1.そもそも「小売等役務」って何
「小売等役務」とは「商品を品揃えするサービス」のことです。
具体的にはデパート・コンビニエンスストア・セレクトショップなどの業態であり、「アマゾン」や「楽天」といったネット通販のサービスもココに入ります。
第35類には「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等、いくつかの法定表記が準備されていますが、これら以外にも、例えば「ダウンロード可能な映像の小売又は〜」のように、カスタマイズして記載することもできます。
2.おすすめポイント
この小売等役務の最大のメリットは、「1区分の費用で広い範囲をカバーできる」こと!
というのも、商標権の効力は同じだけでなく似ている範囲にも及ぶのですが、商標の世界では、商品とその商品の小売等役務は似ている商品・役務、つまり「似たもの同士」として扱われます。
例えば「被服」(第25類の商品です)と「被服の小売等役務」は、もちろん同一ではありませんが、似たもの同士です。
そのため、Aさんが商標「あいうえお」を第35類の「被服の小売等役務」で登録した場合、後からAさんとは別人のBさんが第25類の「被服」を指定して商標「あいうえお」を出願しても、登録を受けることはできないのです。
ただし、Aさんが出願する分にはOKですよ。
3.こんな人におすすめです
デパート・コンビニエンスストア・セレクトショップ等はもちろんですが、例えば、「アパレルブランドを立ち上げる予定だけど、服だけなのか、カバンやアクセサリーまで扱うのかまだ決まっていない」「カフェをやっているが、今後、コーヒーやスイーツのテイクアウトも始めたい」と行った、「商標をどんな商品に使うかまだはっきり決まっていない」という方の最初の一歩にお使いいただきたい方法です。
特に事業スタート時は、他にもコストがかかることがたくさんあり、商標にばかりお金をかけるわけにはいかないと思いますので、初期投資を抑えるのにちょうどいいのではないでしょうか。
4.ここにご注意!
とはいえ、そうそううまい話ばかりではありません。
登録を受けるまで、そして登録後にも気をつけなければならないことがあります。
(1)特許庁からの確認
出願の際に、いろいろな商品の小売等役務を指定した場合、審査の段階で「本当に全部について使うのですか?」という確認(拒絶理由)を受け、ストレートに審査に合格できない場合があります。
ただしこの確認については、「数年のうちに使用する意思(予定)がある」ことを書面で主張することでクリアできますから、ご安心を。
(2)国際登録出願
日本の出願や登録を基礎として外国に出願できる「国際登録出願」という制度があります。
この制度を使って外国に出願する場合、基礎となる日本の登録商標と全く同一の商標であって、日本の登録商標の権利範囲(指定商品及び役務)に含まれる商品及び役務についてでなければ認められないのです。
しかし全ての国に「小売等役務」の制度があるわけではなく、制度があっても日本と同じような効果が得られない国もあります。
そのため、外国でも日本と同じ商標を使って事業展開をする予定がある場合には、「小売等役務」での出願はあまりおすすめいたしません。
(3)不使用による取消
これが一番大事なポイントです。
権利を持っている範囲(指定商品・役務)で登録商標を一定期間使用していない場合、第三者からの審判請求によって、登録が取り消されてしまう可能性があります。
商標法
第五十条
継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
商標法 第五十条
例えば、商標「あいうえお」を第35類の「被服の小売等役務」で登録を受けたAさんが、商標「あいうえお」を自社商品のシャツ(被服に入ります。)のタグにしか使用していないケースで考えてみましょう。
この場合、Aさんは商標「あいうえお」を「シャツ」という商品の目印として使っていますが、Aさんが商標「あいうえお」を独占的に使用できるのは「被服を品揃えするサービス」であって、「被服」という商品そのものではありません。
つまり似ている範囲では使っていても、そのものではないのです。
こんな場合、Aさんの商標権をジャマだと思っているBさんに、「Aさんは登録商標を指定役務に使っていないから取り消して〜」という審判を請求されてしまうと、Aさんの権利が消滅してしまうかもしれないのです。
そのため、まずは「小売等役務」で押さえておいて、事業が軌道に乗ってきたら商品についても登録を受けることをご検討ください。
5.まとめ
最初から完璧にご自身の商標をガードするのは、なかなか困難です。
広い範囲で商標登録を受けようとすると費用もかさみますし、事業を展開していくうちに、当初予想だにしていなかった分野に参入することもあるでしょう。
そこで、事業の進み具合と相談しながら商標権の力が及ぶ範囲を広げていくとして、そのスタートに「小売等役務」を有効活用していただければと思います。
それではまた。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 杉本 明子
03-6667-0247