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横取りされた商標権の実際の不服申立割合はいくら?

登録後の商標を争う件数は、同じ年の商標登録件数と比べると1%未満です。しかし、この数字をそのまま「商標が横取りされた割合」や「横取りを取り消せた割合」と読むことはできません。統計の対象年度、事件の単位、手続の目的がそろっていないためです。

特許庁『特許行政年次報告書2025年版』の2024年実績を使い、何が数えられているのかを分けて確認します。

2024年の商標登録と申立件数

2024年の商標登録出願は158,792件、ファーストアクションは158,060件、登録査定は137,845件、登録は132,011件でした。ファーストアクションとは、登録査定や拒絶理由通知など、審査官による最初の審査結果が発送された件数です。

登録後の手続では、2024年の商標登録異議申立てが291件(権利単位)、商標登録無効審判の請求が86件です。単純に足すと377件で、同年の登録132,011件に対して約0.29%になります。

この約0.29%は、2024年に受け付けた二つの手続件数を、2024年に登録された件数で割った参考値にすぎません。377件が全て横取り案件という意味でも、2024年登録のうち377件が争われたという意味でもありません。

異議申立てと無効審判の違い

異議申立ては公報発行後2か月以内

商標登録異議申立ては、商標掲載公報の発行日から2か月以内に、何人も申し立てられる手続です。特許庁が登録処分の適否を見直し、取消理由が認められれば全部又は一部の指定商品・指定役務について登録が取り消されます。期限の起点については商標登録の異議申立期間もご覧ください。

無効審判は利害関係人が請求する

商標登録無効審判は、商標法46条所定の無効理由を主張して登録の有効性を争う手続です。請求できるのは利害関係人です。異議期間の経過後も使える場合がありますが、無効理由によっては登録から5年を経過すると請求できない除斥期間があります。

拒絶査定を受けた出願人が請求する「拒絶査定不服審判」は、登録後の第三者が争う手続とは別です。記事タイトルにある「不服申立」を広い日常語として使っても、統計では異議申立て、無効審判、拒絶査定不服審判を混ぜずに扱います。

約0.29%を横取り率と呼べない理由

  • 異議申立てや無効審判には、横取り以外の登録要件を争う事件も含まれる
  • 2024年に申し立てられた事件の対象が、2024年に登録された商標とは限らない
  • 異議申立ては権利単位、無効審判は請求件数で、集計単位が同一ではない
  • 同じ商標を巡って複数の手続や当事者が関わる可能性があり、固有の商標数とは限らない
  • 交渉、出願取下げ、名義移転、使用中止など、審判に至らない解決は表に現れない

したがって、公表統計から「横取り出願の発生率」や「被害者が争った割合」を直接算出することはできません。約0.29%から分かるのは、登録件数の規模に対し、異議申立てと無効審判の年間受付件数が小さいという相対的な関係です。

件数が小さく見えても、個々の事業者にとっての損失が小さいとは限りません。商品の改名、包装の作り直し、ウェブサイト変更、販売停止、交渉や審判への対応が同時に発生することがあります。

審理結果の数字を読む際の注意

2024年に特許庁が最終処分した商標登録異議事件は、取消決定20件、維持決定277件、取下げ・放棄42件でした。商標登録無効審判は、請求成立23件、請求不成立・却下52件、取下げ・放棄23件です。

当年の最終処分には、前年以前に申し立てられた事件が含まれます。反対に、2024年に受け付けた事件の一部は翌年以降に処分されます。そのため、取消決定20件を同年の申立て291件で割る方法や、成立23件を同年の請求86件で割る方法では、同一事件群の成功率になりません。

取消決定と維持決定だけを比べた比率も、2024年に処分された事件の構成を示す参考値です。個別案件の見込みは、引用する先行商標、周知性の資料、使用開始時期、相手の出願経緯、指定商品・指定役務などから評価します。無効審判の具体例は阪神優勝商標の無効審判でも説明しています。

横取りに備えて先に行う対策

  1. 候補名を公開する前に、文字、読み方、外観が近い先行商標を調査する
  2. 販売予定の商品とサービスを洗い出し、使用予定の範囲から出願する
  3. 名称を決めた日、企画書、発注書、広告案、販売開始日を記録する
  4. 商標公報や市場を監視し、似た出願を早期に発見する
  5. 発見時は公報発行日、相手の指定範囲、自社の使用証拠を確認する

日本の商標制度では、同一又は類似の商標が競合するとき、使用開始の早さだけでなく出願日の先後が大きく影響します。重要な名称を公表してから相手の出願を知るより、採用判断と出願判断を並行させる方が対応の選択肢を残せます。

よくある質問

Q1.登録商標の約0.29%が横取りされたということですか?

違います。約0.29%は、2024年の異議申立て291件と無効審判86件を同年の登録132,011件と比べた参考値です。事件と登録の集計対象が対応せず、横取り以外の理由も含みます。

Q2.異議申立ては誰でもできますか?

何人も申し立てられます。ただし、商標掲載公報の発行日から2か月以内という期限があります。

Q3.異議期間を過ぎたら争えませんか?

無効審判などを検討できる場合があります。ただし、利害関係、無効理由、除斥期間の確認が欠かせません。

Q4.先に使っていれば、後から出願しても必ず勝てますか?

必ずではありません。先使用に関する制度はありますが、使用時期だけでなく、周知性、使用地域、商標と商品・役務の関係などの要件があります。

Q5.似た出願を発見したら何を保存しますか?

相手の出願情報と公報、自社の使用開始を示す広告、注文書、請求書、商品写真、アクセス記録などを日付が分かる形で保存します。

統計は制度全体の規模を知る資料です。自社案件の期限や勝敗を示す数字ではないため、手続ごとの要件と証拠に戻って判断してください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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