ストップ・ザ偽物!〜「梅ケ枝餅」商標法違反事件のポイントその1〜

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1.どんな事件だったのか?

2018年4月12日の報道によると、福岡県太宰府市の太宰府天満宮参道で「梅ケ枝餅」の商標を許可なく使用して餅菓子を販売していた露店経営者が、商標法違反(商標権侵害)の疑いで県警に逮捕されました。

「太宰府天満宮(福岡県太宰府市)の参道で名物の『梅ケ枝餅』の商標を許可なく使った餅菓子を販売したとして、県警筑紫野署は12日までに、露店を経営する容疑者を商標法違反(商標権侵害)の疑いで逮捕した。」
(日本経済新聞 2018年4月12日 9:10より個人情報を削除して引用)

「名物なのに商標法違反?」と思う方も多いかもしれませんが、実はここに大きなポイントが潜んでいます。本記事では、商標の基本的なルールや今回の事件のポイントをわかりやすく解説します。

2.「梅ケ枝餅」ってどんなもの?

「梅ケ枝餅」は、太宰府天満宮の名物として知られている、つぶあん入りの焼き餅です。太宰府駅を降りると、大きな看板が目に入り、参道の多くの店舗や露店で販売されています。

「梅ケ枝餅」の太宰府駅の看板
  • 焼きたてを食べ歩きするのもよし
  • 飲食店でゆっくり座って味わうのもよし
  • デパートの「九州物産展」でも長蛇の列ができるほどの人気商品
梅ケ枝餅の実物写真

ちなみに写真は、たまたま購入して保存していた冷凍の「梅ケ枝餅」ですが、それでも十分おいしくいただけます。まさに福岡の名物スイーツとして有名ですね。

3.今回の事件のポイント

3-1.「商標」との関係

報道によると、逮捕容疑の核心は「太宰府梅ケ枝餅協同組合」(以下「組合」)が保有する登録商標またはそれに類似する名称を、包装紙や袋、横断幕などに無断で使っていたことにあります。

ところが、2018年4月時点では登録済みの商標「梅ケ枝餅」について、どんずばりの指定商品の「もち菓子」が登録されていません。お菓子とは関係のない「もち」が商品に指定されています。

つまり、商品「もち」について商標権を保有していても、商標権のシールドがあるのは「もち」だけ。商標法上は、商品「もち」と「もち菓子」は別扱いのため、権利取得漏れがあるようにみえます。

まず、「組合」が登録(または出願)している商標を確認してみましょう。当時(2018年4月時点)の特許情報プラットフォームで検索すると、「梅ケ枝餅」に関わる商標は複数ヒットしました。

梅が枝餅の商標登録状況

確かに「梅ケ枝餅」は商標登録されているものの、「商品やサービス」ごとに登録する制度であるため、「梅ケ枝餅」という名前の権利を取っても、権利範囲として機能するはずの商品漏れが起こりうるのです。

例えば、今回問題となった「もち菓子」についての商標「梅ケ枝餅」は、事件当時まだ審査中(未登録)でした。商標権は特許庁の審査に合格して、登録されてはじめて権利が有効になります。

梅が枝餅の商標
特許庁の商標公報より引用
  • 商願2017-020215(出願日:2017年2月20日)
  • 指定商品:第30類「もち菓子」

「まだ登録されていないならセーフじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。

ところが、商標権侵害はまったく同じ商標だけでなく、「類似」する商標にも効力が及ぶ仕組みがあります(商標法第37条第1項第1号)。

商標同士の類似の判断基準

  • 見た目(外観)
  • 読み方(称呼)
  • 意味合い(観念)

これらが共通する場合には、原則として対比する商標同士は類似するものとして扱われます。

商標「梅ケ枝餅」以外にも「梅枝餅」が商標登録されています。商標「梅ケ枝餅」と「梅枝餅」とは、文字の違いはわずかですが、読み方や意味合いはほとんど同じと捉えられる可能性が高いと考えられます。

梅枝餅の登録商標
特許庁の商標公報より引用
  • 商標登録第4433991号
  • 権利者:太宰府梅ケ枝餅協同組合
  • 出願日:1999年12月8日
  • 登録日:2000年11月17日
  • 指定商品等: 第30類「餅菓子」 第43類「茶・餅菓子の提供」

そのため、「どんずばりのものが、未だ登録されていない商標だから大丈夫!」という主張は、商標法の観点からすると厳しいでしょう。

3-2.「餅」なのか「もち菓子」なのか

商標の世界では「餅」と「菓子」は分類上別の商品として扱われます。しかし、「梅ケ枝餅」はつぶあんを包んだ焼き餅なので、「もち菓子」に該当するという考え方が一般的です。

  • 「桜餅」や「柏餅」も商標上は「菓子」に分類される

事件当時、登録された商標「梅ケ枝餅」については、指定商品「もち菓子」は指定されていませんが、商標「梅枝餅」側では、しっかり商品「もち菓子」が指定されています。

商標「梅枝餅」側の商標権で、商品「もち菓子」がカバーされている関係になります。

今回の事件で逮捕の対象となった露店は「もち菓子」を販売していたと判断されるため、商標権者の許可なく(もち菓子である)梅ケ枝餅を販売するのは難しくなります。

3-3.商標の使い方にも注意!

当時の報道写真には袋や横断幕、看板などに「梅ケ枝餅」と思われる表示が見られました。一方で、実際の餅(商品)そのものに名前が直接書いてあるわけではないようです。しかし、商標法上は「商品の包装や広告に表示して販売することも商標の使用」と判断されます。

商標法第2条 第3項を分かりやすくいいかえると…
「使用」とは、商品の包装に表示することや、商品に関する広告に商標を表示して展示することなどを含む。

つまり、商品そのものに表示がなくても、袋・看板・横断幕であっても「これは〇〇です」と示す行為は立派な商標の使用。商品を売るときの“目印”になれば、商標として使っていることになります。

4.まとめ

太宰府梅ケ枝餅協同組合は、品質やブランドを守るために商標登録を取得し、組合員だけに「梅ケ枝餅」と名乗ることを許可しています。自分たちが長年培ってきた「名物」ブランドを守るには、無断使用を見過ごせないというわけです。

商標というと「名前やロゴを独占的に使える権利」というイメージが強いですが、有名な商標であればあるほど、その信用を無断で利用されたくないという思いが強くなります。特に食品の場合、品質が下がったものを「本物」と誤解されると、ブランドイメージに大きなダメージを与えるからです。

今回の「梅ケ枝餅」商標法違反事件は、こうした地域ブランドを守るために商標がどのように機能しているかを知る上でも、非常に興味深い事例です。「せっかくの名物を偽物から守りたい!」そんな気持ちから始まった取り組みであることを、多くの人に知ってもらえたらと思います。

★ポイント

  • 1. 商標は「名前だけ」でなく、使用する商品(サービス)もセットで登録される。
  • 2. 同一商標だけでなく「類似」も侵害にあたる可能性がある。
  • 3. 包装や看板・広告への表示も「商標の使用」になる場合がある。
  • 4. 地域の名物や伝統ある商品を守るため、商標権は非常に重要な役割を果たす。

地域名物をはじめ、長年愛されてきた商品やサービスには、それ相応のブランド価値が存在します。商標登録をすることで、この価値を守り、品質を保つ効果が大いに期待できるのです。
「うちの名物も守りたい」「大事なブランドを無断使用されたくない」という方は、ぜひ一度、商標登録について専門家にご相談ください。あなたのブランドを守る第一歩になるはずです。

(本記事は、特許情報プラットフォーム・新聞記事などを参考に執筆しています。実際の法的判断については個別の状況により異なる場合があります。)

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