがなやカタカナ表記を併記して出願する(二段併記)
- カタカナだけの商標を別に出願する
- ロゴのデザインの中に読み方を組み込む
二段併記の商標は、併記した読み方が称呼として付与されやすくなります。一方で、実際の商品やパッケージでは漢字だけ、英字だけで使うことが多いなら、登録商標と使用態様のずれが問題になる可能性があります。登録商標をそのまま使用していないと、不使用取消審判(商標法50条)で争われたときに、使用している商標が登録商標と社会通念上同一と認められるかが論点になります。
カタカナ表記を別出願する場合は、区分ごとの出願料と登録料がもう一件分かかります。読み方をどこまで固める必要があるかは、事業での使い方、想定される模倣の形、費用の三つを比べて決めます。
5. 称呼検索で先行商標を調べるときの注意
J-PlatPatの商標検索では、称呼を入力して読み方の近い商標を探す「称呼検索」が使えます。自分の商標に想定と違う称呼が付くことがあるのと同じで、他社の商標にも想定外の称呼が付いています。調査のときは、次の点に注意します。
- 英語読み、ローマ字読み、省略形など複数の読み方で検索する
- 読み方だけでなく、文字そのものの検索や図形の検索も組み合わせる
- 自社の商品・役務に対応する類似群コードで絞り込む
- 出願・登録のデータ反映には時間差があることを前提にする
称呼検索は便利な道具ですが、一つの読み方でヒットしなかったことは、類似する先行商標がないことの証明にはなりません。出願前の調査では、複数の検索方法の結果を突き合わせ、見つかった商標ごとに指定商品・指定役務と法的状態を確認します。
6. よくある質問
Q1. J-PlatPatに表示された称呼が間違っています。修正を申請できますか?
出願人の希望で称呼を変更する手続はありません。明らかな入力ミスと考えられる場合はJ-PlatPatのヘルプデスクや特許庁に問い合わせる方法がありますが、権利内容の訂正ではなく、対応は個別の判断になります。
Q2. 願書に読み方を書く欄はありますか?
ありません。称呼は出願後に特許庁が付与する参考情報で、出願人が指定する項目ではありません。
Q3. 称呼が違うと商標権の範囲が狭くなりますか?
狭くなりません。権利範囲は登録商標と指定商品・指定役務で定まり、称呼の表示は権利内容ではありません。
Q4. 読み方を確実に伝えたい場合はどうすればよいですか?
漢字や英字にカタカナを併記した商標や、カタカナだけの商標を出願する方法があります。実際の使用態様との整合や費用と合わせて検討します。
Q5. 称呼検索で見つからなければ、その名称は使えますか?
断定できません。複数の読み方や文字検索、類似群コードでの絞り込みを組み合わせ、見つかった商標を個別に確認する必要があります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
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