索引
(1)これまでの状況について
それぞれが歴史をもち、人々に親しまれてきた伝統工芸品には、その場所の名前を付けられたものが多くあります。けれど商標登録を考えた場合には、地名が入っていることは1つのハードルになっていました。
これまで商標法では、「地名+商品内容」だけの商標では登録が困難でした。これは根底に「東京」や「大阪」などの地名は多くの人が使いたいものであり、一個人に独占されるものではないという考えがありました。
すでに一般的に使われている場合も多く、ほかとの識別が難しいという事情もあります。
そのため知名度が全国的に高く、長い間使用されており、ほかと混同される心配がないなど、特別な状況でないかぎり、商標登録が認められることは稀でした。
(2)地域団体商標を知りましょう
2006年から始まった地域団体商標制度によって、それぞれの地域ブランドを地元の人々が守り、育てることが可能になりました。
ただ地域の名前を取り扱う性格上、商標を受けるための条件が設定されています。それらについて順に説明していきたいと思います。
(2−1)出願できる法人
まず、個人での出願はできません。出願できるのは、地域の共同組合や商工会、特定非営利活動法人(NPO法人)などです。また外国の法人であっても、これらに相当すれば認められています。
(2−2)登録されるためには
地域団体商標制度により登録を受けることができるための条件は次の通りです。
- 1)上記の団体がその商標を構成員に使用させること
- 2)「地域名+商品名・役務名」を記した文字商標(原則として)
- 3)地域に深く関連した商品などに使っていること
- 4)その地域での知名度があること
(2−3)登録までの流れと費用
地域団体商標を出願してから登録するまでは、ほかの商標登録と同様に、「出願ー審査ー登録ー更新」という流れになっています。更新の期限についても同様に、登録日から10年間となっています。
また、特許庁に印紙代として納付する金額は、各過程ごとに以下のようになります。
[商標登録出願料]
3,400円+(区分数×8,600円)
[商標登録料]
一括納付区分数×28,200円(10年分)
分割納付(前期・後期)区分数×16,400円(5年ごと)
[更新登録料]
一括納付区分数×38,800円(10年分)
分割納付(前期・後期)区分数×22,600円(5年ごと)
(3)地域団体商標となった伝統工芸品とその区分
(3−1)地域色豊かな伝統の品々
地域団体商標として登録されている伝統工芸品について、産品別にまとめた一例を以下に示します。
これらはいずれもその土地でつくられたものか、そこに由来する製法を用いたものです。
織物・被服・布製品・履物
琉球びんがた(商標登録 第5010729号)
- 権利者:琉球びんがた事業協同組合
- 区分:第24類「畳べり地を除くびんがた染めの織物(沖縄地域に由来するつくり方で生産)」
工芸品・かばん・器・雑貨
雄勝硯(商標登録 第5727126号)
- 権利者:雄勝硯生産販売協同組合
- 区分:第16類「黒色の粘板岩でつくられる硯(粘板岩は宮城県石巻市雄勝町から産出)」
加賀蒔絵(商標登録 第5068224号)
- 権利者:金沢漆器商工業協同組合
- 区分:第21類「茶箱・重箱・棗・香合・盆・銘々皿・茶托・椀(加賀に由来する蒔絵のつくり方で生産)」
京竹工芸(商標登録 第5133350号)
- 権利者:京都竹工芸品協同組合
- 区分:第21類「竹茶器、竹香合、竹水指、竹菓子器、竹花入、竹茶杓など(いずれも京都産のもの)」
八女提灯(商標登録 第5041631号)
- 権利者:八女提灯協同組合
- 区分:第11類「提灯(福岡県八女地方に伝わる方法で八女市、久留米市など7つの市町村で製作されたもの)」
おもちゃ・人形
江戸甲冑(商標登録 第5030080号)
- 権利者:東京都雛人形工業協同組合
- 区分:第28類「五月人形として飾られる甲冑(東京由来の製法で荒川区、葛飾区など5区で製作)」
仏壇・仏具・葬祭用具・家具
加茂桐箪笥(商標登録 第5140633号)
- 権利者:加茂箪笥協同組合
- 区分:第20類「桐製のたんす(新潟県加茂地域に伝わる方法でつくられたもの)」
(4)伝統工芸品のこれから
商標として伝統工芸品が登録される機会は、地域団体商標制度が始まったことで増加しました。
東京都では40品目の伝統工芸品のなかで、以下の13品が登録されています(表中の江戸甲冑を含む)。
江戸押絵羽子板/江戸衣裳着人形/江戸木目込人形/江戸木版画/江戸甲冑/江戸指物/江戸切子/江戸からかみ/東京銀器/東京染小紋/江戸更紗/東京無地染/江戸小紋/東京手描友禅
全国の伝統工芸品は、現在225品目です。
地域団体商標制度をいっそう活用することで、この先もそれぞれの土地の伝統工芸品の権利を守っていくことができるでしょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247