(1)立体商標とはどのようなものでしょうか
商標は需要者が商品や役務を選択する際の目印になり得るもののことです。
そのため平面的な図形商標や文字商標だけでなく、立体的な形状のものにも、その効果が認められるため、平成8年の商標法改正で立体的形状の商標登録が可能になりました。
実際にどのようなものが登録されているのか紹介していきましょう。
商標登録第4210761号 アヒル
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
商標登録第5225619号 コカコーラの瓶
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
商標登録第5384525号 ヤクルトの容器
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
商標登録第4157614号 ペコちゃん人形
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
商標登録第4153602号 カーネルおじさんの置物
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
商標登録第5181517号 出光の建物
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
このような商標が挙げられます。
しかし、立体的なものでも登録できないものもあります。
出願された立体商標が、その商品またはその商品の包装の際、普通に用いられる形であるときは登録できません。例えば、洋酒の瓶の形状などです。
また、出願された立体商標が極めて簡単でかつありふれた商標である場合も登録できません。
(2)周知性が認められ立体登録商標となったものの例
(2−1)ミニマグライト
「ミニマグライト」という懐中電灯を知っていますか。実際に商品を見てみると、どこかで見たことがあるものだと気づくと思います。
ミニマグライトを生産するマグインスツルメント社は、平成13年1月19日、ミニマグライトシリーズにつき立体商標の登録出願を行いました。
しかし、同社は特許庁から平成14年11月18日に拒絶査定を受け、それに対する不服申立ても認められないとの審決に至りました。
特許庁がミニマグライトの立体商標登録を拒絶した主な理由は2つあります。
第1に、ミニマグライトの形にある切り込み模様などは、機能や美感のために必要なものであり、普通に用いられる形であるため登録を認めることができない。
第2に、ミニマグライトが多くの雑誌や新聞に掲載されてきたことは認められるものの、需要者が何の商品であるか認識できるようになったとは認められず、商標法3条第2項(使用による認識性)によって例外的に登録することも認めない、とのことでした。
それを受け、マグインスツルメント社は、需要者において商品の形状を他社製品と区別する指標として認識されるに至っているとの証拠を集め、例外的に登録が認められることとなりました。
過去の販売実績を認めた司法判断は初めてでした。
(2−2)スーパーカブ
本田技研工業の二輪自動車「スーパーカブ」を知っていますか。このスーパーカブも立体商標登録されています。商品の立体形状そのものが立体商標として登録を認められたきわめて珍しい事例です。商品の形状は他の商品と区別がつきにくいため商標登録されることが難しいとされています。
ではどうして、スーパーカブは商標登録できたのでしょうか。
これも(2−1)の例と同じように販売実績が評価されて、需要者において商品の形状を他社製品と区別する指標として認識されるに至っていると特許庁が認めたからなのです。スーパーカブは50年以上にわたって製造、販売されており、その生産台数は一貫してきわめて多く、日本全国で販売され幅広い層の需要者に使用されています。
(3)立体商標と意匠権の違い
立体商標と意匠権は、物の外観を対象として登録が行われるという共通点があります。
しかし、立体商標は商品の形状そのものではなく、それに蓄積された「業務上の信用」を保護しています。
意匠権は「物品のデザイン(形状)」を保護しています。そのため出願時に新規性が失われているもの(日本国内や外国において知られている)や独創性がないもの(ほかのすでにある形状から簡単に思いつくデザイン)は、登録できません。また意匠権の有効期間は15年となっています。
立体商標は、ほかの文字商標などと同じく、新規性や独創性は関係なく、商標として機能するか先行登録商標と類似しないかなどが要件となっています。商標の有効期間は10年間です。しかし更新制度により任意で半永久的に有効になります。
なお、一般的に立体商標は、意匠で登録されることが多くなっています。
(4)まとめ
立体商標についておわかりいただけたでしょうか。
立体商標は商品の形状そのものではなく、それに蓄積された「業務上の信用」を保護しています。
しかし、通常は物の形状を保護したい場合は意匠登録を検討することとなります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247