1.スーパーカブの権利〜商標〜
ホンダのバイク「スーパーカブ」の形状が 立体商標 として登録されたことは、かつて大きな話題を呼びました。このバイクは、出前、郵便配達、新聞配達といった日常の風景でおなじみの存在です。
スーパーカブの立体商標登録の概要
特許庁の商標公報より引用
- 商標登録番号: 第5674666号
- 権利者: 本田技研工業株式会社
- 出願日: 2011年5月7日
- 登録日: 2014年6月6日
- 指定商品: 第12類「二輪自動車」
この登録により、スーパーカブの「形そのもの」が保護され、他社が類似形状を模倣することを防ぐ強力な武器となっています。
2.スーパーカブの権利〜意匠〜
実は、スーパーカブのデザインはさらに古くから 意匠登録 によって保護されていました。
スーパーカブの意匠登録の概要
特許庁の意匠公報より引用
- 意匠登録番号: 第146113号
- 権利者: 本田 宗一郎(登録当時)
- 出願日: 1958年2月18日
- 登録日: 1959年1月22日
- 意匠に係る物品: 「自動二輪車」
意匠登録は、デザインを保護する法律であり、新規性や独自性を持つ形状や模様を守る役割を果たします。
意匠権と商標権を組み合わせる理由
「意匠登録しているのに、なぜさらに立体商標を登録するのか?」という疑問を持つ方もいるでしょう。その答えは、 意匠権と商標権の性質の違い にあります。
1. 意匠権の特徴:
- 登録後、保護期間は2020年4月1日以降に出願された場合は、出願日から最大25年です(更新不可)
- 新規性のあるデザインを保護するが、期間が終了すれば模倣を防ぐことは難しい
2. 商標権の特徴:
- 更新を繰り返せば、半永久的に保護可能です
- 商品やサービスの「ブランド」そのものを守る
つまり、スーパーカブのようなブランド価値の高い商品において、意匠権と商標権を組み合わせることで 短期的なデザインの保護と長期的なブランドの保護 を両立させることができるのです。この2つを活用すれば、権利がより強固なものとなり、競争力を高められるのです。
ここがポイント
意匠権と商標権を組み合わせて保護することは、ブランド価値を守るための強力な戦略です。スーパーカブの事例は、その成功例として参考にする価値があります。企業や個人が自分のデザインやブランドをどのように守るべきか、一つの参考になると思います。
3.立体商標を登録するメリット
意匠権の制約とその背景
意匠権は、新しいデザインを社会に公開し、産業の発展に貢献する代わりに、そのデザインを一定期間独占する権利を与えるという考え方に基づいています。
意匠権の特徴:
- 新規性が必要: 意匠登録を受けるには、原則として「まだ公表されていないデザイン」であることが求められます。
- 存続期間の制限: 現在では出願日から25年間のみ保護されます。期間終了後は誰でもそのデザインを利用可能です。
- 出願タイミング: 市場で販売を開始する前に出願しなければなりません。
このように意匠権には制約が多く、特に存続期間終了後は、デザインが広く模倣されるリスクが高まります。特に大ヒット商品では、このリスクはより深刻です。
商標権が持つ強み
一方で、商標権は「商品やサービスの目印」を守るための権利です。商標権には以下のような強みがあります:
- 1. 永続的な保護が可能: 更新を繰り返せば、半永久的に権利を維持できます。
- 2. 使用済みでも登録可能: 一定の要件を満たせば、すでに使用されている商標でも登録できます。
- 3. 立体商標という特例: 通常、商標は文字やロゴが対象ですが、形状が「商品等の目印」として広く認識されている場合、立体商標として登録が可能です。これは、文字やマークなしのデザインでも権利を得られる重要なポイントです。
立体商標登録のメリット
意匠権が切れてしまった場合でも、立体商標を登録できれば、そのデザインを引き続き保護することが可能になります。これは特に、以下のような状況で効果を発揮します:
- 長年の使用でブランド価値が高まったデザイン: スーパーカブのように、形そのものが認知されている場合、立体商標として保護することで競争優位性を維持できます。
- 模倣品の防止: 意匠権が切れた後でも、立体商標の登録により模倣品の製造・販売を防げます。
ここがポイント:意匠権と商標権の組み合わせ
意匠権が持つ制限を補い、権利を強化するためには、立体商標の登録が有効な戦略です。特に、商品デザインが大ヒットし、形状そのものがブランドイメージとして消費者に認知されている場合、このアプローチは非常に有効です。
4.まとめ
意匠権と商標権は本来、守る対象が異なるため、商標権が意匠権の完全な代替となるわけではありません。それぞれに役割や適用範囲が異なり、補完的に活用するのが理想です。
特に立体商標の登録は、文字やマークを使わずに形状そのものを保護する特別な方法ですが、その登録には厳しい条件があります。
立体商標登録の条件:
- 1. 形状が商品等の目印であることが大前提
- 2. 商標として広く認知されるほど有名である必要がある
このため、立体商標は誰でも簡単に取得できるものではありません。しかし、意匠権と商標権の特性を理解し、適切に活用すれば、大切なデザインやブランドを強固に守る手段となります。
「形状そのものをブランドとして守る」という選択肢があることを、ぜひ記憶にとどめておいてください。意匠権の終了後も続くブランドの保護戦略として、いつか役立つ日が来るかもしれません。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247