アンブッシュ・マーケティングとは?商標権だけではない法的保護の表と裏

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(1)アンブッシュ・マーケティングとは?

アンブッシュ・マーケティング(待ち伏せマーケティング)は、イベントの公式スポンサーではない広告主が、あたかもそのイベントに関与しているかのように見せかけるマーケティング手法です。広告業界やライセンス業界の専門用語として知られていますが、一般の人にはあまり馴染みがないかもしれません。

ウィキペディアによると、アンブッシュ・マーケティングは以下のように説明されています

アンブッシュマーケティング (英: Ambush marketing) または待ち伏せマーケティングとは、広告主がイベントを「待ち伏せ」(Ambush) して他の広告主との露出を競うマーケティング戦略。

イベントの公式スポンサーになることなく、そのイベント(の露出)に便乗して広告活動を行うというものであり、広告主はイベントに関連する特定の商標を用いずに広告対象を暗示させ、消費者に対してあたかも広告対象がイベントと深く関わっているように見せるというものである。

「WIKIPWDIA」から引用

アンブッシュ・マーケティングの具体例

アンブッシュ・マーケティングは大規模なイベントの際に、公式の許可を得ていないにもかかわらず、あたかも許可を得ているかのように見せる広告活動が含まれます。以下はその具体例です。

  • 1. イベント会場までの道路に垂れ幕を掲示:イベントロゴと無許可の宣伝広告文を掲載した垂れ幕を、道路の両側に掲示する
  • 2. 上空にアドバルーンを揚げる:イベント名と共に無許可の宣伝広告文を記載したアドバルーンを揚げる
  • 3. 店頭に応援メッセージを掲示:イベントのシンボルマークと共に、無許可の宣伝広告文を店頭に張り出す
  • 4. 観客に特定色のTシャツを着せる:イベント会場の観客席がその色で埋まるくらいに、無許可の宣伝広告文とイベントのシンボルマークが表示されたTシャツを観客に配布する
  • 5. 観客席に横断幕を掲げる:イベントのネーミングと共に、無許可の宣伝広告文を記載した横断幕を掲げる

商標権と法的リスク

イベントに関連するネーミング、ロゴ、シンボルマーク等を無断で使用すると、商標権の侵害となり問題が生じます。大規模なイベントの場合、主催者側は通常、これらの商標権をしっかりと押さえています。商標登録が行われていないという初歩的なミスは滅多にありません。そのため、商標権がないと即断してイベント関連のロゴを使用することは非常にリスクが高いと言えます。

アンブッシュ・マーケティングを行う際は、法的リスクを十分に理解し、注意を払うことが重要です。公式スポンサーシップを取得するか、イベント主催者との協力を検討することをお勧めします。

(2)登録商標を使わなければ商標権の問題は生じないのでは?

登録商標を使わないだけでは安全ではない場合がある

イベント名やシンボルマークなど、イベントに関連する登録商標を使用しなければ問題ないと考える方もいるかもしれません。しかし、この考え方は非常にリスクがあります。

商標権は、登録された商標だけでなく、それに類似する表現にも適用されます。したがって、登録商標を暗示させるような表記を行うと、商標権侵害で訴えられる可能性があります。

さらに、商標登録されているのはイベント名やシンボルマークだけではありません。キャッチコピーやマスコットキャラクターなども商標登録されている場合があります。このような権利設定がされているものを、許可なく無意識に使用しないよう注意が必要です。

商標権を理解し、リスクを避けるためには、イベントやキャンペーンの前に十分な調査を行い、必要に応じて専門家に相談することが重要です。

(3)商標権絡みの表記をしなければ大丈夫か?

商標法以外の法律も働く点に注意が必要

商標権を避けるためにイベントに関連する商標を一切使用しないという考え方がありますが、それでもイベント主催者から訴えられる可能性は依然として残ります。イベントを保護しているのは商標法だけではないからです。

例えば、商標登録がされていない場合でも、有名な表示を無断で使用すると不正競争防止法違反で訴えられることがあります。また、イベント会場で無断で宣伝広告行為を行うと、会場利用規約に反するとして排除される可能性もあります。

さらに、無断で横断幕を掲げると、イベント会場の敷地内に無断侵入したとして訴えられることも考えられます。法律上、保護されるべき利益の侵害があった場合には、不法行為が成立する場合があり(民法709条)、何が保護されるべき利益に当たるかは当事者同士で争いになることがあります。ここでイベント主催者側が利益が侵害されたと感じた場合、裁判に訴えることができる状況になります。

したがって、商標権をクリアしたとしても、それだけで安心はできません。全てはイベント主催者側の判断にかかっているのです。

(4)五輪主催者側は本気

アンブッシュ・マーケティング排除の動き

大規模なイベントでは、アンブッシュ・マーケティングを排除しようとする動きが強まっています。

例えば、前回のオリンピックやパラリンピックのブランドを守るため、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会はアンブッシュ・マーケティングを厳しく警告しています(「大会ブランド保護基準」から)。

オリンピックを盛り上げようとする善意の行為であっても、知的財産権に抵触する行為は、大会組織委員会側からすると許容できません。

オリンピックは多くのスポンサーの支援で成り立っています。もし、アンブッシュ・マーケティングが容認されると、正規のスポンサーが減少し、競技運営に支障をきたす恐れがあります。このため、五輪主催者側はアンブッシュ・マーケティングの排除に全力を尽くしています。

実際、前回の東京オリンピックでは、五輪関連のエンブレムを販売目的で所持しているだけで逮捕された例もあります。特に、ピンバッジ加工業者や印刷業者は、五輪関連の発注があった場合、その正当性を確認することが重要です。これを怠ると、突然の検挙に繋がる可能性があるため、十分な注意が必要です。

アンブッシュ・マーケティングのリスクを理解し、適切な手続きを踏むことが、ビジネスを守るために不可欠です。

五輪絡みで逮捕者も

東京五輪ロゴ、不正使用の疑い ピンバッジ販売の男逮捕

2020年東京五輪・パラリンピックの文字商標を無断で使ったピンバッジを販売したとして、警視庁は、愛知県愛西市稲葉町のインターネットショップ経営者を商標法違反(侵害とみなす行為)容疑で逮捕し、15日発表した。

2017年6月15日付「朝日新聞」から

五輪ロゴを無断使用 ピンバッジ販売目的で所持、中国籍の2人を逮捕 警視庁

東京五輪・パラリンピックの文字商標「TOKYO2020」を無断使用したピンバッジを販売目的で所持していたとして、警視庁生活経済課は商標法違反の疑いで、中国籍の夫婦を逮捕した。2人とも容疑を認めている。

2017年10月24日付「産経ニュース」から

(5)まとめ

ゲリラマーケティングは、実行する側にとってはちょっとした知恵比べかもしれませんが、イベントの主催者側にとっては信用にただ乗りする行為であり、見逃すことはありません。主催者側が黙っている方が不自然だからです。

アンブッシュ・マーケティングは発想としては興味深いものの、実行に移すと商標法違反をはじめとする各種法令に抵触するリスクがあります。行き過ぎた行為は一時的な利益をもたらすかもしれませんが、結果的に信用を失うことになります。

マーケティング戦略を検討する際には、法的リスクを十分に理解し、適切な手続きを踏むことが重要です。広告関係者の皆さんには、この点をしっかりと考慮していただきたいと思います。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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