索引
- (1)商標の「区分」は権利範囲ではなく課金単位
- (2)指定商品・指定役務を減らしても審査が通りやすくなるとは限らない
- (3)商標出願の願書には、類似する商品・サービスと類似しない商品・サービスが混在している
- (4)【商標登録の願書提出前にチェックすべきポイント】
商標の「区分」は権利範囲ではなく課金単位
1. 区分は特許庁の課金基準
商標登録を行う際には、次の情報を願書に記載します。
- 登録を希望する商標
- 商標を使用する商品・役務
- それらが分類される「区分」
商標には45種類の「区分」があり、例えば化学品は第1類、冠婚葬祭業は第45類に分類されます。区分はあくまで特許庁の課金基準であり、区分の数が増えると印紙代も増加します。
1-2. 願書には具体的な指定商品・役務を記載する必要がある
「雑貨」「グッズ」などの曖昧な表記は認められず、明確な記載が必要です。不明確な場合、審査官から拒絶通知が届きます。また、記載しなかった商品・役務は商標権の対象外となるため注意が必要です。
1-3. 指定商品・役務の数は費用に影響しない
意外かもしれませんが、同じ区分内であれば、指定商品・役務の数が増えても印紙代は変わりません。そのため、将来使用する可能性がある商品・役務はできるだけ記載しておくべきです。
2. 区分と商標権の関係
2-1. 異なる区分でも類似する商品・役務がある
例えば、ビールは第32類、酎ハイは第33類に分類されますが、両者は類似商品とみなされます。そのため、異なる区分だからといって、必ずしも競合商品が無関係になるわけではありません。
2-2. 同じ区分でも類似しない商品・役務がある
例えば、第32類にはビールや清涼飲料が含まれますが、ビールの商標権を取得しても、清涼飲料には権利が及びません。このように、同じ区分内であっても、指定しなかった商品・役務には商標権の効力が及ばないため、慎重に選択する必要があります。
3. 一度出願すると後から追加できない
願書提出後、商品・役務を追加することはできません。もし最初の出願時に広い範囲をカバーしておけば、追加の費用をかけずに権利を取得できたかもしれません。
4. 商標権取得の最適な戦略
4-1. 出願時にできるだけ広い範囲をカバーする
追加料金なしで取得できる範囲は、できるだけ広げるべきです。出願時には現在の事業だけでなく、将来展開する可能性のある商品・役務も考慮しましょう。
4-2. 区分の数が権利の広さを決めるわけではない
商標権の強さは区分数ではなく、指定商品・役務の適切な選択にかかっています。費用を抑えながらも、競合に先んじて権利を確保することが重要です。
ここがポイント
商標登録の際、「狭く申請すれば安く済む」と考えるのは誤解です。指定商品・役務の選択は慎重に行い、可能な限り追加料金の支払いなしで、広い範囲をカバーすることで、将来的なリスクを回避しましょう。
(2)指定商品指定役務の数を減らしても審査に合格しやすいとは限らない
指定商品・指定役務を減らせば審査に合格しやすい? それは誤解です!
一部の人は「指定商品や指定役務を減らせば審査に通りやすくなる」と考えているかもしれませんが、これは必ずしも正しくありません。むしろ、指定商品を減らしても 費用は変わらず、審査の合格率も変わらない場合があります。
例えば、「バナナ、リンゴ、イチゴ」の3つを指定商品として商標登録を出願したとします。この場合で審査の段階で先行登録商標に「バナナ」が含まれていることが判明しました。
「では、バナナを削除すればいいのでは?」と考えるかもしれません。ですが、 単にバナナを削除しただけでは、審査に合格できないのです。
バナナを削除してもリンゴやイチゴが残ればNGな理由
商標法では、指定商品が類似するかどうかが審査の大きなポイントになります。
バナナを削除しても、リンゴやイチゴが残っている限り、同じ「果物」という単位で類似すると判断されます。つまり、
バナナと同じカテゴリーのリンゴやイチゴが残っていると、先行商標と衝突するため審査に通らないのです。
指定商品を減らしても費用は変わらない
仮に、一部の商品を削除したとしても 審査料や登録料の費用は変わりません。
商標登録の費用は、指定商品や役務が属する区分単位で決まるため、同じ区分内で一部の商品を削除しても、費用の削減にはならないのです。
審査を通すために必要なこと
指定商品や指定役務を減らすことで審査が通りやすくなるのは、以下のような場合に限られます。
✔ 同一区分内で類似する商品をすべて削除すること
✔ 先行商標と衝突しない範囲に調整すること
単に数を減らすだけでは 審査合格にはつながらない ため、慎重に判断しましょう。
(3)商標出願の願書には、類似する商品・サービスと類似しない商品・サービスが混在している
商標登録の経験がある方には当たり前かもしれませんが、商標出願の願書には類似する商品・サービスと類似しない商品・サービスが区分ごとに整理されて記載されています。
しかし、この記載方法は、商標登録に慣れていない人にとっては少し分かりにくいかもしれません。
類似する商品・サービスの取り扱いは同じ
例えば、ある区分内に類似する商品・サービスが1つしかない場合と1万個ある場合でも、法律上の扱いはまったく同じです。
同じ区分内にある類似する商品・サービスの集合はその数が同じでも違いがあっても、登録費用も同じですし、審査の通りやすさにも影響しません。
「類似しない」商品・サービスの記載が重要
商標の権利範囲を広げるためには、願書に記載される「類似しない」商品・サービスに注目することが大切です。
類似しない商品・サービスが多く含まれる場合
→ 広範囲な権利を取得でき、他人が簡単に真似できなくなります。(まるで「散弾銃」のように広くカバーするイメージ)
類似する商品・サービスばかりの場合
→ 願書に記載のない類似しない商品・サービスには権利が及ばないため、他人に無断で使用されても対抗できません。
商標をより強いものにするためには、どのような商品・サービスを指定するかが重要です。「どの範囲まで商標の権利を及ぼすのか」をしっかり考えたうえで、戦略的に出願しましょう。
(4)【商標登録の願書提出前にチェックすべきポイント】
商標登録の願書を提出する際、見落としてはいけない重要なポイントがあります。それは、「追加料金なしで取得できる範囲内で、必要な商品・役務が漏れなく含まれているか」を確認することです。
願書を出す段階では、「まずは狭い範囲でも商標権を取れればいい」と考えるかもしれません。
しかし、事業が成長し、登録商標を活用した商品やサービスが売上を伸ばしたとき、問題が発生する可能性があります。もし、指定商品・指定役務の範囲を広く取らずに登録してしまうと、後になって他人に権利を取られ、思わぬトラブルに巻き込まれることになりかねません。
現在の特許庁の商標登録の運用では、現在使用している商品役務だけでなく、近い将来実施する予定のある商品役務の範囲の登録もみとめています。
特許庁に願書を提出する前に、追加料金がかからない範囲で、必要な商品・役務の指定が漏れていないかを必ず確認しましょう。将来のビジネスの成長を見据え、万全の準備をしておくことが大切です。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247