索 引
1. はじめに
自社のブランドと紛らわしい商標が、他人の名義で登録されてしまった。あるいは、本来なら登録されるはずのない商標が、なぜか審査を通って公報に載っている。こうした場面に直面したとき、「もう登録されてしまったのだから、こちらには打つ手がない」とあきらめてしまう方は少なくありません。
しかし、いったん登録された商標であっても、その登録を覆すための制度はきちんと用意されています。代表的なものが「登録異議の申立て」です。ここでは、異議申立てとはどういう手続きなのか、申し立てるとどのような流れで審理が進むのか、そして認められなかったときに次に何ができるのかを、実務の感覚を交えて順を追って説明します。
2. 異議申立てができる期間と、申し立てられる人
他人の商標登録に問題があると感じたとき、まず検討するのが特許庁への登録異議の申立てです。これは「この登録には取り消されるべき理由がある」と特許庁に審理を求める手続きで、誰でも申し立てることができます。利害関係がなくても、第三者の立場から申し立てが可能です。
ただし、ここで最も注意してほしいのが期間です。異議申立てができるのは、商標掲載公報が発行された日から2か月以内に限られます。この2か月は法律で定められた期間で、原則として延長は認められません。「気づいたときには3か月が過ぎていた」というケースでは、異議申立てそのものができなくなってしまいます。
そのため、競合になりそうな分野や、自社のブランドと近い名称については、公報を定期的にチェックして早めに気づける体制をつくっておくと安心です。気づくのが遅れると、選べる手段が後述の無効審判などに限られてしまいます。
3. 申立ての理由は「商標法に定められたもの」に限られる
異議申立てで気をつけたいのが、主張できる理由が法律で決まっているという点です。「自社が先に使っていたのに不公平だ」「なんとなく似ていて紛らわしい」といった、感覚的な不満をそのまま並べても登録は取り消せません。
実際に主張できるのは、たとえば次のような法律上の取消理由です。
- すでに登録されている他人の商標や、よく知られた商標と紛らわしい(混同のおそれがある)
- 商品やサービスの内容・品質をそのまま表しただけで、識別力がない
- 公序良俗に反する、あるいは他人の著名な氏名や名称を含んでいる
- 他人の周知な商標と同一・類似で、不正の目的で出願された
こうした理由のどれに当てはまるのかを特定し、それを裏づける証拠とともに、書面で論理的に示さなければなりません。電話やメールで「あの登録はおかしい」と伝えるだけでは手続きとして認められません。法律で定められた様式に従った申立書を、証拠を添えて特許庁に提出することになります。
4. 異議申立てが行われた後の流れ
申立書が受理されると、特許庁の審判官3名からなる合議体が審理を担当します。担当するのは、最初に登録を認めた審査官とは別の審判官です。つまり、登録までの判断を別の目で見直してもらう仕組みになっています。
審理の結果、「審査官の判断には誤りがあり、この登録には取消理由がある」と合議体が判断した場合、いきなり登録が消えるわけではありません。まず商標権者に対して取消理由が通知され、商標権者は意見書を提出して反論する機会を与えられます。
ここで商標権者の反論に理由があると認められれば、登録は維持されます。一方、反論によっても取消理由が解消されないと判断されれば、登録を取り消す決定が出されます。登録が取り消されると、その商標権は初めから存在しなかったものとして扱われます。これは、過去にさかのぼって権利がなかったことになるという点で、とても強い効果を持ちます。
5. 異議申立てが認められなかったときの次の一手
申立てが認められず、登録が維持されることもあります。その場合でも、打てる手がなくなるわけではありません。
代表的な次の手段が、無効審判です。無効審判は、異議申立てと同じように登録の効力を覆すための手続きですが、いくつか違いがあります。異議申立てが公報発行から2か月以内に限られるのに対し、無効審判は原則としてその期間を過ぎた後でも請求できます。また、無効審判は誰でも請求できる異議申立てと異なり、原則として利害関係のある人が請求する手続きです。
ただし、ここでも期間の制約があります。商標法には除斥期間という定めがあり、不登録事由の一部については、登録から5年が経過すると無効審判を請求できなくなります。たとえば「他人の登録商標と紛らわしい」といった理由は、この除斥期間にかかります。登録日から5年を過ぎてしまうと、その理由ではもう争えなくなるため、ここでも早めに動くことが欠かせません。
なお、異議申立ての審理を担当した審判官と、無効審判を担当する審判官は重なることがあります。請求の理由と証拠がまったく同じであれば、結論も同じになりやすいという点は押さえておきましょう。無効審判で結果を変えたいのであれば、異議申立てのときとは異なる証拠や、より説得力のある主張を準備することがポイントになります。
このほか、登録される前の段階であれば、審査官に対して「この出願にはこういう問題がある」と資料を提出する情報提供という制度もあります。タイミングによって使える手段が変わってくるため、自社の状況がいまどの段階にあるのかを見極めるとよいでしょう。
6. 専門家に相談する価値
ここまで見てきたように、他人の商標登録を覆す手続きは、期間の制限が厳しく、主張できる理由も法律で決まっています。そのうえ、その理由を証拠で裏づけて書面で論述しなければならず、感情的な訴えだけでは結果につながりません。
どの理由で争えるのか、除斥期間に間に合うのか、異議申立てと無効審判のどちらを選ぶべきか。こうした判断には、商標の審査・審判の実務に通じた専門家の視点が欠かせません。ファーイースト国際特許事務所では、実務経験10年以上のベテラン弁理士がお客さまを直接担当し、状況に応じた最適な手段をご提案します。
他人の商標登録にお悩みの方は、期間が過ぎてしまう前に、まずは無料相談・調査のお問い合わせからお気軽にご連絡ください。手続きにかかる費用の目安は商標登録の費用ページでご確認いただけます。
7. よくある質問
Q1:異議申立てをするには、どのような手続きをすればよいですか?
特許庁に対して、法律で定められた様式の申立書を提出します。申立書には取消理由と、それを裏づける証拠を添えます。提出できるのは商標掲載公報の発行から2か月以内で、この期間を過ぎると申し立てできなくなる点に注意してください。
Q2:異議申立ての理由は、どんな内容でもよいのですか?
いいえ。主張できる理由は商標法に定められたものに限られます。先に使っていた、紛らわしいと感じる、といった感覚的な不満をそのまま述べても登録は取り消せません。法律上の取消理由のどれに当てはまるかを特定し、証拠とともに示すことが欠かせません。
Q3:異議申立てが認められなかった場合、どのような対策がありますか?
無効審判を請求して、登録の無効化を求める方法があります。ただし、登録から5年の除斥期間を過ぎると、一部の理由では無効審判を請求できなくなります。異議申立てと同じ理由・証拠では結論も変わりにくいため、新たな証拠や主張を用意しておくとよいでしょう。
Q4:異議申立ては書面で行うと聞きましたが、メールでもできますか?
できません。異議申立ては法律で定められた様式に従い、書面で行います。電話やメールでの申立ては認められていません。
Q5:異議申立てが認められると、商標権はどうなりますか?
その登録は取り消され、商標権は初めから存在しなかったものとして扱われます。過去にさかのぼって権利がなかったことになるため、効果としてはとても大きい手続きです。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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