1. 菓銘と商標の関係
和菓子には、季節、和歌、土地の歴史、店の思いを数文字に込めた「菓銘」があります。形や味が似た菓子でも、菓銘を見ればどの店の商品か思い出せる。そのように使われる名前は、商品の出所を示す商標として機能しています。
商標登録の対象は、作った言葉に限られません。古典に由来する言葉や既成語でも、指定商品との関係で自他商品を見分ける目印になるなら、登録の余地があります。反対に、店で初めて考えた名前でも、菓子の原材料や形、季節を普通に説明するだけであれば、識別力がないと判断されることがあります。
保護したいのが店名なのか、一つの商品名なのか、シリーズ名なのかで出願方針は変わります。「和菓子店の名前を登録すれば、その店の菓銘がすべて保護される」とは限りません。
2. すべての菓銘を独占できるわけではない
季節や菓子の特徴を表す言葉
「初雁」「菊の被綿」のように、古くから秋の情景や行事を表してきた言葉があります。同じ題材を複数の菓子店が用いる場合、その言葉だけを一店の商標として登録できるとは限りません。
商標法3条1項は、普通名称、慣用商標、品質・原材料・効能・用途・形状などを普通に表す表示、その他需要者が出所を認識できない表示を登録対象から除いています。同じ菓銘が他店でどのように使われているかを調べることから始めます。
先に出願された商標も確認する
識別力がある菓銘でも、他人の先行商標と同一・類似で、指定商品・役務も同一・類似なら、登録できない場合があります。漢字、ひらがな、ローマ字を個別に完全一致検索するだけでは足りません。呼び方、見た目、意味が近い商標まで調べます。
調査で候補名に問題が見つかったときは、ロゴの枠を付けるだけで解決するとは限りません。実際に使い続けられる別の菓銘を考えるか、文字商標とロゴ商標の保護目的を分けて出願します。
3. 出願前に決める商品と表示
菓子と小売・飲食サービスは別に考える
和菓子、洋菓子、パンなどの商品は、商品・役務の区分では主に第30類が検討対象です。ただし、「第30類」と書くだけではなく、使う商品を指定します。店舗やオンラインショップで他社の商品も取りそろえて販売するなら小売等役務、店内で飲食物を提供するなら飲食物の提供について、別の区分も検討します。
実際に使う形を選ぶ
包装紙では漢字、ウェブサイトではひらがな、店頭では図形と一体のロゴというように表示がばらばらだと、どの形を出願するかが問題になります。販売時に継続して使う表示を基本にし、パッケージ、シール、値札、メニュー、商品ページで同じ表示を使えるように整えます。
季節限定品は販売期間が短いため、証拠が散逸しがちです。発売日、包装の写真、商品ページ、チラシ、販売地域、売上記録を年ごとに保存しておくと、後の更新や紛争時に使用状況を説明しやすくなります。
4. 老舗の名称と個別の菓銘
旧本文では、京都の和菓子店「鶴屋吉信」と菓銘「紡ぎ詩」の登録情報を紹介していました。店の名称と個別商品の名称は、使われ方も管理単位も異なります。このため、両方を継続的に使うなら、それぞれの保護を検討する意味があります。
上記は旧本文に保存されていた登録カードの内容です。商標権は更新、移転、指定商品の書換えなどにより表示が変わることがあります。出願や警告の根拠にする場合は、登録番号からJ-PlatPatの最新の経過情報と登録原簿を確認してください。
5. 登録後にすること
表示と使用証拠をそろえる
登録商標と大きく異なるロゴだけを使い続けると、取消審判への対応や権利行使で使用の立証が難しくなることがあります。商標を改めるときは、現在の登録の範囲で使用と認められるか、新たな出願が必要かを確認します。
類似名を見つけたら使い方を確認する
商標権25条は、指定商品・役務について登録商標を使う権利を定めています。一方で、似た名前がウェブ上にあるだけでは侵害と決まりません。商標の類似、商品・役務の類似、商標としての使用か、先使用権などの抗弁はないかを分けて検討します。
警告前に、商品ページ、包装、販売者情報、確認日時が分かる記録を残します。商標法36条に基づく差止め、損害賠償、表示の変更や使用条件の合意など、事実と事業目的に合う対応を選びます。
6. よくある質問
Q1.季節の言葉を菓銘にしたら登録できますか?
言葉だけでは決まりません。指定商品との関係で、単なる季節表現や品質表示ではなく、特定の店の商品を示すと認識されるかを検討します。
Q2.商品の発売後に出願してもよいですか?
発売後でも出願はできますが、その間に他人が先に出願するリスクがあります。菓銘と包装が固まった段階で調査し、発売日から逆算して出願します。
Q3.店名を登録すれば、すべての菓銘も守れますか?
自動的には守られません。店名と個別の菓銘は別の表示です。長期間販売する主力商品など、店と切り離しても識別される菓銘は個別出願を検討します。
Q4.類似商標の調査は完全一致検索で足りますか?
足りません。文字が違っても、呼び方や意味、見た目が近い商標が問題になることがあります。指定商品・役務の類似も同時に確認します。
Q5.商標登録で菓子の形や包装もすべて守れますか?
商品名の文字商標だけで、菓子の形や包装のデザイン全体が保護されるわけではありません。ロゴ商標、立体商標、意匠権、著作権、不正競争防止法などの要件を分けて検討します。
まとめ
菓銘は、文化的な意味と商品の出所を示す役割を併せ持つことがあります。保護の必要性は、名前の美しさや創作の手間だけでは決まりません。識別力、先行商標、実際に使う商品・役務、表示方法を確認し、事業で使い続ける菓銘から出願方針を決めてください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
- e-Gov法令検索「商標法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000127
- 特許庁「商品・役務の区分や類似群コードについて」 https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/bunrui/index.html
- 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat) https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
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