知的財産契約と独占禁止法の関係:押さえるべきポイント

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1.独占禁止法の基本

1-1. はじめに

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下「独占禁止法」または「独禁法」)は、市場における「公正かつ自由な競争を促進」することを目的としています(独禁法1条)。この法律は事業者の様々な行為を規制し、市場の独占状態を防止するものです。

知的財産契約を考える際に特に注意すべき規制は以下の3つです。

1-2. 私的独占とは

「私的独占」とは、事業者が「他の事業者の事業活動を排除、または支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」を指します(独禁法2条5項)。

1-3. 具体例:

北海道でA社とB社が集乳量の約80%を占めていた事例では、両社が金融機関への影響力を利用し、A社・B社と取引する酪農家だけが金融機関の信用保証を受けられるようにすることで、競合他社に不利益を与えようとしました。

1-4. 不当な取引制限

「不当な取引制限」(独禁法2条6項)には、カルテルや入札談合が該当します。カルテルは事業者間で価格、数量、販売地域などを取り決めるもので、当然ながら独禁法の規制対象となります。

一方で、事業者が共同事業を行うために協力することは珍しくありません。共同事業に明確な目的がある場合は、原則として適法です。ただし、一定の取引分野で競争が実質的に制限される場合は、「不当な取引制限」とみなされ、違法となる可能性があります。

1-5. 不公正な取引方法

「不公正な取引方法」とは、「公正な競争を阻害するおそれ」(独禁法2条9項6号)がある行為、つまり公正競争阻害性を持つ行為です。様々な行為が「不公正な取引方法」として独禁法の規制対象となっています。

✅ ここがポイント
知的財産契約を結ぶ際は、上記3つの規制に触れないよう注意が必要です。特に知的財産権の独占的利用や共同研究開発の際の取り決めなどは、競争制限的になりがちなため、慎重な検討が求められます。

2.知的財産契約と独占禁止法の接点

2-1. 基本的な考え方

知的財産権(特許権、商標権、著作権など)は本来、権利者に「独占的な実施」を認めるものです。一方、独占禁止法は競争を促進し、独占を抑制することを目的としています。

この矛盾する2つの法律の関係について、独占禁止法は次のように定めています。

「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」(独禁法21条)

つまり

  • 知的財産権の「正当な権利行使」には独禁法は適用されない
  • しかし「権利行使と認められない行為」には独禁法が適用される

公正取引委員会は「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」や「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」を定め、具体的な判断基準を示しています。

2-2. 私的独占に関する注意点

ライセンス契約の内容は原則として自由に決められますが、以下のような条件は「私的独占」として規制される可能性があります。

  • 必須技術のライセンス時に代替技術の開発を禁止する条件をつける
  • 合理的理由なく別の技術のライセンス契約締結を強制する

2-3. 不当な取引制限に関する注意点

共同研究開発は通常、適法な活動であり規制対象ではありません。ただし

  • 不当な取引制限を隠すために共同研究開発を装う場合は規制対象になる
  • 真の研究開発目的であっても、参加者の市場シェアが20%を超える場合は、他の事情も考慮した上で規制対象となる可能性がある

2-4. 不公正な取引方法に関する注意点

ライセンス契約で特に問題となりやすい「不公正な取引方法」には以下があります

2-4-1. 価格制限の禁止:

  • ライセンス技術を使った製品の販売価格などを制限することは許されない

2-4-2. 研究開発活動の制限禁止:

  • ライセンシーの研究開発活動を制限すること
  • 改良技術の譲渡義務を課すこと

⇒ これらは知的財産保護の目的(研究開発活動の促進と産業発達)に反する

2-4-3. 特許有効性の不争義務:

  • ライセンシーに特許の有効性を争わないよう義務付けることは、公正競争阻害性があれば不公正な取引方法に該当する可能性がある
  • ただし、ライセンシーが特許の有効性を争った場合にライセンス契約の解除を可能とする条項は基本的に適法とされている

💡 実務ポイント
知的財産契約を締結する際は、「正当な権利行使」の範囲を超えていないか確認することが重要です。特にライセンス条件や共同研究開発の取り決めについては、競争制限的な要素がないか慎重に検討しましょう。

3.まとめ

知的財産契約を締結する際、最も重要なのは独占禁止法との正しいバランスです。

ここがポイント

全ての知的財産権の行使が認められるわけではありません。その行為が「知的財産権の本来の趣旨に沿った正当な権利行使と言えるか」を常に検討する必要があります。

実務チェックリスト

✅ ライセンス条件は競争を不当に制限していないか?
✅ 共同研究開発は真に技術革新が目的か?
✅ 相手方の研究開発活動を不当に制限していないか?
✅ 契約内容は「権利の適正な保護」の範囲内か?

💡 実務家のひとこと
知的財産権は「独占」を認める制度ですが、その独占も無制限ではありません。権利の行使が市場競争を著しく阻害する場合、独禁法の規制対象となることを忘れないようにしましょう。バランスのとれた契約こそが、長期的なビジネス成功の鍵です。

ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247

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