索 引
商標法第4条第1項の10号、15号、19号では、こちらが出願した商標が他人の有名な商標と似ている場合に適用されるルールが定められています。
この規定に基づき、すでに存在する有名な商標と混同を招くような商標は、後から出願しても審査で拒絶されます。
1.商標法第4条第1項第10号(未登録の周知商標に関する規定)
「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」
(商標法4条第1項10号)
日本では商標登録主義が採用されており、通常、登録された商標との関係で審査が行われます。
しかし、登録されていない商標でも、一定の周知性(一般的に広く知られていること)を持っている場合、その商標に似た商標を他人が後から出願しても、登録が認められません。
この規定の主な目的は、未登録でも広く知られた商標の既得権を守ることです。仮に未登録の商標を放置して、他者がその商標を取得できるようにしてしまうと、法律上の秩序が崩れ、権利者が不利益を被る可能性があります。
周知性の判断基準
この規定で重要なのは、その商標がどの程度知られているか、つまり「周知性」です。
具体的には、全国的に周知されている必要があるのか、または特定の地域で知られていればよいのかが問題となります。
特許庁の見解では、たとえ全国的な知名度がなくても、特定の地方で広く知られている商標であれば、この規定の保護対象となるとされています。
したがって、全国的な周知性を必ずしも求められないケースもあるということです。
このような規定により、未登録の商標であっても、一定の知名度を持っていれば、後から同じような商標が登録されるのを防ぐことができます。
2.商標法第4条第1項第15号(出所混同の防止)
商標法第4条第1項第15号は、商標が他人の有名な商標と似ていて、消費者に混乱を招く可能性がある場合に適用される規定です。これは、既存の商標との「出所混同」を防ぐためのもので、特に商標が他人の業務に関連する商品やサービスと誤認される場合に重要です。
「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)」 (商標法4条第1項15号)
この規定は、10号から14号までで具体的に定められている典型的な出所混同のケースを網羅したものです。例外的なケースにおいても、出所混同が生じる可能性がある商標は拒絶されます。
「混同を生ずるおそれがある商標」とは?
審査基準によれば、「他人の商品やサービスであると誤認される場合」や、「他人と経済的、組織的に関連があると誤解される場合」が該当します。
たとえば、総合食品メーカーの有名な商標と似た商標が、飲食業界で出願された場合、消費者がその商標を見て「同じ会社の商品だ」と混同する可能性があるため、拒絶される可能性があります。
判断基準
この規定が適用されるかどうかは、単に商標の類似性だけでなく、「取引の実態」「商品やサービスの関連性」「商標が造語かどうか」「取引者や消費者の認識」など、さまざまな要素を総合的に判断します。
参考情報
特許庁のデータベース「特許情報プラットフォーム」では、「日本国周知・著名商標検索」が利用でき、どの商標が広く知られているかを確認することが可能です。
このような規定により、商標の混乱を防ぐことで、消費者に対して安心感を提供し、ビジネスの信頼性を守ることができるのです。
3.商標法第4条第1項第19号(未登録商標の不正利用の防止)
商標法第4条第1項第19号は、未登録の周知商標を不正な目的で登録しようとする行為を防ぐための規定です。
「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」
(商標法4条第1項19号)
これは、特に悪意を持って他人の周知商標を利用しようとするケースに対処するためのものです。
例えば、外国で有名な商標が日本市場に参入するという情報を知った人物が、商標を不正に登録してしまい、その後、商標権を盾に代理店契約を強要するような状況です。このような「剽窃的な登録」行為は、この規定により防がれます。
さらに、この規定は「商標の希釈化(ダイリューション)」や「汚染化(ポリューション)」を防ぐ役割も持っています。これにより、有名な商標が不適切に使用されて、そのブランド価値が薄れる、あるいは悪影響を受けることを防止します。
この規定により、商標権が悪用されることを防ぎ、正当な商標権者の権利を保護することができるのです。
4.未登録商標でも守られる場合があるが、登録が安心
商標法には、周知商標や著名商標が他人に登録されるのを防ぐ規定があります。
また、不正競争防止法にも、他人の商品やサービスを識別する表示を無断で使用する行為(第2条第1項第1号)や、著名な商品表示を無断使用する行為(第2条第1項第2号)を不正競争とみなし、差し止めや損害賠償請求が認められる規定があります。
商標は不正競争防止法の「商品等表示」に該当するため、未登録でも周知商標や著名商標であれば、一定の保護が得られる場合があります。しかし、実際に訴訟で他人の使用を差し止めたり損害賠償を請求するためには、証拠を揃えて立証する責任が請求者にあります。
実際の保護を受けるためには登録以上の苦労が生じます。未登録のままにしておくよりも、商標をきちんと登録しておく方が、後々のトラブルを防ぐために有効です。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247