1.商標登録の流れと拒絶の理由
商標出願が行われると、特許庁の審査官が審査を行います。この審査では、商標法に基づいて出願商標が登録できない理由がないかを確認します。もし問題がある場合、審査官はその理由を出願人に通知します。出願人は反論する機会を与えられますが、反論が受け入れられない場合は拒絶査定が発せられます。
ただし、商標登録が拒絶された場合でも、その商標を使用できないわけではありません。例えば、出願商標が商品の品質を示す表現や特徴のないフォントのみで構成されている場合、登録は認められないものの、特定のリスクがない限り使用に問題はありません。
類似商標が理由で登録が拒絶された場合
一方で、登録済みの先行商標と類似していることを理由に出願商標が登録されなかった場合、状況は異なります。この場合、商標法は以下のように規定しています。
1. 商標法第4条第1項第11号
他人の登録商標やそれに類似する商標は、同一または類似する商品や役務に使用される場合、登録を受けることができません。
2. 商標法第37条第1号
登録商標やそれに類似する商標を使用する行為は、商標権の侵害とみなされます。
つまり、登録できない理由として「類似商標」が指摘された場合、それは商標権侵害のリスクがあることを意味します。
登録の局面と侵害の局面における類否判断
商標の類否は、登録の審査段階(商標法第4条第1項第11号)と、商標権侵害の判断段階(商標法第37条第1号)の両方で重要です。そして、両局面における類否判断の基準は基本的に同一とされています。したがって、登録の局面で「類似する商標」と判断された商標は、侵害の局面でも「類似する商標」と判断される可能性が高いです。
出願商標の使用に関する注意点
先行商標と類似しているために登録が拒絶された場合、その商標を使用すると、商標権の侵害とみなされる可能性が非常に高くなります。そのため、出願人は該当商標の使用を控えるべきです。こうした判断は、将来的な法的リスクを回避するために重要です。
2.商標の類否判断の基準
商標の類否判断は、商標法の重要なポイントの一つです。この判断基準は、特許庁と裁判所で行われる場面に応じて若干異なります。それぞれの判断基準と、参考となる『商標審査基準』や判例について詳しく説明します。
1. 特許庁と裁判所の役割
侵害の局面
商標権侵害が争われる場合、商標の類否は裁判所が判断します。
登録の局面
商標登録時には、特許庁の審査官が商標の類否を一次的に判断します。この判断に不服がある場合は、特許庁長官に審判請求を行い、それでも納得できない場合に裁判所へ取消訴訟を提起する流れとなります。
最終的な判断は裁判所に委ねられますが、審判や取消訴訟に至る件数は限られており(2016年時点で年間約50件)、裁判所で争われるケースは比較的少ないと言えます。
2. 特許庁の『商標審査基準』
特許庁は審査の公平性と適正化を図るため、『商標審査基準』を定めています。この基準における類否判断は次のように規定されています。
- 商標の外観、称呼(呼び方)、観念(意味)による印象や記憶、連想を総合的に観察する
- 商標が指定商品や指定役務(サービス)に使用された場合、他の商標と混同を招く可能性があるかを基準に判断する
- 判断には一般的かつ恒常的な取引の実情を考慮するが、特定の商品やサービスに限定された特殊な取引状況は考慮しない
この基準は、基本的に裁判所の判例に沿った内容となっています。
3. 判例から見る類否判断
基本的な考え方
商標の類否は、両商標が類似する商品やサービスに使用された場合に、出所(提供者)について誤認混同を生じるかどうかによって判断されます。この判断基準は、以下の判例で示されています。
[氷山事件](最三小判昭和43年2月27日)
商標の外観、称呼、観念を総合的に考慮し、取引者に与える印象や記憶、連想を基に、具体的な取引状況に照らして判断する。
取引の実情の考慮
特許庁では一般的な取引の実情に限って考慮する方針ですが、裁判所では個別具体的な状況を重視する傾向があります。例えば、商品の販売方法(訪問販売か店頭販売か)や展示方法なども判断材料とされます。
[大森林事件](最三小判平成4年9月22日)
店頭での販売展示がどのように行われるかなど、より具体的な取引状況が問題とされた例です。
4. 特許庁と裁判所の違い
特許庁は一般的な取引状況を重視する一方、裁判所はケースバイケースで具体的な取引状況を考慮する傾向があります。この違いがあるため、特許庁では問題とされなかった取引の実情が、裁判所では判断の決め手になる場合もあります。
ここがポイント
商標の類否判断は、特許庁では『商標審査基準』に基づいて行われ、裁判所では個別具体的な状況を踏まえて判断されます。この2つのスタンスの違いを理解することは、商標登録や権利侵害のリスクを正しく評価する上で重要です。商標を出願する際は、先行商標との類否を十分に調査し、特許庁や裁判所でどのように判断されるかを慎重に検討することが求められます。
3.おわりに
「類似する商標」の解釈が商標法第4条第1項第11号(登録時の判断)と第37条第1号(侵害時の判断)で基本的に同一であるとされていても、特許庁と裁判所の実務には微妙な違いが見られます。このため、特許庁が商標登録を認めた場合でも、後に裁判所が侵害の局面で異なる判断を下す可能性が全くないとは言えません。
商標の類否問題は、商標権の適切な運用と保護のために非常に重要であり、最終的な判断は裁判所によって下されます。このため、商標出願時には特許庁の判断基準を理解するだけでなく、裁判所での解釈や実務の違いにも十分配慮し、慎重に対応することが求められます。
ファーイースト国際特許事務所弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247