1.まずはじめに
商標権者は指定商品又は役務に登録商標を使用する権利を独占します。ここで、商標法上の商品は1.商取引の対象となり2.流通する3.有体動産とされています。
ノベルティは主たる商品の販促品として顧客に提供されることから、それ自体は独立した商取引の対象とはなっていません。
その一方で、無償提供といえど登録商標が付けられたものを主たる商品に付帯して顧客に提供した場合、識別標識として機能することも考えられます。
2.BOSS事件
商標法上商標は商品の標識であるが(商標法二条一項参照)、ここにいう商品とは商品それ自体を指し商品の包装や商品に関する広告等は含まない(同法二条三項参照)。商標権者は登録商標を使用する権利を専有し、これを侵害する者に対し差止請求権及び損害賠償請求権を有するが、それは商品についてである(同法二五条参照)。したがつて、商標権者以外の者が正当な事由なくしてある物品に登録商標又は類似商標を使用している場合に、それが商標権の侵害行為となるか否かは、その物品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であるか否かに関わり、もしその物品が登録商標の指定商品と同一又は類似ではない商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎない場合には、商標権の侵害行為とはならない。そして、ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。
大阪地裁昭62.8.26(一部抜粋)
登録商標と同一または類似する商標を使用している場合であっても、商標権侵害が発生しない状況として、①指定商品と同一又は類似ではない商品の包装物、広告媒体に使用している場合を挙げています。
また、②それ自体に交換価値を持たないものに使用した場合も挙げられています。
これを本件についてみるに、被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、前記BOSS商標を附したTシヤツ等は右楽器に比すれば格段に低価格のものを右楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として被告の楽器購入者に限り一定の条件で無償配付をしているにすぎず、右Tシヤツ等それ自体を取引の目的としているものではないことが明らかである。また、前記認定の配付方法にかんがみれば、右Tシヤツ等はこれを入手する者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性も認められない。
そうだとすると、右Tシヤツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当であるところ、本件商標の指定商品が第一七類、被服、布製身回品、寝具類であり、電子楽器が右指定商品又はこれに類似する商品といえないことは明らかであるから、被告の前記行為は原告の本件商標権を侵害するものとはいえない。
大阪地裁昭62.8.26(一部抜粋)
3.まとめ
結論としてはBOSS事件ではノベルティへの使用は、配布したノベルティが独立の商取引の目的となっていないこと、また、その後再販されることがないことを理由に商標権の侵害には該当しないと判断されました。
しかし、この判決が出たのは昭和62年であり、今から30年近くも前です。この当時と現在の商取引を比較してみても、例えばインターネットの普及をはじめとして大きく変わっています。
現に、以前は法上の商品は有体物と言われていましたが、現在では電子出版物やプログラムそれ自体も、商標法上の商品になります。
つまり、商標のノベルティへの扱いが変わっていても不思議ではありません。登録を検討されている商標の使用用途に、ノベルティの配布による広告的な使用がある場合には、一部でもいいので、指定商品に加えておいた方が安全かもしれませんね。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247