(1)米国で商標「KIMONO」が登録された?
キム・カーダシアンの米国商標「KIMONO」は商標登録された?
米国の商標「KIMONO」は4件出願されていますが、それぞれ現在米国で出願審査中であり、商標権が認められたわけではありません。
米国で何が争われているの?
現在、米国の合衆国特許商標庁で争われているのは、キム・カーダシアン(の会社)に米国で「KIMONO」についての商標権を与えてもよいかどうか、ということです。
商標「KIMONO」を補正下着等に使うことが許されるかどうかを争っているのではないです。
仮に、米国でキム・カーダシアンが商標「KIMONO」について商標権を獲得すると、米国で商標「KIMONO」を使うことができるのはキム・カーダシアン(の会社)と、許可を得た者だけになります。
米国の権利の内容は?
それぞれの米国商標の内容は次の通りです。
「KIMONO」商標その1
- 現在のステータス:出願審査中
- 米国出願番号:SN87886635
- 米国出願商標:KIMONO(デザインなしの標準文字)
- 米国出願日:2018年4月20日
- 権利範囲:第3類の化粧品関係、第18類のかばん関係
「KIMONO」商標その2
- 現在のステータス:出願審査中
- 米国出願番号:SN87886640
- 米国出願商標:KIMONO(デザインなしの標準文字)
- 米国出願日:2018年4月20日
- 権利範囲:第25類のアンダーウエア等の服関係
「KIMONO」商標その3
- 現在のステータス:出願審査中
- 米国出願番号:SN87886644
- 米国出願商標:KIMONO(デザインなしの標準文字)
- 米国出願日:2018年4月20日
- 権利範囲:第35類のアンダーウエア等の小売関係
「KIMONO」商標その4
- 現在のステータス:出願審査中
- 米国出願番号:SN88479867
- 米国出願商標:KIMONO(デザイン化された文字)
- 米国出願日:2019年6月19日
- 権利範囲:第18類のかばん関係、第25類の「KIMONO」関係(!)、第35類の服の小売関係
最初の1から3のKIMONO商標は、特にデザインを限定しない、文字だけの「KIMONO」表記の商標です。
なぜ複数の商標登録出願を行っているか、というと、個人でも法人でも、同一人なら出願件数の制限はないからです。
つぎになぜ最初の三つは同じ文字だけの「KIMONO」の商標を出願したか、というと、それは権利対象となる商品がそれぞれ互いに異なるからです。これらの権利範囲を一つにまとめて出願することもできます。
反面、権利範囲の中に一つでも権利が認められない商品が入っていると、出願全体が拒絶されます。
共倒れを避けるために、複数の出願に分けて権利申請しています。これにより、少なくとも一つは権利になるようにリスクを分散している、ということです。
(2)なぜ日本の伝統衣装である「KIMONO」が商標登録できる?
商標登録できる商標とできない商標
どの国でも、みんなが使うような一般的な商標の登録は認められていません。
ただし、一般的な商標であるかは、商標登録の際に指定する商品や役務との関係で判断されます。
例えば、商標「オレンジ」は果物一つの種類を示す一般名称ですから、果物を指定して商標登録することはできません。
これに対して商標「オレンジ」が一般的な表記であったとしても、例えば鉛筆やノート等の文房具の商品について商標「オレンジ」を使ったり、ドライバーやレンチ等の工具について商標「オレンジ」を使ったりするのは、これは一般的とはいえません。
このため指定商品等が商品「オレンジ」とは全く関係のない商品とか役務の場合には、これは商標登録される場合がある、ということです。
権利範囲を定める指定商品や指定役務との兼ね合いで、登録できる一般名称かどうかが決まる点が重要です。
米国で商品着物について商標「KIMONO」を登録できる?
日本でも米国でも日本の伝統衣装である着物が「KIMONO」であることは理解されていますので、商標「KIMONO」が商標登録されることはありません。
では商標「KIMONO」は米国の商標審査に合格できないか、というと、そうではありません。例外があります。
権利を指定する商品が「着物」以外なら登録の可能性が
商標「KIMONO」は着物について一般的であり、誰もが使う必要のある表記です。これが一個人や一企業が独占するとなると、これは問題です。
この一方、着物とは関係のない商品、例えば化粧品とかかばんなどについては、化粧品やかばんなどについて「KIMONO」との商標が一般的に使用されてきているか、というとそうではありません。
化粧品やかばんなどについて「KIMONO」が一般的に使われていないので、これは登録の可能性がでてきます。
文字にデザインを加えると登録の可能性が
普通のフォントでワープロ打ちした「KIMONO」が審査に通らなくても、商標「KIMONO」にデザインが加わると商標登録される可能性がでてきます。
デザインが加えられた商標「KIMONO」は、もはや一般的な商標とはいえなくなってくるからです。
米国では着物以外の補正下着等について登録の可能性も
服という分類からすれば、一個人、一企業に独占を認める商標権が与えられることは日本ではありませんが、米国では事情が少し異なります。
日本でも「KIMONO」は補正下着には使わないよね?
米国でも日本でも補正下着については商標「KIMONO」は一般的とはいえないよね?
・・・という考え方もありえます。
「KIMONO」という表記の米国における浸透度合いにも依存しますが、日本で登録が認められないから、米国でも当然、認められない、と考えるのは危険かもしれません。
(3)商標「KIMONO」が登録された場合の影響は?
米国で商標権が認められても日本で権利は主張できない
仮に米国で商標「KIMONO」の登録が認められ、商標権が発生したとしても、その権利は日本では主張できません。
米国の法律の効力が届くのは米国の領域内に限られるからです。
もしキム・カーダシアンが日本で商標「KIMONO」について権利を主張する場合には、日本の特許庁に申請して登録を受けなければなりません。
着物とは直接関係のない商品を扱うと問題が生じる場合も
服がらみで商標「KIMONO」の商標権が認められるのは米国でも難しいですが、逆に服がらみでなければ商標登録される場合も十分あります。
このため、商標「KIMONO」がかばん等を権利範囲として登録された場合には、日本の業者が商標「KIMONO」を使って米国でかばんを販売した場合には、商標権侵害の問題が生じます。
商標「KIMONO」が登録された、と聞けば、当然服関係については注意を払うでしょうが、服以外のアイテムについて権利が発生しているというのは、これは盲点になります。
仮に登録されたらどうすればよいか
米国とはいえ、きちんと審査をして国として登録が認められた権利ですから、抗議等により無効になるわけではありません。
このため、例えばネットで10万人規模の署名を集めて米国特許庁に嘆願したとしても、それだけでは権利は無効にはなりません。
きちんと米国国内で法律に定められた正式な裁判手続きにしたがって行動することが求められます。
(4)まとめ
キム・カーダシアンのように一定の知名度を獲得した人物がこのような行為をするのはあまり聞いたことがありません。
ただ、今回の商標「KIMONO」を出願することにより、私自身も彼女の名前をしっかり覚えましたので、炎上上等との姿勢で今回の出願に至ったのであれば、知名度をあげるという意味では一定の成功を納めたと言えるかもしれません。
本人は「KIM」の名前にひっかけた、という遊び心があるのでしょうが、みんなのものを一人が独占しようとするのは、私としては「はいそうですか。」とはいえない心境、というのが正直なところです。
私の生出演による解説は、2019年6月27日のフジテレビ「とくダネ!」で放送されました。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
大変ご無沙汰しております。
元・積水化学の知財におりました濱野です。
たまたまネットを見ていまして、平野先生のこの記事を見つけて読ませて頂きました。
面白いと言っては何ですが、こんなこともあるのですね。
キム・ガーダシアンさんはドメインネームでも「KIMONO.com」を取得されているようで「KIMONO」にけっこう思い入れがあるようですね。
私的にはビジネスに必要なものを集め、取得されようとするところが立派だなと思いました。
こんな感想ですいません。
平野先生のご活躍を祈念しております。