2025年2月27日のロイターで、インドの裁判所がアマゾンの子会社に対して商標権侵害で3900万ドル(約58億円)の損害賠償を命じたニュースが報じられました。この事件の影響について解説します。
1. インド裁判所がアマゾンに商標権侵害で3900万ドルの賠償命令
1-1. 事件の概要:
- アマゾンの子会社が「ビバリーヒルズポロクラブ」の商標権を侵害した商品をインドの通販サイトで販売した
- 損害賠償額は3900万ドル(約58億円)
1-2. 訴訟の経緯:
- ライフスタイル・エクイティーズ社(商標権所有者)が2020年に訴訟を提起
- ビバリーヒルズポロクラブに酷似したロゴの衣料品が安値で販売されていたことが問題とされた
1-3. 裁判所の判断:
- 商標権を侵害したブランドはアマゾン・テクノロジーズ(アマゾンの子会社)が所有
- インドの裁判所が賠償命令を下した
1-4. 特筆すべき点:
- インドの法律関係者によると、この賠償額はインドの商標権訴訟で米国企業に命じられた過去最高額とされる
1-5. アマゾンの反応:
- アマゾンのインド法人は不正行為を否定している
この判決は、海外企業がインド市場で事業展開する際の知的財産権保護の重要性を示す事例と言えます。
2. インド裁判所の判断の日本への影響は?
2-1. インドの法律が及ぶのは、原則インド国内の領域内だけ
法律は原則それぞれの国の領域内で有効です。条約等で別途約束している場合には、国内法令を上書きする形で国内法令に反映されますが、そのような国家間の約束がなければ、一つの国の法律の効力が及ぶのはその国の領域内限りです。
それぞれの国は国家の主権を保有していて、自国の法律を自由に定めて執行することができます。
知らない他人から「今日の夕飯はカレーライスを食べなさい」と言われても、我が家でそのような意見を採用するかどうかはそれぞれの家の判断です。知らない他人の意見を我が家で採用しなければならない理由はありません。
「今日の夕飯はカレーライスを食べなさい」というのは内政干渉で、我が家からすれば、「何じゃ?それは」というのが正しい対応です。これと同様です。
3. インドの商標権の日本への影響は?
3-1. 該当国で登録されているかどうかが問題になる
インドで商標が登録されていても、日本で同じ商標が登録されていなければ、日本で商標権の権利行使が認められることはありません。
日本では特許庁に商標を登録して初めて商標権が発生している登録主義を採用しているからです。
3-2. 国際商標登録制度のマドプロの影響は?
国際商標登録制度のマドプロも、各国間の商標登録手続きを統一しているだけで、それぞれの国で商標権が発生するかどうかは、それぞれの国の審査を受けて、審査に合格するかどうかに依存します。
インドで国際商標登録していても、マドプロで日本を指定していなかったり、日本の審査に合格することができなかった場合には、日本で商標権が認められることはありません。
最終的には、該当する商標権が日本での特許庁の審査を経て、登録が認められているかどうかによります。
4. 日本で商標登録されていなければ大丈夫か?
4-1. 商標法以外にも商標を保護する法律が存在する
日本で商標登録されていないとしても、無断で自由に使用できない場合があります。商標法以外にも商標を保護する法律があり、例えば、不正競争防止法によれば、商品表示として有名な商標の使用が制限されます(不正競争防止法第2条)。
このため、日本で該当する商標権が存在しない場合でも、油断はできません。
4-2. 実務上のベストプラクティス
商標法では、すでに登録されている商標権の権利内容に抵触するような商標の登録が認められていません。また日本で登録されていない場合であっても、有名な商標と誤認混同するような商標の登録も認められていません。
このため、特許庁に権利申請して審査に合格して登録すれば、一応は日本国内で登録商標を使用できるお墨付きがもらえます。
このため、商標を業務表示として使用するなら、特許庁で登録した商標を使用するがベストです。
4-3. 商標登録の先願主義に注意
日本で商標が登録されていないからといっても安心できません。日本では先に特許庁に権利申請した者に商標権を与える先願主義が採用されているので、こちらよりも他人が先に特許庁に権利申請すると、商標権が他人の手に渡ってしまうからです。
大切な商標なら、特許庁に登録して、他人に横取りされることを防ぐことが最初の一歩です。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247