歌手名の商標登録、意外な盲点!〜「目印」としての役割か、「品質表示」としての役割か?〜

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商標法には他人の名称や芸名を含む商標の登録を制限する規定があります(商標法第4条第1項第8号)。歌手やアーティストが自分の名前を商標登録する場合には、他に一定の知名度を有する名前が登録されていないなら、不正目的の登録でないことを条件に、歌手名やアーティスト名を登録できます。

1.「嵐」は登録商標です。

人気グループ「嵐」は現在活動を休止していますが、関連する商標が登録されていることをご存知ですか?活動を休止しても、実は「嵐」に関する商標登録は2件あります。それぞれの詳細を見てみましょう。

① 商標登録第4543500号

  • 登録名:アラシ
  • 権利者:株式会社STARTO ENTERTAINMENT
  • 出願日:2000年10月27日
  • 登録日:2002年2月15日
  • 指定商品:
  • 第3類:「香料類、化粧品」
  • 第14類:「身飾品、宝石及びその模造品、キーホルダー」
  • 第20類:「クッション、うちわ、せんす」
  • 第24類:「布製身の回り品、のぼり及び旗(紙製のものを除く)」
  • 第25類:「被服」
  • 第26類:「テープ、リボン、頭飾品」

② 商標登録第5449902号

  • 登録名:嵐
  • 権利者:株式会社STARTO ENTERTAINMENT
  • 出願日:2009年9月30日
  • 登録日:2011年11月11日
  • 指定役務:
  • 第41類:「映画・演芸・演劇または音楽の演奏の興行の企画または運営、映画の上映・制作または配給、インターネットによる映画の上映や音楽の演奏に関する情報提供」など

2.注目すべき点:「録音済みCD」がない?

「嵐」は歌手(音楽グループ名)として知られていますが、意外にも上記2件の商標の範囲には「録音済みCD」のような商品が含まれていません。

「これは単なる書き忘れ?」と思うかもしれませんが、実はそう単純な話ではありません。この背景には、商標登録における「目印」としての機能と「品質表示」としての役割の違いが関係しています。

2.歌手名の商標登録、ここに注意!

商標登録を考える際、歌手名の扱いには特別な注意が必要です。以下、日本の商標審査基準と実際の事例からポイントを解説します。

(1)日本では歌手名=商品の「品質表示」

日本の商標審査基準では、歌手名や音楽グループ名は単なる「目印」ではなく、商品の「品質表示」として扱われるケースがあります。

商標審査基準(第3条第1項第3号)より抜粋

人名等の場合 商標が、人名等を表示する場合については、例えば次のとおりとする。
・商品「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」に ついて、商標が、需要者に歌手名又は音楽グループ名として広く認識されている場 合には、その商品の「品質」を表示するものと判断する。

つまり、 有名な歌手名やグループ名は、その名前自体が商品の内容や品質を保証するものと見なされる のが日本の特許庁の考えです。そのため、商標として登録するには特定の条件を満たす必要があります。

(2)「LADY GAGA」事件から学ぶ実例

この基準が適用された有名な裁判例に「LADY GAGA」事件があります (平成25(行ケ)10158)。この事件では、歌手「LADY GAGA」の名前を商標登録しようとした際に生じたトラブルにより、商標登録に潜む日本独特の課題が浮き彫りにされました。

事件の概要:

  • 出願者:LADY GAGAのマネジメント会社
  • 出願内容:商標「LADY GAGA」
  • 指定商品:第9類「レコード、録音済みCD、インターネット音楽ファイル」など
  • 出願結果:特許庁は「商品内容を示す品質表示」として登録を拒否。

出願者の主張:

  • 1. 「LADY GAGA」は商標として十分機能する。
  • 2. 歌手名・グループ名が商標登録された事例もある。
  • 3. 登録を拒否すると第三者が勝手に名前を使えてしまう。

裁判所の判断:

  • 「LADY GAGA」という名前は、商品内容(レコードやCDの内容)を示す品質表示と判断。
  • 商品の「目印」ではなく、内容の説明と見なされるため、商標登録を認めず。

(3)一部では登録が可能な場合も

「LADY GAGA」の場合でも、商品や役務によっては商標登録が認められています。以下に登録済みの例を挙げます。

商標登録第5405058号

  • 指定商品:第3類「せっけん」、第14類「キーホルダー」、第25類「被服」など。
  • 出願日:2010年4月12日
  • 登録日:2011年4月8日。

商標登録第5577932号

  • 指定商品:第28類「おもちゃ」、第41類「インターネットによる音楽提供」など。
  • 出願日:2012年10月17日
  • 登録日:2013年4月26日。

ポイント

CDやレコードなどの「直接的に音楽内容を示す商品」では登録が難しいものの、それ以外のグッズやサービスでは登録が可能となる場合があります。

3.歌手名を商標登録する際の注意点

1. 商品や役務を慎重に選定する

歌手名が品質表示と見なされる商品(例:CD、レコード)は避け、それ以外の商品・サービスを選びましょう。

2. 早めの登録を検討

知名度が上がる前に商標出願することで、「品質表示」として扱われるリスクを軽減できます。

3. プロの専門家に相談する

商標の専門家に相談し、出願戦略を練ることで、登録成功の可能性を高められます。

4. ここがポイント

「LADY GAGA」事件が示すように、日本では歌手名の商標登録に特有の難しさがあります。歌手名は「目印」ではなく「品質表示」と判断される場合が多いため、登録可能な範囲や商品を慎重に見極めることが重要です。

このような背景を踏まえ、戦略的に商標登録を進めていきましょう。

4.まとめ:歌手名の商標登録に潜む矛盾と未来への期待

特許庁や裁判所の判断には、一定の理があるのは事実です。特に、歌手名やグループ名が商品内容を示す「品質表示」として機能すると認識される以上、商標法の観点から登録を制限するのは理論的な一貫性があります。

しかし、ここで問題になるのは 「最も保護されるべき著名な歌手や音楽グループほど、自らの名前を商標として登録できない」 という点です。この現実に、違和感を覚える方も少なくないでしょう。

海外の状況:異なるアプローチ

一方で、海外では異なる基準が採用されている国もあります。

たとえば、アメリカや中国では、歌手名が「録音済みCD」の商標として登録されるケースも多く見られます。このような国々では、歌手名が商品の「目印」として機能することを重視しているのです。

国内での改善の動き

日本でも、現行の審査基準に対する議論が進められています。

弁理士会は、特許庁に対して審査基準の見直しを求める提案を行っており、業界全体で基準改訂に向けた働きかけが続いています。こうした動きが今後どのような形で結実するのか、引き続き注視する必要があります。

未来への期待

現時点では、歌手名を商標として登録するには多くの制約があります。しかし、業界や法的枠組みが進化し、より実情に即した基準が採用される可能性も十分にあります。

「歌手名=品質表示」という壁を乗り越え、アーティストが自らの名前をより自由に守れる時代が来ることを期待したいところです。

引き続き、このテーマに関する最新動向を追いながら、あなたのブランドを守るための戦略を共に考えていきましょう。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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