1.対応の基本方針
商標権侵害が疑われる状況では、立場に応じた適切な対応が求められます。
権利者の視点では、侵害行為をただちに停止させたい、さらには損害賠償を請求したいと考えるでしょう。
一方、侵害の警告を受けた被疑者の立場では、何もしないまま放置するのは避けるべきです。適切に対応しなければ、さらなる問題や法的リスクを招く可能性があります。
最初のステップ:冷静に書面でのやりとりを
多くの場合、商標権侵害の問題は最初から裁判に発展することはありません。
まずは書面でのやりとりを通じて、双方の主張を整理し、問題解決に向けた話し合いが進められます。この段階では、感情的にならず、法的な観点から冷静かつ戦略的に行動することが重要です。
商標権侵害の対応は迅速かつ適切な判断が鍵です。プロの助言を早めに求め、リスクを最小限に抑えましょう。
このように、相手とのやりとりや今後の方針を慎重に進めることで、より良い結果を目指すことができます。
2.権利者として商標権侵害に対応する方法
(1)警告書送付を検討する前に
商標権侵害が疑われる場合、まずは弁理士や弁護士といった専門家に相談することを強くお勧めします。
専門家の意見をもとに、実際に侵害が認められる場合は、警告書の送付を検討します。
警告書は権利者自身が作成して送付することもできますが、専門家に依頼することで法的により確実な内容になります。
ただし、専門家からの警告書は、被疑侵害者に対して攻撃的と受け取られる可能性もあります。このため、場合によっては権利者がビジネス・レター形式で柔らかい表現で使用中止を求めることも選択肢となります。
被疑侵害者の中には、商標登録の存在を知らずに使用している場合もあります。そのため、適切な警告を行うことで、速やかに使用を中止するケースも少なくありません。
(2)警告書の作成と送付方法
専門家に警告書の作成を依頼する場合、必要な資料(商標登録証や侵害の証拠など)を事前に準備して相談の際に提供します。警告書には以下の内容が含まれます:
- 登録商標の詳細
- 商標権侵害の具体的な指摘
- 被疑侵害者に求める対応(例:使用中止)
送付方法として内容証明郵便の利用が一般的です。内容証明郵便を利用することで、以下のメリットがあります:
- 郵便局が送付した事実を証明してくれる
- どのような内容を送付したか後日確認可能
- 配達証明を併用することで到達日も把握できる
内容証明郵便は、郵便局窓口またはインターネット経由の電子内容証明サービスを利用して送付できます。
送付先は、被疑侵害者または被疑侵害品の製造業者です。
取引先にも警告書を送付したいと考える場合がありますが、後に侵害が否定された場合には、営業誹謗行為とみなされて責任追及を受けるリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
(3)交渉と次のステップ
警告書を送付しても回答がない場合、再度警告書を送付することがあります。それでも反応がない場合は、訴訟や差止請求といった法的手段を検討します。
一方で、被疑侵害者が話し合いによる解決を望む場合、交渉を通じて和解の可能性を探ります。
この場合、警告書の段階から専門家に交渉対応も含めて依頼するか検討することが重要です。交渉は専門的な知識が必要となるため、専門家の助力を得ることで、権利者にとって最善の結果を目指すことができます。
3.被疑侵害者として商標権侵害の対応策
(1)警告書への回答書作成
警告書を受け取った場合、速やかに対応することが重要です。期限内に対応できない場合でも、事前に「検討時間をいただきたい」と一報を入れておくことで、誠実な姿勢を示すことができます。
回答書の作成は非常に重要であり、慎重に進める必要があります。
特に、警告内容に反論する場合は、正確な法律知識と事実関係の整理が不可欠です。そのため、弁理士や弁護士などの専門家と相談し、対応方針を確立した上で回答書を作成・送付するのが望ましいです。
回答書には、一般に以下のポイントを盛り込む必要があります。
- 警告内容への対応方針(使用中止の可否など)
- 必要な場合、反論や事実の訂正
- 権利者との協議を希望する旨(交渉を行う場合)
(2)権利者との交渉
商標権侵害が事実である場合は、原則として速やかに使用を中止する必要があります。ただし、次のような事情がある場合は、権利者との交渉が必要です:
- 在庫品の処理:残存する在庫を販売したい場合、使用中止のタイミングについて話し合いが求められます
- ライセンス契約の締結:権利者が了承すれば、ライセンス契約を結ぶことで使用を継続することが可能です。この場合、契約条件について詳細な交渉が必要です
交渉を希望する場合、回答書にその旨を記載するか、別途電話などで連絡を入れ、話し合いの場を設けるよう求めると良いでしょう。
また、交渉を専門家に依頼する場合は、その費用や対応内容について事前に確認しておくとスムーズに進みます。
ポイント
- 迅速かつ冷静な対応:警告書を放置すると問題が拡大するため、速やかに専門家と相談する
- 柔軟な交渉:権利者との対話を通じて、最善の解決策を見つける
- 専門家の助力を活用:法律の専門知識を活かし、リスクを最小限に抑える
誠実な対応と適切な戦略で、トラブルを解決し、ビジネスの信頼を守りましょう。
4.警告書等の作成・送付や交渉事件の費用
(1)警告書や回答書の作成・送付費用
警告書や回答書の作成・送付にかかる費用の目安は以下の通りです。
警告書の作成・送付 | 50,000〜円/1通 |
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回答書の作成・送付 | 80,000円〜円/1通 |
2回目以降の書面の作成・送付 | 80,000円〜円/1通 |
- 警告書:侵害の事実を整理し、権利者としての主張を明確にするための費用
- 回答書:警告書の内容を分析し、反論を含む慎重な文面を作成するため、警告書よりも費用が高くなることが一般的です
2回目以降の書面の作成も同様に追加費用が発生します。なお、書面送付には内容証明郵便を利用するため、実費(郵便料金)が別途発生します。
また、交渉による解決が可能と判断される場合は、警告書や回答書の作成に加え、交渉事件として処理を依頼することもご検討ください。
(2)交渉事件の費用
交渉事件にかかる費用は、以下の項目で構成されます:
- 着手金:案件を開始する際に発生する費用
- 報酬金:交渉が成功した場合に発生する成功報酬
- 日当と実費:
- 移動が必要な場合の日当。
- 交通費や宿泊費などの実費。
交渉事件の費用は、案件の経済的利益(解決による金銭的価値)を基準に算定されます。ただし、商標権侵害問題の初期段階では経済的利益を算定しにくいケースも多いため、事案の難易度や依頼者の要望を考慮して費用を見積もります。
ご依頼にあたって
交渉事件をご検討の場合、詳細な費用については個別の見積もりを提示させていただきます。まずはお気軽にお問い合わせください。
注意点
商標権侵害の対応には専門性が求められます。費用を含めた透明性の高い説明を心掛けておりますので、解決への第一歩として弁理士・弁理士の専門家への相談をお勧めします。
ファーイースト国際特許事務所弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247