1.旧商法の規定
会社を起ち上げるとき、商号を決めます。
商号は、商人の名称であり、営業に関し自己を表すために用いるものです。
日常用語からすると若干違和感があるかもしれませんが、会社も、法律上、商人です。
会社は商号を定め、商号を用いて自己を表します。
会社は登記により設立され、商号も登記事項とされています。
商号は使い続けることにより、営業上の信用が化体するものであり、商号に関し、会社は経済的利害を有します。
平成17年の改正前商法には、以下の規定が存在しました。
第19条
他人ガ登記シタル商号ハ同市町村内ニ於テ同一ノ営業ノ為ニ之ヲ登記スルコトヲ得ズ(旧商法19条)
第20条
商号ノ登記ヲ為シタル者ハ不正ノ競争ノ目的ヲ以テ同一又ハ類似ノ商号ヲ使用スル者ニ対シテ其ノ使用ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得但シ損害賠償ノ請求ヲ妨ゲズ
2 同市町村内ニ於テ同一ノ営業ノ為ニ他人ノ登記シタル商号ヲ使用スル者ハ不正競争ノ目的ヲ以テ之ヲ使用スルモノト推定ス(旧商法20条1項2項)
旧商法19条によれば、登記商号につき、一定の地理的範囲等の条件の下で、商号専用権が認められました。
また、旧商法20条によれば、一定の地理的範囲等の条件を満たせば、登記商号を使用する者には、不正競争の目的が推定され、使用中止等を要請できました。
一方、旧商法の規定によれば、登記手続において、商号や営業の同一性について審査しなければなりません。
そのため、登記実務が重いものとなり、会社の設立に時間を要するなど、弊害も生じました。
そこで、旧商法の規定は削除されることになり、商号専用権を保護する規定は消滅したと解されています。
2.不正競争防止法・会社法による保護
商号専用権の制度が廃止されたことで、より自由に商号を選定できるようになりました。
ただ、営業上の信用が商号に化体する以上、商号に関し、会社は経済的利害を有します。
特に、信用力のある自己の商号が冒用され営業主体を誤認されることは、会社としては避けたいと思うはずです。
平成17年改正後において、会社の商号は、不正競争防止法や会社法の条件を満たすとき、保護されます。
第2条
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(1) 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)
第8条
何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
2 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。(会社法8条)
まず、不正競争防止法により保護されるには、商号が「需要者の間に広く認識されている」こと、言い換えれば、周知性がなければなりません。
周知性が認められるには、必ずしも日本全国で知られている必要はないと解されています。
一地方であっても、保護に値する事実状態が存在すれば、周知性が認められます。
また、同一・類似の商号を冒用者が使用するなど他の条件を満たすことも必要です。
次に、会社法の保護を受けるには、不正の目的が冒用者になければなりません。
不正の目的とは、自己を他の会社と一般人に誤認させる意図をいいます。
商号に周知性があれば、不正の目的も認められやすいといえますが、不正の目的を認める上で周知性が必ず必要とされるわけではありません。
3.商標法による保護
商標法は、商標を守るものであり、商号を守るものではありません。
商標は、商品役務の目じるしであり、商品役務との関連において、保護されるものです。
一方、会社の名称であっても、商品役務を指定の上、商標登録を受ければ、登録商標として保護を受けることはできます。
ただ、「株式会社●●●」といったように「株式会社」等の文字を含む商標とすると、他人の名称を含むことを理由に出願を拒絶されるリスクが高まります。
リスクを下げる観点からは、「株式会社」等の文字を省略した上で出願することも検討するのがよいでしょう。
4.おわりに
商法の改正により、商号専用権は廃止され、不正競争防止法や会社法により会社の商号は保護が図られるようになりました。
ただ、不正競争防止法や会社法により保護を受けるには、周知性を裏付ける必要があるなど、ハードルがあります。
商標法によれば、指定商品等の制限を受けるものの、周知性の証明は必要ありません。
商号に営業上の信用が化体することを考えれば、商号に関し、商標登録を受けることも考えてみてはいかがでしょうか。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247