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バッグに「HERMÈS」や「Birkin」の文字がなくても、その立体的な形状が登録商標と同一又は類似なら、商標権侵害が問題になります。文字商標だけを検索して安全と判断することはできません。
逮捕の報道は、有罪が確定したという意味ではありません。捜査段階の容疑と、民事上の侵害、刑事責任の成立条件を分けて読むことが欠かせません。
文字やロゴがなくても問題になる理由
立体的な形状そのものが商標になる
商標には、文字、図形、記号だけでなく立体的形状も含まれます。商品形状が立体商標として登録されている場合、形状それ自体が出所を示す標識です。別のブランド名を付けたり、ブランド名を外したりしても、登録された形状との比較は残ります。
エルメスの登録例
特許庁公開の商標公報から引用
この登録の指定商品にはハンドバッグが含まれます。個別商品の侵害判断では、登録商標の構成、対象商品の形状、指定商品との関係、取引の実情などを確認します。「バーキン風」と表示したか、本物ではないと説明したかだけで結論は出ません。
平面商標との違いは平面商標と立体商標の選び方でも説明しています。
商品の形を立体商標として登録する条件
通常採用される形状は識別力を得にくい
商品の機能又は美観のために採用される形状や、同種商品が通常採用する形状は、需要者が商品そのものの形と受け取りやすく、原則として識別力が認められにくい類型です。文字を立体物に付けただけで、形状部分まで広く独占できるわけでもありません。
使用による識別力を資料で示す
使用を重ねた結果、需要者が形状だけで出所を認識するに至った場合は、商標法3条2項による登録の余地があります。使用期間、販売数量、販売地域、広告、報道、需要者調査などを使い、出願した形状と実際に使用した形状の同一性も示します。
登録の可否と侵害の有無は別の問いです。登録後の侵害判断では、相手の商品形状が登録商標と同一又は類似か、商品が指定商品又は類似商品に当たるかを検討します。判断の入口は商標権侵害の基準も参照してください。
販売前の所持も侵害とみなされる場面
商標法37条2号は、指定商品又はこれに類似する商品で、商品又は包装に登録商標若しくは類似商標を付したものを、譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為を侵害とみなします。店頭販売が終わる前でも、目的と保管状況によって問題となる規定です。
2025年9月には、いわゆる「偽バーキン」を販売目的で所持した疑いによる逮捕が報道されました。逮捕は捜査機関が容疑に基づいて身柄を拘束した段階であり、裁判所が侵害や有罪を確定した段階ではありません。報道事例から一般論を引くときは、この違いを明記します。
所持のすべてが同号に当たるのではなく、登録商標との同一・類似、商品範囲、商標としての使用、譲渡等の目的などを事案ごとに確認します。仕入れた品を自社倉庫へ移しただけでも、販売計画や在庫資料が判断材料になることがあります。
民事責任と刑事責任を分けて考える
民事では差止めと損害賠償が問題になる
商標権者は、侵害者又は侵害のおそれがある者に差止めを請求できます。損害賠償では故意又は過失が争点になり、商標法39条が準用する特許法103条には、侵害者の過失を推定する規定があります。「知らなかった」という説明だけで民事責任を免れるとは限りません。
刑事責任では故意の有無も調べる
刑法38条1項は、特別の規定がない限り、罪を犯す意思がない行為を罰しないと定めます。したがって、商標権侵害の刑事責任を「販売者の主観を一切考えない」と説明するのは正確ではありません。侵害品であることを認識していたかなど、客観的な侵害要件とは別に故意も審理対象となります。
一方、同条3項は、法律を知らなかったことだけで犯罪意思がなかったとは扱わない旨を定めています。商標法を知らなかったことと、侵害を基礎付ける事実を認識していなかったことは同じではありません。逮捕の有無、有罪の成否、民事責任を一つの基準で説明しないことが肝要です。
仕入れ・製造前に確認する項目
- 商品名やロゴだけでなく、外観・容器・包装の立体商標も検索する
- 登録商標の図面、実線・破線、詳細な説明、指定商品を読む
- 仕入先から権利処理、製造元、流通経路を示す資料を得る
- 比較対象の写真、寸法、販売ページ、仕入書類を保存する
- 警告を受けた品は販売・出荷・広告を広げる前に法的評価を受ける
模倣品ではないという仕入先の口頭説明だけに頼らず、登録内容と現物を照合します。警告書が届いた場合の初動は商標権侵害を指摘されたときの対応もご覧ください。
よくある質問
Q1.ブランド名を付けなければ形をまねてもよいですか?
そうとは限りません。形状自体が立体商標として登録されていれば、文字やロゴがなくても侵害が問題になります。
Q2.「本物ではありません」と表示すれば侵害を避けられますか?
表示だけで回避できるとは限りません。対象形状と登録商標の類否、商品範囲、使用態様などから判断します。
Q3.販売していなければ商標権侵害になりませんか?
販売前でも、譲渡、引渡し又は輸出のための所持が商標法37条2号の要件を満たせば、侵害とみなされます。
Q4.逮捕されたら商標権侵害が確定したことになりますか?
なりません。逮捕は捜査段階の手続です。起訴の有無や裁判の結果とは区別します。
Q5.知らずに仕入れた場合も刑事責任を負いますか?
刑事責任では故意の有無が問題になります。ただし、法律を知らなかったことだけでは故意を否定できません。民事責任では過失の推定もあるため、仕入経路と確認記録を残します。
立体商標が関係する商品は、名称検索だけで終えず、形状、指定商品、流通目的を一組で確認します。逮捕報道を読むときも、容疑、民事上の侵害、刑事責任の成立を区別してください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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