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1.A会社がB会社を吸収合併した場合
会社合併や分割が行われた場合、商標権の取り扱いはどうなるのでしょうか?今回は、吸収合併を例に挙げて、商標権の移転手続きについて詳しく解説します。意外と知られていないポイントもあるので、ぜひ最後までおつきあいください。
(1)B会社の持っている商標権について
業績好調なA会社がB会社を吸収合併することになったとしましょう。このB会社、いくつかの商標権を保有しています。この場合、商標権はどうなるのでしょうか?
合併によりB会社は消滅するため、その商標権をA会社に移転する必要があります。ただし、この移転手続きでは、通常の商標権移転手続きとは異なる書類が必要です。
提出書類のポイント:
申請書のタイトル
通常の移転申請書は「商標権移転登録申請書」ですが、合併の場合は「合併による商標権移転登録申請書」を使用します。
特許庁サイトより引用
(2)B会社を吸収合併した後、A会社が社名をAA会社に変更した場合
合併後にA会社が新たなスタートを切るため、社名を「AA会社」に変更することもあるでしょう。この場合、商標権移転の手続きに注意が必要です。
通常の手続き
本来であれば、以下の2ステップを踏む必要があります。
- 1. 「B会社 → A会社」への商標権移転
- 2. 「A会社 → AA会社」への商標権移転
手続きを簡略化する方法
しかし、合併の混乱の中でスムーズな対応が難しい場合、以下のように手続きを簡略化できます。
- 「B会社 → AA会社」という形で直接商標権移転を行います
- その際、「A会社=AA会社」であることを証明する書類を併せて提出する必要があります
(3)B会社が社名をBB会社に変更した後、A会社に吸収合併された場合
次に、B会社が合併前に社名を「BB会社」に変更していた場合について考えてみます。このケースでも、手続きを簡略化することが可能です。
手続きの流れ
通常であれば、
- 1. 「B会社 → BB会社」への商標権移転
- 2. 「BB会社 → A会社」への商標権移転
この2ステップが必要ですが、簡略化を活用すれば、「B会社 → A会社」への商標権移転だけで済ませられます。
必要な追加書類
「B会社=BB会社」であることを証明する書類(例:閉鎖登記事項証明書など)
ここがポイント
商標権の移転は、合併や社名変更が絡むと少し複雑になりますが、適切な手続きを踏めばスムーズに進められます。ポイントは以下の通りです。
- 合併による商標権移転には、専用の申請書が必要
- 社名変更が絡む場合、簡略化できる手続きもある
- 証明書類の提出を忘れないこと
2.A会社とB会社が合併して新会社Cを設立する場合
A会社とB会社が合併し、新たにC会社という別会社を設立するケース、いわゆる「新設合併」では、それぞれの商標権をどう扱うべきでしょうか?
新設合併の場合の商標権の考え方
新設合併の場合も、基本的な考え方は吸収合併と同じです。ただし、新設合併では、A会社もB会社も消滅するため、両社の商標権を新設するC会社に移転する必要があります。
手続きの流れ
A会社とB会社が保有する商標権について、それぞれ以下の手続きを行います。
1. 提出する申請書のタイトル
- 各社は「合併による商標権移転登録申請書」を作成します
- 通常の移転申請とは異なり、合併を理由とした移転用の申請書を使用します
2. 商標権の移転先
- A会社とB会社が保有する商標権をそれぞれC会社に移転します。
注意点は
新設合併の場合、商標権移転は2件分発生する
- A会社の商標権 → C会社へ移転
- B会社の商標権 → C会社へ移転
書類の一括準備を検討
合併に伴う各種手続きは煩雑になりがちです。商標権移転の申請書類も、事前に漏れなく準備しておくことが重要です。
ここがポイント
新設合併で新会社を設立する場合、吸収合併と同様に商標権の移転手続きが必要です。ただし、両社が消滅するため、それぞれの商標権を新会社に移転するという点が特徴的です。
チェックリスト
- A会社・B会社の商標権を整理する
- 「合併による商標権移転登録申請書」を作成
- 両社の商標権を新設会社Cに移転
3.B会社自体は存続しているが、A会社がB会社の一部門を吸収した場合
A会社が業務拡大のため、B会社の一部門を買収した場合、B会社そのものは存続します。このケースでは、買収された部門で使用している商標権をどのように扱うべきでしょうか?
(1)A会社に渡したい商標権について
このようなケースは「事業譲渡」に該当します。つまり、合併ではなく、商標権が別会社に売却されたという扱いになります。
必要な手続き
通常の商標権移転手続きとして、以下の書類を準備します。
1. 商標権移転登録申請書
標準的な移転手続き用の申請書を使用します。
2. 譲渡証書
商標権が譲渡されたことを証明する書類です。
注意点:利益相反のケース
A会社とB会社の代表者が同一人物であるなど、利益相反が発生する可能性がある場合には注意が必要です。
取締役会や株主総会での承認が必要
- 利益相反が認められる状況では、正式な社内承認がないと手続きが認められません
- 必要な場合は、議事録などの証明書類も追加で提出します
注意点は
事業譲渡は合併とは異なる手続き
合併時に使用する「合併による商標権移転登録申請書」ではなく、通常の商標権移転手続き書類を使用します。
商標権の範囲を明確にする
買収対象となる商標権が複数ある場合は、それぞれを明確に特定し、譲渡対象を誤解なく記載する必要があります。
ここがポイント
B会社の一部門を吸収するケースでは、商標権の移転は事業譲渡の一環として扱われます。以下の流れで手続きを進めるとスムーズです。
手続きの流れ
- 1. 商標権移転登録申請書と譲渡証書を準備
- 2. 利益相反の可能性がある場合は、社内承認を取得
- 3. 必要書類を揃えて特許庁に申請
A会社の新たな成長を支えるためにも、商標権の移転手続きは正確かつ慎重に進めましょう!
4.「移転」と「譲渡」
「権利の移転」と「権利の譲渡」は似ているようで、法律上は明確に区別されています。商標法においても、この二つの言葉は異なる意味を持っています。
「移転」とは?
「移転」とは、権利がある主体から別の主体へ移されること全般を指します。
これは、「譲渡」だけでなく、「相続」や「合併による承継」なども含まれる、広い概念です。
例:
- 合併による商標権の移転
- 相続による商標権の移転
「譲渡」とは?
「譲渡」とは、「移転」の一種で、売買や贈与などの契約によって権利が移されることを指します。
商標法においては、「譲渡」は、商標権を売る・譲るという具体的な行為を表します。
例:
- A社がB社に商標権を売却
- A社がB社に商標権を無償で譲る
商標法での使い分け
商標法では、以下のように使い分けられています。
1. 移転
譲渡、相続、合併など、商標権の承継全般を指す広い概念。
2. 譲渡
商標権の所有者が、契約によって他者にその権利を移す行為を指す。
注意点は
- 「移転」は広い概念で、譲渡だけでなく相続や合併も含む。
- 「譲渡」は、「売買」や「契約」を伴う具体的な権利移転のこと。
- 商標法上の手続きでは、「移転」なのか「譲渡」なのかを区別して対応する必要がある。
ここがポイント
「移転」と「譲渡」の違いを正しく理解することは、商標権の取り扱いや手続きにおいて非常に重要です。それぞれの用語が指す範囲を明確に意識することで、誤解なくスムーズに権利を管理することができます。権利移転や譲渡を検討する際は、正しい概念と手続きを踏まえて進めましょう!
5.まとめ
会社合併や事業譲渡では、やるべきことが山積みになり、商標権の手続きまで気が回らないこともあるでしょう。しかし、商標権手続きの遅れや漏れは、将来の権利行使において大きな障害となる可能性があります。
手続きの重要性
商標権は会社のブランドや信用を守る大切な資産です。手続きを怠ることで、以下のような問題が生じる可能性があります。
権利が有効に移転されていない
その結果、商標権が行使できない。
第三者との紛争が発生
商標権の帰属が不明確な状態が長引くと、法的なトラブルを招く恐れがあります。
早めの手続きが成功の鍵
会社合併や事業譲渡の際は、商標権の手続きを早めに行うことで、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。
- 必要書類を事前に確認し、漏れなく準備。
- 権利移転や譲渡に関連する手続きを専門家と相談しながら進める。
不明点があれば専門家に相談を
特許庁や特許事務所では、商標権手続きに関するご相談を随時受け付けています。手続きに不安がある場合は、ぜひお近くの特許事務所にご相談ください。
もちろん、弊所へのご相談も大歓迎です!
お客様の大切な権利を守るため、全力でサポートいたします。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247