索 引
1. 商標エンブレムを表示しなくても商標権侵害になる?
立体形状だけの立体商標が登録されている
商標権侵害は、商標のタグやエンブレムを商品につけた場合に生じるケースが一般的です。しかし、商品のどこにも文字、記号、マーク等のタグやエンブレムを表示していなくても商標権侵害となる場合があります。
見落としがちなのが、形状のみの立体商標についての商標権です。
文字、記号、マーク等の情報を含まない形状のみの立体商標が商標登録されると、指定商品について登録された立体商標を使えるのは商標権者だけとなります。
特許庁で公開されている商標公報から、エルメスのバーキンの立体商標の登録事例を紹介します。
商標登録第5438059号
特許庁公開の商標公報から引用
指定商品はハンドバッグであり、この登録された立体商標と同一か似た立体形状のハンドバッグを販売すると、商標権侵害となります。
2. 指定商品そのものの立体形状のみの出願は審査に合格しにくい
商品そのものの立体形状は審査に合格しにくい理由
ハンドバッグを指定商品として、立体形状のみの商標が登録されると大きな権利となります。商標権は更新手続により半永久的に保持できるためです。
デザインを保護する意匠権も、著作物を保護する著作権も、権利には存続期間があります。この期間を経過すると誰でも自由に使えるようになります。
しかし商品そのものの形状について立体商標の審査に合格できれば、更新を続ける限り存続する商標権が手に入ります。
ハンドバッグの一般的な立体形状について、ハンドバッグを商標に使用する商品に指定して特許庁に商標登録出願しても、特許庁は簡単には登録を認めません。商品そのものの一般的な形状は、誰もが自由に使えるものであり、一個人に独占させるべきではないためです。
これは商品「お米」を商標に使用する商品に指定して、商標「お米」を特許庁に出願しても審査に合格できないのと同じ理由です。
商標法上は例外規定として、需要者がその立体商標をみてすぐにどこの商品か分かるくらいに有名になった場合には、例外的に商標登録を認めて保護する規定があります(商標法第3条第2項)。
エルメスのバーキンもハンドバッグの形状を見ればバーキンと分かるくらいに有名になっていますので、例外的に登録が認められました。
文字、記号、マーク等のタグやエンブレムをどこにも表示していない立体形状について、その立体形状そのものの商品を指定した場合には審査に合格するのは非常に困難です。
会社名等の文字などの識別情報を立体形状に加えると、立体商標の登録が比較的容易になります。
3. 「偽バーキン」販売目的の所持疑いでの逮捕事例
2025年9月5日の中日新聞によると、「偽バーキン」販売目的で所持した疑いで、愛知県警が会社代表を逮捕したことが報道されています。
登録されているバッグと完全一致でなくても、類似した立体形状のバッグを販売するだけで、商標権侵害と判断される場合があります。
商標法に違反すると、仮に販売した事実がなくても、販売目的で所持するだけで逮捕されることがあります。
4. 過去にも年商10億円の社長による販売で逮捕事例が発生
商標権を侵害するかどうかは販売者の主観では決まらない
エルメスのバーキンと共通部分の多いハンドバッグを販売した場合、「これはエルメスのバーキンではありません。」との表記を販売者が付けた場合や、「これはエルメスのバーキン風のハンドバッグであり本物ではありません。」との表記を付けた場合、さらに「エルメスのバーキンとは類似していません。」と主張した場合に商標権侵害ではなくなるのでしょうか。
結論からいうと、商標権侵害になるかどうかは、販売者の意図や主観は考慮されません。
実務では、販売されているハンドバッグの商品と、エルメスのバーキンの登録されている立体商標とを比較し、「需要者が間違える程度に商品全体の外観が共通しているかどうか」を裁判官が需要者の立場に立って判断します。
商品全体の外観が共通していると判断されると商標権侵害となります。
「これは偽物であり、本物ではありません。」と注意書きを付けても権利侵害を回避できません。商品全体の外観が共通する商品を販売した時点で侵害となります(正確には販売のために商品を製造した段階で侵害となります)。
5. まとめ
商品のどこにもエルメスやバーキンの表示をしていないから問題ないと考える人がいるかも知れません。
しかしバーキンクラスになると、ハンドバッグそのものの形状が立体商標として商標法により保護され、バーキンのハンドバッグそのものが商品表示として不正競争防止法で保護されます。エルメスの商標のタグやエンブレムを使っていない、という主張は侵害回避の理由になりません。
商標権侵害になるかどうか知らなかったと主張しても、警察に逮捕されることはあります。法律を知らなかったからといって免責されるわけではありません。
商標権侵害の事実を知らなければ、販売者側は突然の逮捕を受けることもあるのです。
過去の2017年の事件についてのコメントは、テレビ朝日スーパーJチャンネルで2017年7月15日に放映されました。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247