1.はじめに
商標法の目的には、「業務上の信用の維持」と「消費者の利益の保護」が含まれており、これらは法第1条に明記されています。つまり、商標法は財産権の保護と、公共の利益を両立させることを目的としています。
商標登録の異議申し立て制度は、公益的な観点から、国民の信頼を高めるために設けられたものです。
この制度では、異議申し立てが行われると、特許庁が再度その商標登録の適否を審理し、申立内容が正当と認められた場合には、その登録が取り消されます。
別の制度として設けられている無効審判と似た部分もありますが、異議申し立て制度は特に公益性が強調されている点で異なります。
以前は、商標が登録される前に異議を申し立てる「付与前申立て」の制度がありましたが、平成八年の法改正により、現在の「付与後申立て」の制度に変更されました。これにより、商標登録の手続きが迅速化され、国際的な基準に合致するようになりました。
2.登録異議の申立て
商標法では、登録異議の申立てに関して以下の内容が規定されています。これを順にわかりやすく解説します。
何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号のいずれかに該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の指定商品又は指定役務に係る商標登録については、指定商品又は指定役務ごとに登録異議の申立てをすることができる。
(第43条の2)
(1) 申立ての理由
申立てが認められる理由は限られており、以下のようなものがあります。
- 商標法第3条違反:商標としての適格性がない場合
- 商標法第4条第1項違反:公益に反する商標などの場合
- 商標法第7条の2違反:国際的な協定に基づく違反の場合
- 商標法第8条違反:先に商標登録されたものと混同するおそれがある場合
- 取消審判後の再登録禁止違反
- 外国人の権利享有能力違反
- 条約違反
- 新しい商標における提出物件の要件違反
ただし、特定の私的利益に基づく理由や、登録後に生じた理由は申立ての対象外とされています。異議申立ては、商標公報が発行されてから2カ月以内に行う必要があります。
(2) 登録異議申立人
誰でも異議を申し立てることができます。申立てに際して利害関係は不要で、公益的な観点から審査結果の見直しが求められるためです。この点が、無効審判とは異なります。
(3) 申立ての時期
商標が登録されると、特許庁はその内容を公報で発行します。異議申立ては、この公報発行から2カ月以内に行う必要があります。
(4) 手続き
登録異議申立書を特許庁長官に提出します。迅速な審理のため、申立書の内容変更は原則として認められませんが、申立て期限後30日以内であれば、一部の内容を修正することが可能です。
(5) 異議申立ての効果
申立てが認められると、特許庁から取消理由が通知され、商標権者には反論の機会が与えられます。反論が認められない場合、商標登録は取り消され、商標権は最初から存在しなかったものとみなされます。
一方、申立てが認められなかった場合や、反論が認められた場合には、商標登録は維持されます。また、申立てを取り下げることも可能ですが、取消理由が通知された後は取り下げができません。
(6) 不服申立て
取消決定に対しては、決定の通知を受け取ってから30日以内に東京高等裁判所に提訴することができます。ただし、商標登録の維持が決定された場合には、不服を申し立てることはできません。
3.まとめ
商標が無事に登録されたとしても、異議申し立てを受けると、その登録が取り消される可能性があります。したがって、商標権を取得した後でも、他社に使用中止を求めたり、ライセンス交渉を開始するタイミングには注意が必要です。特に、異議申し立てが可能な2ヶ月の期間が過ぎるまで、こうした行動は控えることが賢明です。
また、もし異議申し立てを受けたとしても、即座に登録が取り消されるわけではありません。まずは冷静に対応し、専門家に相談することが大切です。
ファーイースト国際特許事務所弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247