「阪神優勝」が使えないは勘違い!商標無効審判とは?

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目次

1. 「阪神優勝」商標登録が話題になった背景

以前、阪神球団とは全く関係のない第三者が「阪神優勝」の商標を特許庁で登録してしまい、問題になったことがあります。

これまで阪神が優勝したのは下記の通り、これまで4回ありますが、今回紹介する「阪神優勝」の商標横取り事件の背景は、2003年の星野監督時代のエピソードです。

阪神優勝の実績

年度 項目 内容
1985年リーグ優勝セントラル・リーグ(74勝49敗7分 / 勝率.602)
日本一👍 日本シリーズ優勝(対西武 4勝2敗)
監督吉田義男
備考2リーグ制以降初の日本一
2003年リーグ優勝セントラル・リーグ(87勝51敗2分 / 勝率.630)
日本一😢 日本シリーズ敗退(対ダイエー 3勝4敗)
監督星野仙一
2005年リーグ優勝セントラル・リーグ(87勝54敗5分 / 勝率.617)
日本一😢 日本シリーズ敗退(対ロッテ 0勝4敗)
監督岡田彰布
2023年リーグ優勝セントラル・リーグ(85勝53敗5分 / 勝率.616)
日本一👍 日本シリーズ優勝(対オリックス 4勝3敗)
監督岡田彰布
備考38年ぶり2度目の日本一

18年ぶりの感動と商標問題の衝突

2003年、星野仙一監督率いる阪神タイガースが18年ぶりにセントラル・リーグで優勝を果たしました。

歓喜に沸くファンの中、驚くべき事実が明らかになります。なんと「阪神優勝」という商標が、球団とは無関係の千葉県の男性によって既に登録されていたのです。

この事実が世間に広まると、「阪神優勝」という言葉が一般の人々や企業でも使えなくなるのではないかという懸念が急速に広がりました。

阪神タイガースの優勝という現実と、第三者が持つ「阪神優勝」の商標権が衝突する状況に、メディアも大きく注目したのです。

商標登録者の男性は、この権利を活用してTシャツなどのグッズ販売を開始。登録商標「阪神優勝」は「被服、履物、おもちゃ等」を指定商品としており、国が認めた正式な商標使用だったのです。

2. 商標無効審判の経緯と結果

商標登録の経緯

興味深いのは、この商標登録が阪神タイガースの実際の優勝(2003年)より前に行われていた点です。

  • 商 標:「阪神優勝」(文字の背景に別途マークあり)
  • 指定商品:「被服、履物(第25類)」および「運動具(第28類)」等
  • 出願日:2001年3月15日
  • 登録査定:2002年1月11日
  • 登録:2002年2月8日(登録番号:商標登録第4543210号)

この男性は、実に阪神が優勝する2年以上前からこの商標を登録していたのです。単なる偶然か、予言的な先見の明か、これが本件の興味深い側面でした。

阪神球団の対応と無効審判請求

阪神球団側は、自分たちと無関係の第三者による商標登録に対し、特許庁に無効審判を請求しました。

その理由は、非公認グッズが公認品と誤認される恐れがあったためです。

無効審判の経緯:

  • 審判請求日:2003年8月29日(阪神球団側の請求)
  • 答弁書提出:2003年10月28日(商標権者側の反論)
  • 審決:2003年12月24日(特許庁による無効の判断)
  • 審決確定:2004年2月17日

特許庁は球団側の主張を認め、商標登録を無効とする審決を下しました。

これにより、第三者の「阪神優勝」商標は最初から存在しなかったものとみなされることになったのです。審判請求から審決までわずか4ヶ月という異例の速さは、本件の社会的影響の大きさを物語っています。

無効と判断された二つの理由

特許庁が「阪神優勝」の商標登録を無効にした理由は主に二つあります:

1. 出所の混同(商標法第4条第1項第15号):

「阪神」は「阪神タイガース」の著名な略称であり、この商標を使用すると商品の出所について一般消費者が混同する恐れがあると判断されました。

2. 公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号):

この商標登録を認めることは社会的に許容できる範囲を超え、公衆を混乱させ、公共の利益を害する恐れがあると判断されました。

商標無効審判制度とは

商標無効審判とは、既に登録された商標権を事後的に無効にするための制度です。特許庁の判断に誤りがあった場合に、その是正を図る重要な手段となります。

無効審判の特徴:

  • 特許庁に対して請求する行政手続き
  • 通常、三名の審判官による合議体で審理
  • 紛争解決の手段として位置づけられている
  • 請求できるのは「利害関係人」のみ
  • 一定の法定理由が必要

無効と判断される主な理由:

  • 登録商標に自他識別能力がない場合
  • 他人の登録商標と同一または類似の場合

無効審判が認められると、原則としてその商標権は最初から存在しなかったものとして扱われます。

登録異議申立てとの違い

無効審判と似た制度に「登録異議申立て」がありますが、両者には重要な違いがあります:

項目 内容
目的 登録異議申立て: 特許庁自らが再審理
無効審判: 当事者間の紛争解決
申立人の関与 登録異議申立て: 審理に関与不可
無効審判: 審理に関与可能
申立人の制限 登録異議申立て: 誰でも可能
無効審判: 利害関係人のみ
申立期間 登録異議申立て: 商標公報発行後2ヶ月以内
無効審判: 不正なら期間制限なし

3. 「阪神優勝」は本当に使えないのか?

広がった誤解

この問題が大きく話題になった理由は、「阪神優勝」という言葉が全く使えなくなるという誤解が広がったためでした。実際はどうなのでしょうか?

結論:商標登録されても日常的な使用は可能

商標登録された言葉は使えなくなる、という認識は正確ではありません。

業務以外の日常生活での使用は制限されない:

ブログ記事で「阪神優勝」に言及する、会話で使う、友人へのメールで書くなど、日常的な使用は商標権の侵害にはなりません。

商標法が規制するのは「商標としての使用」:

商標権は商品表示を巡る業者間の調整のために設けられたもので、一般の方々の日常的な言葉の使用を規制するものではありません。

指定商品・役務の範囲内での使用のみが規制対象:

例えば「阪神優勝」が被服や運動具のみを指定していた場合、それ以外の分野(例:食品や飲料)での商標使用は規制されません。

商標権侵害となる具体例

商標登録の際に指定されている商品や役務について商標権の範囲内で使用すると商標権侵害になります。

  • Tシャツのタグやロゴなどに「阪神優勝」を商標として付ける場合
  • 登録された指定商品と同一または類似の商品に、同じ商標を使用する場合

4. この事例から学ぶ商標権の基礎知識

他人の著名な商標に便乗するリスク

「阪神優勝」の事例は、他人が築いた知名度や信頼に便乗しようとする商標出願は、最終的には無効になる可能性が高いことを教えています。審査を通過したとしても、無効審判により権利が消滅するリスクがあります。

商標権の本質と限界

商標権は無制限の独占権ではなく、以下の点で制限されています:

1. 指定商品・役務の範囲内:

登録時に指定した商品やサービスの範囲でのみ効力が及びます。

2. 業務上の使用:

商標権は業務上の商標使用を規制するもので、日常的な言葉の使用まで制限するものではありません。

3. 商標としての使用:

単なる言及や記述ではなく、自他商品の識別標識としての使用が規制対象です。

この「阪神優勝」事件は、商標制度の目的や限界を広く知らしめる貴重な機会となりました。商標権は確かに強力な権利ですが、その効力は無制限ではなく、社会的な利益との調和の中で機能するものなのです。

4. なぜ審査官は「阪神優勝」の商標登録を一度は認めたのか

最初の疑問は、なぜ特許庁の審査官は「阪神優勝」の商標を審査で不合格にしなかったのか、ということです。

以前にこのブログでも述べましたが、その理由の一つは、特許庁の審査官が「阪神が優勝することはまずないので、阪神優勝を商標登録したとしても実害はないだろう」、と考えたのではないだろうか、ということです。

前回1985年に阪神タイガースが優勝してから既に18年、それほどの時間が経過しても優勝できなかったのですからそのように審査官が考えたのではないか、と私は考えてしまうのです。

他の阪神ファンの誤解を解くために念のためにいっておきますが、私は筋金入りの阪神タイガースファンです。

ちなみに私の母親は亡くなる直前、私からの最後の「何(なん)か欲しもんある?欲しいもんがあれば何でも買(こ)うてきたるで。」との提案に対して、

「・・・阪神タイガースの選手の写真の載った本が欲しい。」と答えました。

阪神タイガースファンは日本中に星の数ほどいるでしょうが、この世を去る死期を覚悟した段階で、最後に欲しいものは何かを問われた際に「阪神タイガースの選手の写真集」と答えるディープなタイガースファンは、おそらくこのブログを読んでいるあなたのそばにはいないでしょう。

というか、そんなファンは日本中のどこを探してもいないのではないか、と私は今でも思っています。

それくらい、家族ぐるみで阪神タイガースファンであったわけです。

私が幼少の頃から私の母親は阪神タイガース戦以外に私に野球中継を見せようとしませんでしたので、私が阪神タイガースファンになったのは当然であったかも知れません。

5. 他人の商標に乗ろうとするのはお金と手間の無駄

私が野球の阪神タイガースファンであることを割り引いたとしても、商標「阪神優勝」を見て、あの阪神タイガースが野球で優勝するシーンを想い浮かべない人はいないのではないでしょうか。

自分自身が有名にしたものでない商標を仮に商標登録できたとしても、今回の商標「阪神優勝」の場合と同じく、結局は無効にされてしまい、商標権自体が消えてなくなってしまうことになります。

仮に他人の有名な商標で一儲けしようと考えたとしても、それほど世の中は甘くはない、ということです。

この記事は商標法の基本的な考え方を解説するためのものであり、個別具体的な案件については専門家への相談をお勧めします。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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