ご当地キャラの商標登録、「着ぐるみ」で本当に大丈夫?

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索引

初めに

商標登録の際、権利範囲の設定で見落とされがちなポイントのひとつが「着ぐるみ」です。ご当地キャラクターの商標登録を考えるとき、着ぐるみを権利範囲に含めるべきかどうか、一度立ち止まって考えてみる必要があります。

その理由は、商標登録における権利範囲とは「自分が使うもの」を基準にするのではなく、「お客様に提供する商品やサービス」を基準に記載するものだからです。

商標登録の範囲に「着ぐるみ」を含めるかどうかは、実際に着ぐるみを販売する予定があるかどうかにかかっています。

たとえば、着ぐるみの製造や販売を全く予定していない場合、無駄なコストや手間をかけて「着ぐるみ」を登録する必要はありません。逆に、イベントやグッズ販売で実際に着ぐるみを扱う予定がある場合は、しっかりと権利範囲に含める必要があります。

ここに注意

商標登録の権利範囲を決める際には、自分が提供する商品やサービスを冷静に見極めることが重要です。「本当に着ぐるみを売るのか?」を問い直し、適切な範囲を設定することで、余計なコストを防ぎ、効果的な権利保護を実現できます。

(1)ご当地キャラの商標登録、「着ぐるみ」で本当に大丈夫?

(1)商標登録で「着ぐるみ」を選ぶ前に考えるべきこと

商標登録でよくある失敗の一つは、「お客さまに提供する商品やサービス」を基準にせず、「自分が使うもの」を基準に権利範囲を選んでしまうことです。

商標は、自分の活動に関連する全てを登録すればいいわけではありません。重要なのは、実際にお客さまに販売する商品やサービスに基づいて権利範囲を設定することです。

ご当地キャラの商標登録で必要な視点

たとえば、ご当地キャラクターを使って地域おこしをする場合、商標登録の権利範囲に含めるべきは、その地域で実際に販売する商品です。具体的には、お菓子、食品、文房具などが一般的です。

一方で、「着ぐるみ」だけを権利範囲に指定して商標登録をすると、後々困ることになります。

なぜなら、多くの場合、ご当地キャラを使って直接販売する商品は「着ぐるみ」ではないからです。

有名な例として「くまモン」がありますが、くまモンを使った商品でよく見られるのは食品や文房具といったアイテムであり、着ぐるみ自体を販売しているケースはほとんどありません。

(2)お客さまに提供するものを基準に選ぶ

商標登録の基本は、「お客さまに提供するもの」に基づいて権利範囲を設定することです。

もし着ぐるみを実際に販売する予定がないのに登録してしまうと、全く関係のない権利を取得してしまうことになります。それは時間や費用の無駄になりかねません。

ご当地キャラを活用するのであれば、売る予定の商品や提供するサービスを正確に見極め、その内容に基づいて権利範囲を選ぶことが大切です。

ここがポイント

商標登録は、使い方次第で地域おこしの大きな武器になりますが、誤った権利範囲の選択は逆にリスクを生む可能性があります。「本当に着ぐるみを売るのか?」を再確認し、適切な範囲を設定することで、効率的かつ効果的な商標保護を実現しましょう。

(2)着ぐるみの商標権が増加している背景と注意点

着ぐるみの商標権が本当に必要か、担当者が誰も検討していない

(A)着ぐるみは「使うもの」、売るためのものではない

今回、着ぐるみについて取り上げたのは、商標登録に不慣れな担当者が誤って権利範囲を設定する代表的なケースだからです。

ご当地キャラを使った町おこしで着ぐるみが活躍することはありますが、多くの場合、着ぐるみ自体を販売することはありません。

そもそも、着ぐるみは「地域のキャラクターを体現するツール」であり、商品として市場で流通させることはほとんどありません。

また、着ぐるみを個人で購入する人はごく少数のマニア層に限られますし、着ぐるみが大量に販売されると、偽キャラの出現を招き、地域ブランドの信頼性が損なわれるリスクもあります。こうした理由から、通常は着ぐるみの商標権取得は不要と言えます。

(B)増え続ける「着ぐるみ」の商標権

近年、権利範囲の設定に疑義がある商標権が増加傾向にある、との入手情報に基づき調査したところ、着ぐるみの商標権取得が突出していることが分かりました。これは、商標登録に不慣れな担当者が「着ぐるみも権利範囲に含めるべき」と誤解し、実際には必要のない権利を取得している事例が増えていることを示唆しています。

実際に調査を行ったところ、2020年から着ぐるみの商標登録件数が急増していることが確認されました。

Fig.1 着ぐるみは売るものではなくて使うものなのに、何故か着ぐるみを売るための権利を含む商標権が急増中

着ぐるみ関連の商標権が2020年に急増

これは入手情報通りの結果ではあるものの、正直なところ望ましい傾向ではありません。

本来取得する必要のない権利範囲を登録してしまうと、余計なコストや手間がかかるだけでなく、必要な範囲を見逃すリスクもあります。このような誤りは、商標登録における戦略の失敗と言えるでしょう。

ここがポイント:本当に必要な範囲を見極めることが重要

商標登録は慎重に行うべき手続きです。特に、ご当地キャラのようなケースでは、販売する商品や提供するサービスを基準に権利範囲を設定する必要があります。「着ぐるみを売るのか?」という根本的な問いを持ち、必要な範囲を明確にすることで、無駄を防ぎ、効果的な商標戦略を実現できます。

(3)権利範囲の設定を誤るリスクとは?

不必要な権利を取得するのは「必要な範囲」を理解していない証拠

2020年を境に、着ぐるみやコスプレ用の衣装の商標権が急増しています。しかし、実際にそれらを販売する事業者が急増しているとは考えにくい状況です。なぜこのような事態が発生しているのでしょうか?

たとえば、あるお客さまが「ご当地キャラの商標権を取得したい。着ぐるみの権利も取るべきだ」と考え、専門家に相談したとします。この場合、専門家であれば「本当に着ぐるみを販売する予定がありますか?」と確認するのが通常の流れです。

多くの場合、お客さま自身も「なぜ着ぐるみの販売について確認されるのか?」と不思議に思い、そこで初めて自分が取得しようとしている権利範囲を見直すきっかけが生まれます。

もし着ぐるみを売る予定がないとわかれば、本当に取得すべき範囲(たとえば、着ぐるみを使って販売する商品や開催するイベント)に修正することが可能です。

軌道修正されないまま進むリスク

一方で、商標登録の担当者が「分かりました。着ぐるみですね」とお客さまの言うまま手続きを進めてしまうと、問題が発生します。

適切な確認や軌道修正が行われないまま進行すれば、本当に取得すべき権利範囲が見落とされ、不必要な権利だけを取得してしまう結果になります。

たとえば、着ぐるみ自体を販売する予定がないのに、着ぐるみの商標権を取得しても、実際には地域おこしに活用する商品やイベントなどに関する権利保護が漏れてしまう可能性があります。これは、お客さまにとって大きな損失です。

専門家の役割の重要性

商標登録は、専門知識と戦略的な判断が求められる手続きです。お客さまの目的や計画を深く理解し、適切な権利範囲を提案できる専門家の存在が重要です。

もしも担当者が適切な確認を怠れば、商標登録が形だけのものになり、本来の目的を達成できなくなります。

ここがポイント:権利範囲は「必要かつ適切」に

商標登録の権利範囲を設定する際には、「その権利が本当に必要か?」を問い続けることが大切です。特に、ご当地キャラのように多岐にわたる用途が想定される場合、目的に応じた正しい範囲の設定が求められます。着ぐるみを販売する予定がないなら、取得すべきはその着ぐるみを活用した商品やサービスの権利であるべきです。

(4)まとめ

2020年頃を境に、適切な権利範囲でない商標権が多数発生しているとの入手情報に対する私の懸念が単なる杞憂であれば、それが一番望ましいことです。

しかし、現実には着ぐるみに関する商標権が増加しているだけでなく、他の業務分野でも権利範囲に関する誤りや漏れが多発している状況があります。

これが意味するのは、もし不要な権利を取得しているのであれば、その裏で本来取得すべき権利を見落としている可能性が高いということです。

商標登録における権利範囲の設定は、取得した後で変更することができません。願書を特許庁に提出した時点で、その内容が固定されてしまうため、後悔しないよう慎重に判断する必要があります。

商標登録で失敗しないためのチェックポイント

1. 本当に必要な範囲か?

権利を取得する目的に基づき、具体的に「何を守りたいのか」を明確にしてください。お客さまに提供する商品やサービスを基準に考えましょう。

2. ライバルの動きを確認する

同じ分野の競合他社がどのような商標権を取得しているのか調査し、自社が見落としている分野がないかを把握します。

3. 必要のない範囲を省く

コストや労力を削減するために、実際に使わない権利を除外しましょう。これにより、より効果的な権利保護が可能になります。

ここがポイント:商標登録は戦略的に

商標登録は単なる手続きではなく、事業の将来を守るための戦略的なステップです。本当に必要な権利範囲を設定するために、願書の内容をしっかり精査し、ライバルの動向も把握して、後悔のない商標登録を実現してください。

特に2020年以降に取得された商標権には、権利範囲の設定に疑義があるものが多数見受けられます。実際に人間が目を通したなら、初歩的な権利設定ミスは起きません。

機械的処理に頼らず、実際に弁理士・弁護士に直接相談して、出願内容がこれでよいか、確認してもらうことが大切です。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘 03-6667-0247

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