1. はじめに
「出願された商標が、既に他人によって登録された商標またはこれに類似する商標であり、その登録商標の指定商品やサービス、またはこれらに類似する商品やサービスについて使用される場合」は特許庁の審査で拒絶理由になります。
(商標法第4条第1項第11号)
この規定は、いわば「拒絶理由の王様」と言えるものです。商標登録の際に、既存の登録商標と新たに出願された商標との調整を行うために定められています。
1. 適用されるポイント
この拒絶理由が適用されるためには、以下の3つのポイントを満たす必要があります。
- 1. 出願した商標と既に登録された商標が類似していること
- 2. 登録商標の指定商品やサービスが、出願された商標の指定商品やサービスと類似していること
- 3. 先に出願された商標がすでに登録されていること
つまり、後から出願した商標が、既に登録されている商標と同じか、非常に似ている場合で、さらにその指定商品やサービスも類似している場合、この拒絶理由が適用されます。
2. 注意点
この拒絶理由は、他人が登録した商標に対して適用されるものであり、もし自分の商標が先に登録されている場合には、この拒絶理由には該当しません。
2.商標の類似とは
商標の類似について説明します。少し難しい話に思えるかもしれませんが、簡単に言うと「商標が似ていること」です。
もう少し詳しく説明すると、似たような商品に対して似た商標が付けられ、市場に出回った場合に、消費者がその商品やサービスの出所を混同してしまうほど、二つの商標が似ている状態を指します。
商標法の目的は、競業秩序を維持することです。つまり、市場における取引の秩序を正常に保つことを目指しています。もし類似した商標を登録してしまうと、市場には似た商標の商品やサービスがあふれ、消費者は混乱し、誤って他の商品の出所を勘違いしてしまう可能性が高まります。
加えて、事業者側でも、自分の商品やサービスを求めていた顧客が、類似商標が原因で競合他社の商品に流れてしまうリスクが生まれます。
こうした取引秩序の混乱を防ぐために、商標法は、既に登録された商標と類似する商標、そしてそれに似た商品やサービスを指定した商標出願を拒絶します。さらに、商標権者には、自分の登録商標に似た商標を使っている他者に対して、その使用をやめさせる権利が与えられています。
結論として、商標法は市場の秩序を守るために「商標の類似」という概念を使って、過去の経験から出所の混同が起こりうる範囲をあらかじめ明確に定めています。
ちなみに、商標の類似性を審査する際の基準については、特許庁が「商標審査基準」で詳細に説明しています。
3.商品またはサービスの類似とは
「商品またはサービスの類似」とは、異なる商品やサービスであっても、同じ商標や似た商標が使用された場合に、消費者がその商品やサービスの出所を混同してしまう可能性がある範囲を指します。
商標権の効力は、「商標」と「指定する商品またはサービス」の組み合わせで決まるため、商品やサービスが類似しているかどうかは非常に重要な要素です。
1. 商標の併存例
例えば、「アサヒ」という商標を見てみましょう。ビールに関してはアサヒグループホールディングス株式会社がこの商標を保有しています(商標登録第2055143号)。一方、印刷物に関しては株式会社朝日新聞社が「アサヒ」の商標を保有しています(商標登録第1620653号)。このように、商標が類似していても、指定する商品やサービスが異なれば、それぞれの商標権が合法的に共存することが許されているのです。
2. 類似商品・役務の審査基準
特許庁は「商標審査基準」で、商品やサービスが類似しているかどうかの判断基準を細かく説明されています。さらに、実際の審査では「類似商品・役務審査基準」に基づいて、類似群コードという共通コードを使用し、類似性を判断します。この類似群コードは、過去の日本の分類に基づいて商品やサービスをグループ分けしたもので、現在は国際分類が基準となっています。
例えば、「サプリメント」の類似群コードは「32F15」であり、「工業所有権に関する手続きの代理や鑑定」などは「42R01」です。このコードを基に、同じ類似群コードが付された商品やサービスは、原則として類似していると推定されます。
3. 区分を超えた類似(多類間類似)
あまり知られていない事実ですが、異なる区分に属する商品にも同じ類似群コードが付与されることがあります。これにより、異なる区分に属する商品が類似していると判断される場合があるのです。
例えば、「ペット用の洋服」は第18類に属し、類似群コードは「19B33」です。一方、「ペット用のおもちゃ」は第28類に属していますが、同じく「19B33」の類似群コードが付されています。これにより、「ペット用の洋服」と「ペット用のおもちゃ」は異なる区分に属していても、類似する商品として扱われることになります。このような現象は「多類間類似」と呼ばれています。
ファーイースト国際特許事務所弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247