ポッキーの立体商標の商標登録の何がすごいのか

無料商標調査 次回定休日8/12-8/15

商標登録には原則があります。誰もが使える一般的な形状は登録できません。

それにもかかわらず、江崎グリコのポッキーは、文字もマークもない「形状のみ」で立体商標を取得しました。この一見矛盾する事実について、なぜそれが認められたのか、そしてなぜそれが正当なのかを解説します。

1. 商標登録の大原則 — なぜ「ありふれた形状」は登録できないのか

商標制度の根本原則から説明を始めます。商標法は、文字であれ立体形状であれ、一般的に使用される形状の登録を禁じています。これは商標法第3条第1項に規定されています。

第3号では「その商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は登録不可とされ、第5号では「簡単で、ありふれた標章のみからなる商標」は登録不可とされています。

加えて第4条第1項第18号には「商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標」も登録を認めない旨が規定されています。

この原則が重要である理由は3つあります。

公正な競争を確保するため

球体、立方体、円柱などの基本的な形状は、誰でも自由に使えるべきものです。

独占の弊害を防止するため

一般的な形状を特定企業が独占すれば、他社の事業活動を不当に制限してしまいます。

識別力の欠如

ありふれた形状では、消費者は「どの会社の商品か」を識別できません。

2. 文字付きなら簡単、文字なしは至難 — ポッキーが直面した高い壁

文字やマーク付きの立体商標は比較的容易に登録可能です。ヤクルトの事例を見てみましょう。文字(「Yakult」)付きの容器は比較的容易に立体商標として登録されました(登録第4182141号)。

しかし、文字なしの容器形状のみでの登録は、当初拒絶され、訴訟を経てようやく認められました。

この違いは決定的です。

文字やロゴが付いていれば、その文字自体が識別力を持ちます。立体形状と文字の組み合わせ全体として、容易に識別力が認められます。形状自体がありふれていても、文字との組み合わせで登録可能になるのです。

ポッキーの立体商標の特徴は、文字やマークが一切含まれていないことです。

江崎グリコの発表によれば、この登録は、その形状のみで消費者がポッキーと認識できることが認められた結果です。

これは困難な挑戦でした。

「コンタミネーション(汚染)」の問題があるからです。

立体商標の登録が争われた事例の「ひよ子」の場合で問題になりましたが、通常の商品は文字商標と共に販売されます。消費者は文字を見て識別している可能性が高く、形状単独での識別力を証明することは至難の業なのです。

立証の困難性も大きな課題でした。

「Pocky」という文字なしで、チョコレート付きスティックの形状だけを見せ、それでも消費者が「これはポッキーだ」と認識することを証明する必要がありました。

1,943人の調査で高い認知率を示す必要があったのです。

3. ポッキーはなぜ登録が認められたのか — 例外中の例外

ポッキーの登録は、ありふれた商標でも、一定程度以上に有名になった場合には登録を認めるとする商標法第3条第2項の適用による例外的なケースです。

この条項は「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」について、例外的に登録を認めるものです。

ポッキーが越えた3つのハードルがあります。

60年の継続使用による形状の刷り込み

1966年の発売以来、一貫した形状を維持し、世代を超えて「この形=ポッキー」という認識が定着しました。

文字なしでの圧倒的認知度の証明

「Pocky」の文字を隠した状態での消費者調査を実施し、形状のみから「ポッキー」を想起することを客観的に証明しました。これは「きのこの山」(90%以上)と同等の高い水準でした。

形状自体の独自性

チョコレートとプレッツェルの比率が約8:2という特定の比率が、美しさと食べやすさを両立させています。

他の失敗事例との対比も重要です。

「エバラ黄金の味」の立体商標の事例とは対照的です。容器の菱形パターンだけでは識別力なしと判断されました。消費者は「エバラ」「黄金の味」という文字を見て識別しており、形状のみでの識別は証明できず、登録拒絶となったのです。

永続的権利への懸念に対する回答

商標権は更新により永続するため、これが問題ではないかという懸念があります。この懸念は正当ですが、以下の理由により適切にバランスが取られています。

保護されるのは「特定の形状」のみです。ポッキーの場合、保護されるのは特定の比率(8:2)の特定の形状です。チョコレート付きスティック菓子という「アイデア」は保護されません。他社は異なる比率、異なる形状で自由に類似商品を製造可能です。

機能性ドクトリンによる絶対的制限もあります。

商標法第4条第1項第18号により、商品の機能確保に不可欠な形状は、どんなに有名でも登録不可とされています。これは絶対的障壁であり、回避不可能です。

商標権と他の知的財産権の役割分担も重要です。

特許権は技術的アイデアを20年間保護し、その後は技術進歩のためみんなが自由に使うことができます。意匠権は新規デザインを最大25年間保護し、デザインの自由な発展を促します。

商標権は出所表示機能を更新により永続的に保護します。これは消費者保護が永続的に必要だからです。

4. 社会的妥当性の評価

文字なし立体商標が持つ特別な意味について考えてみましょう。

形状のみの立体商標登録は「ティッピング・ポイント」を超えた証です。消費者の認識における転換点が存在し、認知度が高いレベル(多くは90%超)に達すると、機能性やありふれた形状であるといった反論を事実上封じ込めるほどの「事実の力」が生まれます。

ポッキーの立体商標登録が社会的に妥当である理由は3つあります。

消費者保護の究極形であること

文字を見なくても形だけで識別可能であり、この深いレベルの認識を法的に保護することは消費者の利益になります。

競争は実質的に制限されないこと

「プリッツ」「トッポ」など、多様なチョコレート菓子が共存しています。ポッキーと混同しない形状なら自由に製造可能です。

ブランド構築への最高の評価であること

60年かけて「形そのもの」にブランド価値を宿らせました。文字に頼らない、純粋な形状ブランディングの成功と言えます。

5. まとめ

ポッキーの立体商標登録は、「ありふれた形状の独占」ではありません。

原則は確認されています。ありふれた形状は登録不可という大原則は堅持されています。文字なしの困難さも重要な要素です。文字やマーク付きなら簡単に登録できるところ、あえて形状のみで挑戦しました。

例外の正当性も明確です。60年かけて、文字なしでも識別できるレベルまで消費者認識を変えました。バランスも確保されています。機能性の制限、代替手段の確保により競争の自由は維持されています。

これは究極の成果です。「形状のみ」での識別という、ブランディングの最高到達点に達しました。

商標制度は、「みんなが使うべきもの」を独占させるのではなく、「長年の努力により、文字さえ不要なほど特定企業の象徴となったもの」を保護する制度です。ポッキーの事例は、この最も困難な道を通って獲得された、正当な権利保護と評価できます。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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