文字商標の形式選びで損をしないために
商標を登録する際、「ひらがな」「カタカナ」「アルファベット」のどれを選ぶべきか迷うことは少なくありません。特に、文字のみの商標を考える場合、どの表記が最も適切か判断するのは重要です。
例えば、「ファーイースト国際特許事務所」を商標登録するとしましょう。
- カタカナ表記:「ファーイースト国際特許事務所」
- カタカナのみ:「ファーイーストコクサイトッキョジムショ」
- ひらがな表記:「ふぁーいーすとこくさいとっきょじむしょ」
- アルファベット表記:「Far East International Patent Office」
では、これらのうちどれを登録するべきでしょうか?すべて登録する必要があるのでしょうか?
ここがポイント:すべてを登録する必要はない
商標権の効力は、同じ読み方を持つものにも及びます。つまり、一つの表記で商標登録をすれば、他の表記についても保護が及ぶため、全てを登録する必要はありません。
例えば、「ファーイースト国際特許事務所」を商標登録した場合、「ファーイーストコクサイトッキョジムショ」や「ふぁーいーすとこくさいとっきょじむしょ」も、商標権の範囲内となり、他者が勝手に使用することはできません。
どの表記を登録すべきか?
一般的には、最も広く使用される表記を優先的に登録すると良いでしょう。
日本国内での使用を考えるなら「カタカナ表記」が適していることが多く、海外展開を視野に入れるなら「アルファベット表記」も検討すべきです。
商標登録は、ただ単に名前を守るだけでなく、事業のブランド戦略としても重要です。適切な表記を選び、無駄なく効率的に商標権を取得します。
商標登録の形態は変更できない
商標を登録する際、特許庁に願書を提出した後は、その商標の形態(ひらがな・カタカナ・アルファベットなど)を変更することはできません。
つまり、一度登録した商標が、ブランドの中心的な存在となるのです。
よく使う表記を選ぶのが基本
どの形式で商標登録するべきか悩んだ場合、最も使用頻度の高いものを選ぶのが原則です。
例えば、「ファーイースト国際特許事務所」を商標登録する場合、以下のような表記の選択肢があります。
- ファーイースト国際特許事務所(カタカナ+漢字)
- ファーイーストコクサイトッキョジムショ(カタカナ)
- ふぁーいーすとこくさいとっきょじむしょ(ひらがな)
- Far East International Patent Office(アルファベット)
しかし、実際のビジネスシーンでは「ファーイースト国際特許事務所」の表記が最も多く使われるため、この形で商標登録を行うのが合理的です。
他の表記も保護されるのか?
「ファーイースト国際特許事務所」だけを商標登録した場合、カタカナやひらがな、アルファベット表記の商標は使えなくなるのか?
——その心配は不要です。
商標権の効力は、「読み方」が同じであれば、類似範囲として保護されるためです。
つまり、「ファーイースト国際特許事務所」を登録すれば、以下のような別表記についても、第三者が勝手に使用することはできません。
- ファーイーストコクサイトッキョジムショ(カタカナ)
- ふぁーいーすとこくさいとっきょじむしょ(ひらがな)
そのため、自社でこれらの表記を使っても、商標権の範囲内であり、問題なく使用できます。
ここがポイント:やはり最も使う商標を登録すれば十分
商標登録を検討する際は、日常的に使用する表記を優先的に登録しましょう。
カタカナやひらがな、アルファベットの表記も、基本的には商標権の範囲に含まれるため、すべてを個別に登録する必要はありません。
最も使う商標を登録することで、実務上の商標保護を十分に確保できます。
アルファベット商標を選ぶ際の重要ポイント
商標を登録する際、ひらがな・カタカナ・アルファベットのどれを選ぶべきか迷うことがあります。
特に、将来的に海外展開を考えている場合は、アルファベット表記の商標を選ぶのが有利です。ここでは、その理由を詳しく解説します。
日本語商標は海外で通じにくい
日本語が含まれる商標は、海外では理解されないことが多く、ビジネス上のリスクになる可能性があります。
たとえば、「ファーイースト国際特許事務所」という商標を日本で登録しても、海外ではその発音や意味が理解されないことが多いです。
仮に海外で「ファーイースト国際特許事務所」をそのまま商標登録しても、現地の人々には「Far East International Patent Office」と同じものだと認識されません。
その結果、商標権侵害の問題が発生しても、侵害者が「日本語は読めないから混同しようがない」と主張し、裁判での立証が難しくなるケースが考えられます。
アルファベット表記の商標が有利な理由
海外での商標権の確実な保護を考えるなら、最初からアルファベット表記で商標を登録するのが得策です。
アルファベットで登録しておけば、日本で取得した商標をもとにマドリッド協定議定書に基づく国際商標登録(マドプロ)をスムーズに申請できます。
また、アルファベットの商標なら、世界中の人々にとって視認性が高く、ブランドの認知度向上にもつながります。特に、英語圏や欧米市場への展開を考えているなら、アルファベット表記を考慮するのも一つと言えるでしょう。
日本語商標が有利なケースもある
ただし、日本語が含まれる商標が海外市場でまったく使えないわけではありません。たとえば、日本のブランドや「メイド・イン・ジャパン」の高級感を強調したい場合、日本語の商標が効果的になることもあります。
特に、日本食や伝統工芸品、アニメ・ゲーム関連のブランドでは、日本語の商標がブランド価値を高めることもあります。
ここがポイント
- 海外展開を考えるなら、アルファベット表記の商標が有利(商標権の確保・混同リスクの低減・国際登録が容易)
- 日本語の商標は、ブランド価値を高める場合に有効(「メイド・イン・ジャパン」をアピールしたい場合)
将来のビジネス戦略を見据え、商標の表記を慎重に選びましょう。
文字商標にデザインを加えるときの重要ポイント
商標を登録する際に、ひらがな・カタカナ・アルファベットのどれを選ぶかに加え、「デザインを加えるかどうか」も重要な判断基準になります。以下の2つの事例を考えてみましょう。

- 商標(1):文字にデザインが加えられている商標
- 商標(2):文字のみでデザインが加えられていない商標
たとえば、商標(1)を特許庁に出願し、登録されたとします。しかし、実際に日本国内で使用するのは商標(2)だけで、登録商標(1)を3年間一度も使用しなかった場合、商標登録の取消審判を請求されるリスクが生じます。
商標は「登録すれば終わり」ではない
商標権者には、「特許庁に登録した商標そのものを実際に使用する義務」が課せられています。
そのため、登録した商標(1)を全く使っていないと、不使用を理由に第三者から取消審判を請求される可能性があります。
登録商標を守るためには、商標(1)のデザイン入りの形で実際に使用した証拠を残すことが重要です。証拠がなければ、商標登録が取り消されることもあり得ます。
登録する商標は「継続的に使用できるもの」を選ぶ
商標登録は「どれでも登録すればよい」というものではありません。実際に使い続ける商標を登録することが大切です。デザイン入りの商標を登録する場合、実際にそのデザインを日常的に使用するのか、しっかり考えてから決めましょう。
なお、不使用を理由とする商標登録の取消は、第三者が請求しない限り審理されません。そのため、すぐに自動的に登録が取り消されることはありませんが、不使用取消審判に備えることは重要です。
✔ 登録する商標は、長期間にわたって確実に使用するものを選ぶこと
✔ 登録した商標を実際に使い、その証拠をしっかり残すこと
商標登録はブランドを守る大切な手段ですが、適切な管理をしないと権利を失う可能性もあります。デザイン入りの商標を登録する際は、このリスクをしっかり理解しておきましょう。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
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