他人の登録商標と同じ商標でも登録を受けることはできますか?

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1.商品・役務

 商標は商品・役務の標識であり、需要者は商標を目印として商品・役務を選択します。商標は商品・役務と一体のものであり、商標そのものに注意が向きがちですが、商標登録出願を行う際には、商標を使用する商品・役務も十分確認する必要があります。

商標登録出願は、商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにしなければならない。
(商標法6条1項)

 出願商標が他人の登録商標と同一又は類似であり、登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・役務に使用するものであれば、商標登録出願を拒絶されることになります。

 他方、出願商標が登録商標と同一又は類似のものであったとしても、出願商標の指定商品・指定役務が登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似のものでなければ、他人の業務に係る商品・役務と混同が生じるといった他の拒絶の理由が存在しない限り、商標登録出願を拒絶されることはないことになります。

 商品・役務の類否は、商標の類否同様、とても重要なものです。

2.商品・役務の類否

(1)判断基準

 裁判所も特許庁も、判例([橘正宗事件]最判昭和36年6月27日民集15巻6号1730頁)に基づき、一般論としては、「それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある」か否かにより、商品・役務の類否を判断します。

 上述の判例では、清酒と焼酎とが類似の商品といえるかが問題となりました。最高裁判所は、清酒と焼酎とが類似の商品であると判断しましたが、同一のメーカーが清酒と焼酎との製造免許を受けている例は多く、同一又は類似の商標が清酒と焼酎に使用された場合、商品の出所に混同が生ずるおそれがあることを理由とするものです。原審の東京高等裁判所は「清酒と焼酎とは、使用者の感覚においては極めて鋭敏に区別され、営業者の常識としても彼此混同するようなことはない」と判示しており、清酒と焼酎とが非類似の商品であるとの見解に立つことを窺わせるものでしたが、上述のとおり、最高裁判所は清酒と焼酎とが類似の商品であると判断した上、原審の東京高等裁判所の判決を破棄しました。

(2)特許庁の実務

 商標登録出願の審査は特許庁の審査官が行います。商標登録出願は年間十数万件にも上るところ、審査官は多数の商標登録出願を審査しています。審査官の判断の統一を図るため、特許庁では「商標審査基準」が定められており、「商標審査基準」によれば商品・役務の類否判断は原則として「類似商品・役務審査基準」によると定められています。

 「類似商品・役務審査基準」は、商品・役務を整理した上、同一のグループに属する商品・役務は類似すると推定するものです。また、グループには類似群コードと呼ばれるコードが付され、類似群コードが同一であれば、商品・役務は類似すると推定されます。

 商品・役務は、1〜45類の区分に分けられていますが、区分は商品・役務の類似を画するものではありません。同じ区分に属したとしても、非類似の商品・役務とされることは多々あります。また、異なる区分に属する場合であっても、類似の商品・役務とされることもあります。

 例えば、「靴類」と「運動用特殊靴」は共に25類に属する商品であるものの、非類似の商品とされています。他方、25類の「運動用特殊靴(「乗馬靴」及び「ウィンドーサーフィン用シューズ」を除く。)」には「24C01」の類似群コードが付されているところ、28類の「運動用具(登山用・サーフィン用・水上スキー用・スキューバダイビング用のものを除く。)にも「24C01」の類似群コードが付されており、両者は異なる区分に属するものの類似する商品とされています。

 「類似商品・役務審査基準」は、審査実務の統一のために定められた特許庁内部の内規にすぎないものですが、商標登録出願の審査においては、「類似商品・役務審査基準」により商品・役務の類否が判断されることから、「類似商品・役務審査基準」を適宜参照することになります。

(3)裁判例

 特許庁における処分に不服がある場合や商標権侵害の成否が争われる場合、審理は裁判所において行われるため、商品・役務の類否は、最終的には裁判所において決せられます。裁判所は、「類似商品・役務審査基準」が特許庁内部の内規にすぎないことを踏まえつつ、商品・役務の類否判断の際、「類似商品・役務審査基準」も参酌する姿勢を示しています。

 他方、「類似商品・役務審査基準」は、同一グループに属する商品・役務や同一の類似群コードが付された商品・役務につき、類似すると推定するものですが、あくまで推定にすぎない以上、個別具体的な事情によっては、推定が覆されることも認めています。

 商品・役務の類否が主要な争点となった裁判例は多いわけではありませんが、比較的最近では、医療用の「体脂肪測定器」等と家庭用の「体重計」等の類否が争われた事例が存在します。「類似商品・役務審査基準」によれば、「体脂肪測定器」の類似群コードは、「10D01」であるのに対し、「体重計」の類似群コードは、「10C01」であり、「体脂肪測定器」と「体重計」とは類似群コードを異にするため、非類似の商品と推定されるものです。

 これに対し、裁判所は、取引の実情を詳細に認定した上で、以下のように、「体脂肪測定器」と「体重計」は類似した商品であると判断しました。

「本件査定時においては,医療用の『体脂肪測定器,体組成計』と家庭用の『脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計』は,誤認混同のおそれがある類似した商品に属するというべきである。」

(知財高判平成28年2月17日平成27年(行ケ)第10134号)

 上述の裁判例は、十分な証拠を基に取引の実情を主張すれば、「類似商品・役務審査基準」の推定も覆る余地があることを示しています。

3.おわりに

 商標登録を検討する際、依頼者の中には、商標そのものに関心が集中し、商標を使用する商品・役務については、十分な注意を払わない方もいらっしゃいます。ただ、商品・役務は、商標権の効力を画するものであり、商標同様、とても重要なものです。商標登録を検討する際には、商品・役務についても、しっかり考慮することが必要です。

ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247

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