小売等役務商標制度:店舗やネットショップの商標を守るために

無料商標調査 商標登録革命

(1)小売等役務商標制度とは?

小売業や卸売業を営む方々(以下、小売業者等)が使用する商標を、サービスマーク(役務商標)として保護する制度が「小売等役務商標制度」です。

この制度は、すでに多くの国で導入されており、日本では2007年に商標法の改正によってスタートしました。

対象となる業種

例えば、以下のような小売業や卸売業が、この制度の保護対象となります。

  • スーパーやコンビニ、青果店、酒屋、精肉店、書店などの個人商店
  • 百貨店、ホームセンター、家電量販店といった大型店舗
  • ネットショップやカタログ通販、テレビショッピングなどの通信販売

この制度を活用することで、ブランドや店舗名を法的に守り、他社の不正利用から保護することができます。

(2)制度によって商標登録が身近に

2-1. 施行前の状況は?

これまで、百貨店やコンビニなどの店舗は、商品の販売に関連したサービスも提供していました。例えば、百貨店では多くの商品が揃い、明るく清潔な店内で、丁寧な接客を受けながら商品を選べます。

しかし、このようなサービスは販売の一環であり、その対価は直接請求されるわけではありません。このため、商標法で「役務」に該当せず、店舗関連の商標は保護の対象外とされていました。

結果として、小売業者は役務ではなく、取り扱う商品自体を商標登録することで商標権を守ってきました。しかし、扱う商品が多岐にわたる場合、全てを商標登録するのは費用が高額になり、現実的に困難でした。

2-2. 改善された点は?

商標法の改正により、小売等役務商標制度が導入され、販売に関連する顧客サービスも「役務」に含まれるようになりました。これにより、これまで保護の対象外だったショッピングカートや店員の制服なども、商標として登録できるようになりました。

さらに、広範囲なサービスが一括で認められるため、商品やサービスの種類が多くても高額な費用をかけずに商標を保護できるようになりました。

2-3. 小売等役務商標の活用方法

小売業者等は、以下の対象に商標を表示し、サービスとして提供しています。

1) 周知するもの

  • 店舗の看板
  • 折込チラシ、カタログ
  • ウェブサイト作成、広告(テレビ・インターネット)

2) 店舗に関連するもの

  • 売場の名称・案内板
  • 陳列棚、レジ、ショッピングカート、値札
  • 商品の陳列方法や品揃え

3) 接客に関連するもの

  • 店員の制服・名札
  • 商品の説明・試用
  • レシート、レジ袋、包装紙

(3)小売等役務商標はどの区分に?

3-1. 区分と指定役務について

商標は内容によって45の区分に分けられています。第1類から第34類までは「商品」を扱い、第35類から第45類までは「役務(サービス)」に該当します。役務に関連する商標は「サービスマーク」と呼ばれます。

小売等役務商標制度は、サービスマークとして商標を保護するものであり、その区分は次の通りです。

第35類:「小売または卸売業における顧客への便益提供」

この制度では、小売業や卸売業で取り扱われるすべての商品が対象となり、ネットショップも含まれます。さらに、「小売サービス」としてまとめて商標登録できるため、手続きが簡単になり、費用も抑えられるメリットがあります。

3-2. 「小売商標」と「商品商標」の違いに注意

第35類は「小売業や卸売業の商標」を保護する区分ですが、ブランド自体を守るものではありません。ここで気をつけるべきは、「小売商標」と「商品商標」の違いです。

  • 小売商標: 商品を販売する際に付随する要素(例: 店舗の看板や販促物)
  • 商品商標: 商品そのものを保護する商標(例: ブランド名が印字された商品)

例えば、店舗の看板は「小売商標」に該当し、ブランド名が表示された商品は「商品商標」に該当します。この2つを混同しないよう注意が必要です。

もし自社ブランドを立ち上げ、商品を販売する際は、その商品に適した区分で「商品商標」を登録する必要があります。

また、第35類には他にも次のような業務等が含まれています。

  • 広告、事業の管理や運営
  • 市場調査、企業動向の分析
  • フランチャイズ事業の運営
  • 職業のあっせん

これらの業務を行う場合も、第35類の商標登録が必要となります。

3-3. 小売役務商標のメリットとデメリット

メリット

小売役務商標の大きなメリットは、特定の商品をこの商標制度で登録することで、同じ商品区分で他社が商標を登録するのを防げる点です。

例えば、第35類で「化粧品およびせっけん類の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」として商標登録をすると、他の人が第3類「化粧品・せっけん類」に同一または類似の商標を登録することができなくなります。これにより、あなたの商品やブランドの独自性を守ることができます。

デメリット

一方で、第35類を指定すればすべての商品について自動的に権利が得られるわけではありません。必ず、具体的な小売または卸売業における顧客サービスの内容を詳しく記載する必要があります。

例えば、願書に書き漏らした内容については、後から追記することはできません。そのため、提出前に記載内容をしっかりと確認し、抜けがないよう注意が必要です。願書の内容は細かくチェックして、具体的に書かれているかどうか確認しましょう。

3-4. 実際に登録されている商標は?

実際に登録されている小売役務商標としては、例えば、セブンイレブンの50周年記念のロゴなどがあります。

商標登録第6705704号(株式会社セブン−イレブン・ジャパン)

特許庁の商標公報より引用

区分と指定役務は以下のようになります。

「広告業,経営の診断又は経営に関する助言,事業の管理,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,おむつの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,食肉の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,食用水産物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,野菜及び果実の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,米穀類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,牛乳の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,清涼飲料及び果実飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,茶・コーヒー及びココアの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,建具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,畳類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,葬祭用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,手動利器・手動工具及び金具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,薬剤及び医療補助品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,農耕用品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,花及び木の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,燃料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,楽器及びレコードの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,写真機械器具及び写真材料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,建築材料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

小売役務商標制度は、最低料金の一つの区分で、多面的に権利範囲を取得できるのが特徴です。

(4)小売等役務商標を登録するには 〜出願から更新まで

小売等役務商標を登録するための手続きは、通常の商標登録とほぼ同じです。ここでは、出願から更新までの流れを順を追って説明します。

4-1. 出願手続き

小売等役務商標の出願は、通常の商標登録と同様の流れです。願書に必要事項を記載し、商標の見本を添付して特許庁に提出します。出願料も通常の商標と同じで、特許印紙または現金で支払います。

商標は「先願主義」なので、早めに出願することが有利です。

《特許庁に納める商標出願印紙代》

  • 3,400円 + 8,600円 × 区分数

4-2. 登録手続き

出願後は、特許庁で審査が行われます。審査を通過した場合、商標登録料を納付することで小売等役務商標が登録されます。

《特許庁に納める商標登録印紙代》

  • 一括納付:区分数 × 32,900円(10年分)
  • 分割納付:区分数 × 17,200円(前期・後期5年ごと)

4-3. 更新手続き

小売等役務商標の権利は、登録日から10年間有効です。その後も、更新手続きを行うことで、さらに10年間権利を継続することが可能です。更新手続きも通常の商標登録と同じです。

《特許庁に納める更新登録申請印紙代》

  • 一括納付:区分数 × 43,600円(10年分)
  • 分割納付:区分数 × 22,800円(前期・後期5年ごと)

(5)まとめ

小売等役務商標制度のおかげで、これまで費用の面で商標登録をためらっていた中小企業や個人商店の方々でも、手軽に商標を登録できるようになりました。

特に、個人でネットショップを運営する方が増えている今、この制度の重要性はさらに高まっています。

また、関係業種でない方も、普段訪れる商店街やスーパーで見かける多くのものが、実は商標で保護されていることに驚くかもしれません。

商標登録は決して難しい手続きではなく、私たちの生活に深く関わっています。この機会に身近なものに目を向け、商標登録をより身近に感じてみてはいかがでしょうか。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

無料商標調査

あなたの商標が最短1ヶ月で登録できるかどうか、分かります
識別性を判断することで、商標登録できるかどうか、分かります
業務分野の検討が、商標の価値を最大化します

無料の商標調査を申し込む

コメントする