ある日突然、自社の商品名が他社から「商標権を侵害している」と指摘される。あるいは、自社の登録商標とそっくりな名称を使っている会社を見つけてしまう。こうした場面は、ビジネスをしていれば決して他人事ではありません。
問題は、発覚した瞬間にどう動くかです。最初の対応を誤ると、話し合いで済んだはずの話が訴訟に発展したり、逆にこちらが営業妨害で責められる側に回ったりします。
今回は、権利者の立場と、警告を受けた側の立場、それぞれでどう対応すべきかを整理します。交渉や書面作成にかかる費用の目安もあわせて紹介します。
1. 対応の基本方針
商標権侵害が疑われる場面では、自分がどちらの立場にいるかによって動き方が変わります。
権利を持っている側であれば、まずは侵害を止めさせたい、場合によっては損害賠償も請求したいと考えます。一方、警告書を受け取った側は、無視するのが一番まずい選択です。放っておけば問題が大きくなるだけで、結局はこちらの首を絞めることになります。
最初は書面のやりとりから
商標権侵害の問題は、いきなり法廷に持ち込まれるケースは稀です。多くは書面のやりとりから始まり、双方の主張を擦り合わせる中で落としどころを探っていきます。
この段階で大切なのは、感情的にならないことです。相手に言い分があっても、こちらに言い分があっても、一度落ち着いて、法的な整理をしたうえで冷静に動くこと。ここで熱くなって強い言葉を書面に残してしまうと、後で足を引っ張られます。
商標権侵害の対応は、判断のスピードと精度で勝負が決まります。早い段階で専門家の意見を聞いておけば、取れる選択肢の幅が広がります。
2. 権利者として侵害に対応する
警告書を送る前に確認すること
自社の商標が勝手に使われている、と気づいたとき、いきなり警告書を送りつけたくなる気持ちはわかります。ただ、その前に弁理士や弁護士に相談することをお勧めします。
なぜかというと、侵害に見えても法的には成立しないケースがあるからです。指定商品・役務の範囲、類似の判断、使用態様、先使用権の有無——素人目には「アウト」に見えても、詰めて検討すると微妙なラインだったという事例は珍しくありません。
専門家に見てもらったうえで、本当に侵害が認められそうなら警告書を出す、という順番です。
警告書は権利者本人が書いて送ることもできます。ただ、弁理士名・弁護士名で出す書面のほうが、法的な裏付けがある分、相手への効き方が違います。
一方で、弁理士・弁護士名の警告書は相手に「いきなり戦闘モードで来た」と受け取られることもあります。取引上の関係や今後の付き合いを考えると、最初はビジネスレター形式で、やわらかい表現で使用中止を求めるという選択肢もあります。
実際、相手が商標登録の存在を知らずに使っていただけ、というケースも少なくありません。穏当な一報で、すんなり使用をやめてくれることもあります。
警告書の書き方と送り方
専門家に警告書の作成を依頼するときは、商標登録証や侵害の証拠となる写真・画像・販売ページのコピーなどを、相談の段階で揃えておきます。
警告書には主に次の内容を盛り込みます。
- 登録商標の情報(登録番号、指定商品・役務)
- 相手のどの行為が侵害にあたるのかの具体的な指摘
- 使用中止など、相手に求めたい対応
送付方法としては、内容証明郵便が一般的です。内容証明を使うメリットは次のとおりです。
- 郵便局が「この内容で送った」という事実を証明してくれる
- どんな文面を送ったかを後から客観的に確認できる
- 配達証明を付ければ、相手に到達した日付も記録に残せる
郵便局の窓口から出す方法のほか、インターネット経由の電子内容証明も使えます。
送付先は、原則として被疑侵害者本人、あるいは侵害品を作っている製造業者です。
ここで注意したいのが、相手の取引先にも警告書を送りたくなるケースです。気持ちはわかりますが、後で「やはり侵害ではなかった」という結論になった場合、営業誹謗行為として逆に訴えられるリスクがあります。取引先への送付は慎重に判断してください。
交渉と次の一手
警告書を送っても、相手から何の反応もないことがあります。その場合、二通目を送るのが通常の流れです。
それでも音沙汰なしなら、訴訟や差止請求といった法的手段を検討する段階に入ります。
一方で、相手が「話し合いで解決したい」と返してくることも多くあります。その場合は、交渉を通じて和解の道を探ります。
交渉には法律の知識と駆け引きの両方が要ります。警告書の段階から、交渉対応まで含めて弁理士・弁護士に依頼しておくと、話の流れが切れずに済みます。
3. 警告を受けた側としての対応策
回答書をどう作るか
警告書が届いたら、まずは期日を確認して、すぐに動き出してください。期限内にきちんとした回答ができそうにないときは、先に「検討に時間を要するため、回答期限を○日まで延ばしてほしい」と一報を入れておきましょう。このひと言があるだけで、相手の印象は大きく変わります。
回答書の中身は、その後の展開を左右する肝の部分です。勢いで書いてしまうと、後で覆すのが難しくなります。
警告内容に反論するなら、法律知識と事実関係の整理が前提になります。このあたりは自社だけで判断せず、弁理士や弁護士に相談して方針を固めてから書面を作ることを強くお勧めします。
回答書には一般的に次の内容を入れます。
- 警告内容にどう対応するのか(使用中止するか、しないか)
- 反論がある場合、その法的根拠と事実関係
- 交渉を希望する場合は、その旨
権利者との交渉
もし警告内容が正当で、こちらの商標使用が侵害にあたるのであれば、原則として速やかに使用をやめます。
ただし、次のようなケースでは、権利者と話し合う余地があります。
- 在庫品の処理:すでに製造済みの商品が倉庫に残っている場合、使用中止のタイミングや販売猶予について相談する
- ライセンス契約の検討:権利者が了承すれば、ライセンスを受けて使用を継続できる場合がある。契約条件の詳細な詰めが前提になる
交渉を希望するときは、回答書にその旨を書くか、別途電話などで「一度お話しさせてください」と連絡を入れるとよいでしょう。
交渉対応を専門家に任せるときは、費用や対応範囲を事前に確認しておくと、後で齟齬が生まれにくくなります。
被疑侵害者の立場で押さえておきたいポイント
- 放置しない:警告書を無視すれば問題は拡大する一方。届いた時点で専門家に連絡する
- 柔軟に交渉する:真正面からぶつかるだけでなく、対話の中で落としどころを見つける姿勢を持つ
- 専門家の力を借りる:法律判断と交渉術の両面で、経験者の助力を得る
誠実に動きながら戦略的に進めることで、トラブルを最小限に抑えてビジネスの信頼を守れます。
4. 書面作成・交渉事件の費用
警告書・回答書の作成費用の目安
警告書や回答書の作成・送付にかかる費用の目安は次のとおりです。
- 警告書の作成・送付:50,000円〜/1通
- 回答書の作成・送付:80,000円〜/1通
- 2通目以降の書面:80,000円〜/1通
警告書は、侵害の事実関係を整理して権利者としての主張を組み立てる作業です。これに対して回答書は、相手が送ってきた警告書の内容を法的に分析したうえで、反論や方針を丁寧に組み立てていきます。その分、手間がかかるため費用も警告書より高めになります。
2通目以降の書面についても、同様に追加費用が発生します。書面は内容証明郵便で送るため、郵便料金の実費は別途かかります。
交渉による解決が見込めそうな場合は、書面作成だけでなく、交渉事件として受任する形もご検討ください。
交渉事件の費用構成
交渉事件の費用は、おおむね次の項目で組み立てます。
- 着手金:案件を受任する時点で発生する費用
- 報酬金:交渉がまとまった際の成功報酬
- 日当:相手方や裁判所などへの出張が発生した場合
- 実費:交通費、宿泊費、通信費などの実費
交渉事件の費用は、案件の経済的利益(解決によって得られる金額、あるいは防げる損失)を基準に算定するのが基本です。
ただし、商標権侵害の初期段階では経済的利益を金額換算しにくい場面も多いため、事案の難易度や依頼者のご要望に応じて個別にお見積もりします。
ご依頼にあたって
交渉事件のご依頼をご検討の場合、詳細な費用は個別にお見積もりいたします。まずはお気軽にご相談ください。
最後にひとこと
商標権侵害の対応は、法的な知識だけでなく、相手との駆け引きや交渉の読みも問われる分野です。専門家に早めに相談しておけば、取れる選択肢が増え、最終的な着地点も有利になります。
当事務所では、実務10年以上の現役ベテラン弁理士・弁護士が最初から最後までお客さまを直接担当し、費用の内訳についてもできる限り透明に説明しています。商標権侵害でお困りの方は、解決への第一歩として一度ご相談ください。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
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