索 引
1. ポッキーの形は登録第6951539号
江崎グリコは2025年8月、ポッキーの商品形状が立体商標として登録されたと発表しました。登録日は2025年7月25日、登録番号は第6951539号、指定商品は第30類の「チョコレート菓子」です。
登録された商標には「Pocky」という文字やロゴがありません。棒状のプレッツェルの一部をチョコレートで覆った商品の形を、7方向から表した図によって特定しています。食品の中身の形だけで出所を認識できると認められた、数少ない登録例です。
立体商標には、キャラクター人形や店舗の外観のように、それ自体が目印になりやすいものもあります。ポッキーの事例で注目すべきなのは、商品そのものの形が、長年の使用によってブランドを示す目印として評価された点です。立体商標の仕組み全般は立体商標の商標登録も参照してください。
2. 商品の形だけでは登録が難しい理由
商品には、使いやすさ、製造方法、保存、見た目などの理由から採用される形があります。その範囲を出ない形状は、通常、商品の特徴を表すものとして受け取られ、事業者を区別する目印とは見られません。特許庁の立体商標に関する審査運用では、このような商品形状は商標法3条1項3号に該当すると判断されます。
もっとも、当初は識別力がない形でも、長年使われた結果、その形を見ただけで特定の事業者の商品だと需要者が認識する場合があります。商標法3条2項は、使用によって識別力を得た商標を登録できる道を設けています。
これとは別に、商品の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標は、商標法4条1項18号により登録できません。この拒絶理由は、有名になったことだけでは解消できません。識別力の問題と、機能確保に不可欠な形を独占させない問題は分けて考えます。
3. 長年の使用と認知度調査が示したもの
Glicoの公表資料によると、ポッキーは1966年の誕生以来、継続して販売・広告されてきました。会社は、その使用実績と、形状だけを見せる認知度調査などを登録の根拠資料として提出しました。
形状認知の調査は2023年6月に行われ、日本国内の16歳から79歳までの1,036人が回答しています。9割を超える回答者が、文字やロゴのない形を見てポッキーと認識したと公表されています。
なお、同じ公表資料には1,943人を対象とした別の調査もあります。こちらはチョコレートとプレッツェルの長さのバランスに関する調査で、形状認知度調査の人数ではありません。二つの調査は分けて読んでください。
文字やロゴを付けたまま販売してきた商品では、需要者が何を目印として認識したのかが争点になります。売上や広告量だけでなく、形そのものへの認識を示す資料が問われるのはこのためです。
4. 立体商標が保護する範囲
登録によって「チョコレート付きの棒状菓子」という発想全体を独占できるわけではありません。権利の基準になるのは、願書の図と商標の詳細な説明によって特定された立体商標、指定商品、および法令上これらに類似すると判断される範囲です。
Glicoは、ポッキーのチョコレート部分とプレッツェル部分の長さがおよそ8対2であると紹介しています。ただし、権利範囲をこの数字だけで決めることはできません。実際の形状を全体として比較し、商品との関係や使用態様も確認します。「比率を少し変えれば自由に使える」と一律に判断するのも危険です。
商標権の効力を検討するときは、形が似ているかだけでなく、対象商品、表示の使い方、需要者が受ける印象などを具体的に見ます。一般的な考え方は商標権の効力範囲でご案内しています。
商品形状は、特許権や意匠権の対象になることもあります。技術を守る特許、デザインを守る意匠、出所を示す目印を守る商標では、要件と存続期間が異なります。形を守りたいときは、一つの制度だけで結論を出さず、開発段階から組み合わせを検討します。
5. 出願前から準備しておきたい証拠
使用による識別力を主張する立体商標では、出願直前に資料を集め始めても、必要な経過を再現できないことがあります。販売開始時から、形状の変化と使用実績を記録しておくと、後の立証に役立ちます。
- いつから、どの地域で、どの商品に使ったか
- 販売数量、売上高、市場での取扱状況
- 形状が分かる商品写真、カタログ、包装、取引書類
- 形そのものを訴求した広告と掲載実績
- 新聞・雑誌など第三者による紹介
- 対象者と質問方法の偏りを抑えた認知度調査
商品改良で形が変わっている場合は、出願する形と実際に使ってきた形が同一と評価できるかも問題になります。登録可能性と必要資料は商品ごとに異なります。立体商標の出願についてはお問い合わせフォームからご相談ください。
6. よくある質問
Q1.ポッキーの立体商標に文字やロゴは含まれますか?
登録第6951539号は商品形状を7方向から表した立体商標で、Pockyの文字やロゴは構成要素に含まれていません。
Q2.認知度調査は1,943人に行ったのですか?
形を見てポッキーと認識できるかを調べた2023年の調査は1,036人です。1,943人の調査は、チョコレートとプレッツェルの長さのバランスに関する別調査です。
Q3.有名な商品形状なら必ず登録できますか?
必ずではありません。使用による識別力、出願する形と使用してきた形の関係、機能確保に不可欠な形状ではないかなどが審査されます。
Q4.チョコレート付きの棒状菓子をすべて禁止できますか?
発想そのものを独占する権利ではありません。登録商標と指定商品を基準に、具体的な形状や使用態様を確認します。
Q5.商品形状は商標だけで守るのですか?
形状によっては意匠権や特許権、不正競争防止法も検討対象になります。公開前の出願が必要な制度もあるため、商品発表より前に保護方針を決めます。
まとめ
ポッキーの登録は、ありふれた商品の形でも有名なら広く独占できる、という事例ではありません。商品形状だけで出所を認識できる状態を、約60年の使用実績と認知度調査などで示した事例です。登録後の権利範囲は、登録された形状と指定商品を基準に個別に判断します。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
- 江崎グリコ「発売60年目、あの形が商標登録!『Pocky』の形状が『立体商標』として登録」(2025年8月4日) https://www.glico.com/jp/newscenter/pressrelease/47146/
- 特許庁「立体商標の見直し(店舗等の外観・内装の保護を含む)に関するQ&A」 https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/trademark/rittai_faq.html
- 特許庁「商標審査便覧 49.02 立体商標の識別力に関する審査の具体的な取扱い」 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/index.html
- e-Gov法令検索「商標法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000127
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