索引
初めに
商標登録を考えているなら、特許庁に出願する前に「その商標が登録可能か」を確認することが重要です。特許庁のデータベース「J-PlatPat」を使えば、すでに登録されている商標を無料で調べることができます。しかし、その前に実施すべき準備があります。
今回は、初心者でも簡単にできる「商標検索の前準備」について、分かりやすく解説します。
(1)まずは検索エンジンで調べよう
(A)商標の「位置づけ」を確認する
商標登録を希望する場合、まずは「その商標が実際に登録できるか」をチェックする必要があります。同じまたは類似の商標がすでに登録されている場合、新たに出願しても拒絶される可能性が高いからです。
そこで、いきなり特許庁のデータベースを使うのではなく、まずは検索エンジンで調べてみましょう。
検索エンジンを活用する理由
1. 既に広く使われているか確認できる
商標として登録されていなくても、広く使われている名称はトラブルのもとになります。
2. 競合の使用状況を把握できる
似た商標を使っている企業がある場合、登録しても紛争になる可能性があります。
3. 商標の市場での位置づけを知る
類似の商標がどの業界で使われているかを確認することで、登録の可否を予測しやすくなります。
検索エンジンで「商標名 + 業種名」などのキーワードで調べ、競合や類似の使用例をチェックしましょう。
(B)検索エンジンでの競合状況を確認し、商標を見直す
商標を登録する前に、まずは 検索エンジンで競合する名前がないかチェック しましょう。
例えば、「イツビシ商事」という商標を登録したいと考えた場合、Googleで検索すると、検索結果のトップに 「三菱商事」 が表示されます(2025年2月4日時点)。
たとえ現時点で「イツビシ商事」という会社が存在しなかったとしても、検索結果の上位に競合する有名企業が表示される場合、その名前での事業展開は不利 です。
なぜなら、お客様が「イツビシ商事」と検索しても、先に「三菱商事」が表示されてしまい、自社のホームページに、いつまで経ってもたどり着くことができないからです。
もしこの状態で事業を始める場合、検索結果で「三菱商事」より上位に表示されるために SEO対策を徹底し、強力なウェブ戦略を展開する必要 があります。しかし、これは時間もコストもかかる非常に厳しい道です。
もちろん、長期的に努力すれば「三菱商事」を超える検索順位を獲得する可能性もありますが、事業の立ち上げ段階でわざわざ競争の激しいフィールドに飛び込む必要はありません。
「検索結果で埋もれてしまうリスクが高い名称」は、最初から避けるのが賢明です。
🔍 商標のネーミングを決める際は、検索エンジンで事前に調査し、競合が強すぎないかを確認しましょう!
(C)有名ブランドを連想させる商標はNG!
商標登録を考える際、有名ブランドと誤解される可能性のある名称は避けましょう。
たとえば、「ジョニーウォーカー」という名前はウイスキーで有名ですが、仮に靴のブランドとして登録されていなくても、その名称を使用するのは危険です。
なぜなら、特許庁は「有名ブランドと何らかの関係があると誤認される商標」を審査で拒絶するためです(商標法第4条第1項第15号)。
つまり、実際に登録がなくても、有名ブランドに似た商標は認められない可能性が高いのです。
商標登録できなくても、法的リスクはある!
さらに、仮に商標登録がされていない場合でも、実際に商品にその名称を使用すると 不正競争防止法 などの法律で訴えられる可能性があります。「有名ブランドの名前を使って商売している」と見なされると、法的トラブルに発展する恐れがあるのです。
検索結果でも不利に…
また、仮に法的問題を免れたとしても、検索エンジンの検索結果では不利になります。有名ブランドと同じ名前を使っていると、検索した際にそのブランドの公式サイトや関連情報が優先され、自分のサイトは埋もれてしまう可能性が高いです。
商標選びは慎重に!
- 有名ブランドを連想させる商標は登録できない可能性が高い
- 登録されていなくても、不正競争防止法で訴えられるリスクがある
- 検索結果で上位表示が難しくなる可能性がある
商標選びの際は、必ず 既存の有名ブランドとの混同がないか 確認しましょう!
(D)ネガティブな意味がないか確認しよう!
商標を決める前に、その言葉に マイナスの意味 が含まれていないかをしっかりチェックしましょう。辞書やネット検索、スラング辞典などを活用して、 意図しないネガティブな意味 がないか確認することが重要です。
例えば、ある言葉がスラングとして 不適切な意味 を持っていた場合、その商標を使うことでブランドの品格が疑われる可能性もあります。最悪の場合、 消費者の印象を損ねたり、炎上の原因 になることも…。
💡 商標登録にはコストも時間もかかるもの。
登録前に リスクを回避 するためにも、事前チェックは必須です!
(2)関連登録を調べて指定商品・指定役務の範囲を確認しよう
(A)商標の権利範囲を把握する
商標登録を行う際、登録するのは商標そのものだけではなく、その商標を使用する商品やサービス(役務)を指定する必要があります。商標権は、この指定した範囲内でのみ発生する仕組みです。
もし、自社で使用しない商品やサービスにまで商標権を取得すると、無駄な費用がかかってしまいます。これは、実際に住む予定のない土地を購入するのと同じようなものです。逆に、必要な範囲を指定しないと、他者に先取りされるリスクが生じます。
どの範囲まで指定すれば良いのか判断に迷うこともあります。
その際は、他社がどのような範囲で商標権を取得しているのかを参考にしましょう。
実際の商標登録例
A. LINEの場合
例えば、LINE(ライン)のようなスマートフォン向けチャットサービスを提供する企業は、以下のような範囲で商標登録を行っています。
参考情報:商標登録第5669069号
- 第9類:携帯電話機、電子メール・チャットに関する通信機能を有する電子計算機用プログラム など
- 第38類:インターネットを利用したチャットルーム形式の電子掲示板通信、電子メールによる通信 など
- 第41類:ソーシャルネットワーキングサイトを活用した娯楽・娯楽情報の提供 など
- 第42類:インターネット・モバイル通信を介した電子掲示板、チャットルーム、ブログ用サーバーの記憶領域の貸与 など
B. Facebookの場合
Facebook(フェイスブック)の場合も、広範囲にわたる商品・役務で商標登録を行っています。
参考情報:国際登録第1075094号
- 第9類:アプリケーションプログラムインターフェース(API)用のコンピュータソフトウェア など
- 第35類:オンライン広告の提供 など
- 第38類:インターネットを利用したチャットルーム形式の電子掲示板通信、オンラインネットワークサービスの運営 など
- 第41類:オンラインゲームの提供、ユーザー作成コンテンツの提供、個人化されたウェブページの提供 など
- 第45類:オンラインを通じた社会的ネットワークの構築 など
区分(クラス)とは?
上記の「第9類」「第35類」といった分類は「区分」と呼ばれ、特許庁が商標の範囲を分けるための基準です。商標登録時の費用は、この区分ごとに発生します。
- 多くの区分を指定すると、より広範な権利を確保できるが、費用が高くなる
- 逆に、区分を絞るとコストは抑えられるが、未取得の範囲で他人に権利を取られるリスクがある
権利範囲の決め方
商標の権利範囲を決める際には、次の2つの視点で考えましょう。
1. 必ず取得すべき範囲:
- 競合に先に取られると業務ができなくなる範囲
- 事業の核となる商品・サービスに関する区分
2. 取得したほうが良い範囲:
- 将来的な事業展開の可能性がある分野
- 競争優位を確保するための追加的な区分
まずは、事業の根幹となる商品・サービスに必要な範囲で商標登録を行い、事業の拡大に応じて追加登録を検討するのが良い戦略です。
登録しなければ、他社に権利を横取りされてしまうのですが、これを気にしだすと、あれもこれも、となって収拾がつかなくなります。費用との見合いでどこかで線引きは必要です。
商標登録の際は、他社の事例を参考にしつつ、無駄なく、かつ十分な範囲で権利を確保することが重要です。自社のビジネスモデルに合った商標戦略を立て、適切な区分で登録を進めましょう。
(3)ライバルの商標登録範囲を確認しよう
A. ライバルがどこまで権利を取得しているか調べる
商標登録を進める前に、ライバルがどの範囲で商標を取得しているかを調査することが重要です。
たとえば、LINEやFacebookの商標登録例を参考にすると、どのように権利を守っているのかが分かります。イメージがつかめたら、次は具体的にライバルの商標登録状況を調べてみましょう。
無料の商標検索データベース「J-PlatPat」を活用する
商標登録の情報を調べるには、特許庁が提供する無料のデータベース「J-PlatPat(ジェイプラットパット)」 を活用しましょう。
使い方が分からない場合は、ページ上部に案内されているヘルプデスクを利用すれば、無料で調べ方を教えてもらえます。
J-PlatPatでライバルの商標を検索する方法
1. 特許庁のホームページにアクセス
検索エンジンで「特許庁」と検索し、公式サイトを開きます。
2. 「J-PlatPat」を開く
特許庁のJPLATPAT
無料の商標データベースにアクセス。
3. 「商標検索」タブを選択
J Plat Patの検索画面
メニューの中から商標検索を選びます。
4. 「出願人」の検索項目に企業名を入力
J Plat Patの検索画面
例として「熊本県」と入力し、検索を実行します。
5. 検索結果から該当の商標を確認
J Plat Patの検索画面
気になる商標をクリックすると、どの範囲で登録されているかの詳細が分かります。
6. 実際にライバルの商標を調査しよう
今回は例として「くまモン」の商標を取り上げましたが、できるだけ多くのライバルの商標登録情報を調べてみましょう。
どの業種・カテゴリーで商標が取得されているのかを分析すれば、自分の商標をどこまで登録すべきかの全体像が見えてきます。
✅ ここがポイント
- ライバルの商標登録範囲を確認することが重要!
- J-PlatPatを活用すれば、無料で商標情報を調査できる。
- 複数のライバル企業の登録状況を比較し、戦略を立てよう。
商標登録は、事前のリサーチが成功のカギ!
しっかり調べて、「あとから権利侵害に気づいた…!」という事態を防ぎましょう。
(4)まとめ:賢い商品・役務の選び方
商標登録をする際、商品や役務の区分(カテゴリ)が課金の単位となります。そのため、同じ区分で複数回に分けて出願するのは避けるのが賢明です。
同じ区分で分けて出願すると、手続きのたびに費用が発生し、結果的にコストが2倍・3倍と膨らんでしまうからです。
したがって、可能な限り1回の出願で、必要な範囲の権利をまとめて確保することをおすすめします。
また、必要な権利範囲が複数の区分にまたがる場合もあるため、事前のリサーチが重要です。
出願後に「この区分もカバーすべきだった…」と後悔しないように、根気よく調査し、権利取得の漏れがないよう注意しましょう。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘 03-6667-0247