1.商標権侵害と警告書の送付について
商標や特許は、権利者が独占的に利用できる大切な権利です。他人が無断でこれらを利用すれば、商標権や特許権の侵害にあたる可能性があります。
ただし、権利者が商標権侵害を主張する前に、まずは侵害の有無を慎重に確認することが重要です。たとえば、相手が使っている商標が本当に商標として機能しているかどうか、また自分の登録商標と似ているかを確認する必要があります。
特許の場合も、相手の製品が自分の特許発明に該当するかどうかを確認し、特許無効のリスクも考慮します。商標の無効は特許ほど多くありませんが、それでも無効事由に注意を払う必要があります。
警告書送付時の注意点
商標権や特許権の侵害が確認できた場合、警告書を送ることで相手に通知します。しかし、この際には、相手とのビジネス関係が悪化するリスクも考慮すべきです。相手に製造や販売の中止を求めることが目的の場合もありますが、ライセンス契約を提案する選択肢もあります。
警告書を受けた側の対応
警告書を受け取った側も、商標権や特許権の侵害が本当に成立しているかどうかを検討します。交渉が行われることもあり、場合によっては訴訟に発展することもあります。
取引先への警告書送付の注意点
商標権や特許権が侵害されていると判断した場合、権利者が被疑侵害者に警告書を送ることは、正当な権利行使です。しかし、問題となるのは、被疑侵害者だけでなく、その取引先にも同様の警告を送るケースです。
取引先に対しても商標権侵害の事実を伝えることで、被疑侵害者に圧力をかけることができるため、一見効果的に思えるかもしれません。ですが、この行為は不正競争防止法に違反する可能性があり、慎重に検討する必要があります。
2.警告書が違法になる可能性について
商標権や特許権の侵害を主張して、被疑侵害者の取引先に警告書を送ることが営業誹謗行為となり、差止めや損害賠償の対象になる可能性があります。権利者と被疑侵害者が同じ市場で競争関係にある場合、特に注意が必要です。
取引先に「被疑侵害者が知的財産権を侵害している」と伝えることで、その企業の評判が下がる可能性があり、これは「営業上の信用を害する行為」に該当する可能性があります。
第2条この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(15)競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為(不正競争防止法2条1項15号)
上記の規定は、営業誹謗行為を不正競争の1つと定めるものです。
過去の裁判では、こうした場合に虚偽の事実とみなされ、営業誹謗と判断されることが多くありました。そのため、取引先に警告書を送る際は、慎重な判断が求められます。
ただし、最近の裁判例では、後日侵害が認められなかったとしても、特定の条件下では権利者の責任が問われないケースも出てきています。
以下の裁判例は、権利者には注意義務違反はなく過失がないとして権利者の責任を認めなかったものです。
以上のように,特許権者である1審被告が,特許発明を実施するミヤガワらに対し,本件特許権の侵害である旨の告知をしたことについては,特許権者の権利行使というべきものであるところ,本件訴訟において,本件特許の有効性が争われ,結果的に本件特許が無効にされるべきものとして権利行使が許されないとされるため,1審原告の営業上の信用を害する結果となる場合であっても,このような場合における1審被告の1審原告に対する不競法2条1項14号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては,特許権者の権利行使を不必要に萎縮させるおそれの有無や,営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮した上で,違法性や故意過失の有無を判断すべきものと解される。
(知財高判平成23年2月24日判タ1382号335頁)
3.おわりに
知的財産権の侵害が後から成立しないと判明した場合、裁判では権利者に責任を認めるものもあれば、特定の条件下では責任を問わないケースもあります。最近の裁判例には、権利者を保護する動きが見られる一方で、否定的な意見もあります。
知的財産権侵害の判断は複雑で、誤りを避けるためには専門家の助言を受け、慎重に進めることが非常に重要です。確実な対応で、不要なトラブルを避けましょう。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247