索引
1. や台ずし対磯丸すし訴訟の概要
「や台ずし」を運営するヨシックスは、「磯丸すし」を展開していたSFPホールディングスを相手に、店舗外観の使用差止めと損害賠償を求めました。報道によれば、名古屋地方裁判所は2018年9月13日、原告の請求を棄却しました。
この事件では、二つの外観が似ているかだけでなく、や台ずしの店舗外観が不正競争防止法上の「商品等表示」に当たるかが争点になりました。店舗の外観は、看板の店名とは違い、それ自体が常に営業主体を示す表示になるわけではありません。
や台ずし対磯丸すし・要点カード
不正競争防止法店舗外観周知性混同のおそれ
裁判所:名古屋地方裁判所
言渡日:2018年9月13日
請求:外観の使用差止めと約471万円の損害賠償
報道された結論:原告請求棄却
- 原告外観に同種店舗と異なる顕著な特徴があるか
- その外観が原告の営業を示すものとして需要者に広く認識されていたか
- 被告の使用で営業主体の混同が生じるおそれがあるか
出典:日本経済新聞2018年9月13日付「外観『酷似』訴え認めず 『や台ずし』敗訴、名古屋地裁」。法制度の説明は経済産業省・特許庁資料で補正。
2. 店舗外観が商品等表示になる条件
経済産業省の不正競争防止法逐条解説は、店舗外観が商品等表示になり得る条件を示しています。要点は、外観が同種店舗とは異なる顕著な特徴を持ち、継続使用や宣伝などによって、特定事業者の営業を示すものとして需要者に広く認識されていることです。
不正競争防止法2条1項1号は、周知な商品等表示と同一または類似の表示を使い、他人の商品または営業と混同させる行為を対象とします。2号は著名な商品等表示の冒用を対象とし、1号と要件が同じではありません。「周知または著名なら一律に保護される」とまとめず、どの類型を主張するかを分けて考えます。
外観の一部が似ているだけでは、商品等表示性、周知性、類似性、混同のおそれが当然に認められるわけではありません。看板、配色、素材、窓や入口の配置、店内構造などが作る全体の印象と、その使用実績が証拠になります。
3. 四つの法制度を混同しない
店舗の外観や内装には、不正競争防止法、意匠法、商標法、著作権法が関係し得ます。ただし、保護の目的、取得方法、要件は別です。
| 制度 | 保護を検討する対象 | 主な確認点 |
|---|---|---|
| 不正競争防止法 | 営業主体を示す店舗外観 | 顕著な特徴、周知性、類似性、混同のおそれ |
| 意匠法 | 建築物・内装のデザイン | 出願、登録、新規性、創作非容易性、権利範囲 |
| 商標法 | ロゴ、色彩、位置、立体的形状など | 識別力、使用による識別力、指定商品・指定役務 |
| 著作権法 | 創作的表現に当たる建築物など | 著作物性、依拠性、表現上の類似 |
2020年改正は意匠法の保護対象拡大
2020年4月1日から、建築物と内装のデザインが意匠法の保護対象になりました。これは意匠法の改正です。店舗外観の立体商標が2020年に初めて制度化された、という意味ではありません。
立体商標と新しいタイプの商標
立体商標制度は平成8年改正で導入されました。色彩のみからなる商標、位置商標など五つの新しいタイプの商標は、2015年4月1日から出願受付が始まりました。店舗の外観や内装を立体商標として出願する場合も、商標として出所を示す識別力が問われます。
4. コメダ珈琲事件との違い
東京地方裁判所は2016年12月19日の仮処分決定で、コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗について、外装、店内構造、内装を組み合わせた外観の商品等表示性を認めました。裁判所は、同種店舗と異なる顕著な特徴と、関西地方の需要者に広く認識されていたことを具体的な証拠から判断しています。
ここから分かるのは、全国的な知名度や店舗数だけで結論が決まるわけではないことです。地域内の認識、標準化された外観の使用状況、広告、来店者数などを積み上げて判断します。や台ずし事件と比べる場合も、「有名かどうか」という一語だけで差を説明するのは正確ではありません。
5. 店舗デザインを守る証拠と出願
- 外観仕様を定める:看板、配色、素材、入口、窓、照明、什器の配置を図面と写真で残します。
- 使用履歴を残す:開店日、店舗ごとの採用状況、改装履歴を記録します。
- 認知の証拠を残す:広告、報道、ウェブ掲載、来店者数、調査資料を日付付きで保管します。
- 出願時期を検討する:公開前の意匠出願、ロゴや立体的形状の商標出願を事業計画と合わせます。
- 契約をそろえる:設計者からの権利帰属、写真利用、加盟店のデザイン遵守を契約で確認します。
意匠権は登録されたデザインを基準に保護し、商標権は登録商標と指定商品・指定役務を基準にします。不正競争防止法は、登録がなくても保護される余地がある一方、周知性などを自ら立証しなければなりません。複数の制度と証拠管理を組み合わせる発想が現実的です。
6. よくある質問
Q1. 店舗外観が似ていれば差止めできますか?
類似だけで結論は出ません。不正競争防止法では、原告外観の商品等表示性や周知性、混同のおそれなどを検討します。登録意匠や登録商標がある場合は、その権利範囲も別に確認します。
Q2. 店舗の内装も意匠登録できますか?
2020年4月1日以降、要件を満たす内装デザインは意匠登録の対象です。公開前の出願が基本となるため、設計段階で検討します。
Q3. 立体商標は2020年に始まった制度ですか?
違います。立体商標制度は平成8年改正で導入されました。2020年には、店舗等の外観・内装に関する立体商標の審査運用が見直されています。
Q4. 色の組合せだけでも商標登録できますか?
色彩のみからなる商標の制度があります。ただし、商品や役務の出所を示す識別力が必要で、使用実績による立証が問題になることがあります。
Q5. フランチャイズでは何を残すべきですか?
標準デザイン、施工図、店舗写真、例外店舗の理由、広告資料を継続して保管します。加盟店契約には、看板や外観の使用方法と変更手続も定めます。
7. 店舗外観をブランド資産にする
店舗外観の保護は、訴訟の直前に始めても証拠が足りないことがあります。設計時に権利化を検討し、開店後は同じ特徴を継続して使い、広告と利用実績を記録します。その積み重ねが、外観を単なる装飾から営業の出所を示すブランドへ育てます。
私の解説コメントは、2017年3月17日の日本テレビ「news every.」で放送されました。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
- 経済産業省「不正競争防止法の概要」
- 経済産業省「不正競争防止法逐条解説」
- 東京地裁平成28年12月19日決定(コメダ珈琲事件)
- 特許庁「建築・内装デザイナー向け情報」
- 特許庁「立体商標の見直しに関するQ&A」
- 特許庁「新しいタイプの商標の保護制度」
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