索 引
1. 商標登録と意匠登録はどこが違うのか
商標登録と意匠登録は、どちらも特許庁に出願し、審査を経て権利になる制度です。ただし守る対象が違います。商標登録は、商品やサービスの出所を示す名前やマークを守ります。意匠登録は、商品の形や模様といったデザインを守ります。
「新商品の見た目を真似されたくない」という相談を受けると、商標と意匠のどちらで守るべきかを最初に確認します。名前やロゴなら商標、製品そのものの形なら意匠というのが基本の分け方ですが、パッケージやボトルのように両方が関わるものもあります。
ここでは、それぞれの保護対象、登録の条件、権利の期間と費用の違いを見たうえで、両方を使う場面をご紹介します。
2. 商標登録で保護されるもの

商標登録は、商品や役務に使用される識別標識を保護します。文字、図形、記号、立体的形状、色彩、音などが商標になります(商標法2条)。登録された商標は、指定した商品や役務と結びついて、その商品はどこの会社のものかを示す目印として働きます。
例えば、「iPhone」という商標をスマートフォンに使用する場合、商標登録により他の人が同じ商標を使用することが制限されます。似た名前を似た商品に使う行為も、商標権の侵害として差止めや損害賠償の対象になります(商標法37条)。
商標で守れるのは、あくまで出所を示す目印です。スマートフォンの画面の形や本体のデザインそのものは、商標登録では守れません。会社名、商品名、サービス名、ロゴ、キャラクターの名前などが商標登録の対象になります。
3. 意匠登録で保護されるもの

意匠登録は、物品の形状、模様、色彩やこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものを保護します(意匠法2条)。意匠権を取ると、登録した意匠と同一または類似の意匠を使った物品の製造や販売を独占できます(意匠法23条)。
例えば、自動車「スカイラインGT-R」のデザインが意匠登録されている場合、他の人は似たようなデザインの自動車の製造販売が制限され、自由にできなくなります。
意匠は、以前は物品と一体になったデザインに限られていました。2020年4月1日施行の改正意匠法で対象が広がり、物品に記録されていない画像のデザイン、建築物の外観、店舗の内装も意匠登録できるようになりました。アプリの操作画面や店舗デザインを守りたい場合も、意匠が選択肢に入ります。
一方、ロゴマークそのものは物品のデザインではないため、意匠登録の対象にはなりません。ロゴは商標で守ります。ロゴを商品の表面に模様として付けた場合は、その商品の意匠として出願する余地があります。
4. 登録の条件の違い
商標は、使っている名前でも登録できる
商標登録では、その商標が新しいものである必要はありません。何年も前から使ってきた店名や商品名でも登録できます。求められるのは、商品の普通名称や品質表示ではなく、自分の商品と他人の商品を区別できる目印になっていることです(商標法3条)。
ただし、他人が先に出願した同じまたは似た商標が、同じまたは似た商品について存在すると登録できません(商標法4条1項11号、8条)。先に使っていた事実より、先に出願した方が優先されるのが原則です。名前を決めたら、使い始める前に調査と出願を済ませておく理由はここにあります。
意匠は、公開前に出願するのが原則
意匠登録の条件は、出願前に知られていない新しいデザインであること(新規性)と、既存のデザインから簡単に思いつくものでないこと(創作非容易性)です(意匠法3条)。展示会に出した、カタログに載せた、ウェブサイトで発表したという場合、そのデザインは公開済みとして扱われ、原則として登録できなくなります。
自分で公開してしまった場合は、公開から1年以内に手続をすれば新規性を失わなかったものとして扱う例外があります(意匠法4条2項)。とはいえ、例外の手続には証明書類が必要で、出願が遅れるほど他人の先行出願のリスクも増えます。デザインは発表前に出願する、と決めておく方が確実です。
この違いは、相談の順番にも関わります。商標は販売開始後でも間に合うことがありますが、意匠は発売やプレスリリースの前に動かないと手遅れになります。新商品の準備では、デザインが固まった段階で意匠の要否を先に決め、名前の商標調査と並行して進めます。
5. 権利の期間と費用の違い
商標権の存続期間は設定登録の日から10年で、更新登録の申請をすれば10年ずつ何度でも延ばせます(商標法19条)。使い続ける限り権利を維持できるため、100年前の商標が今も生きている例があります。
意匠権の存続期間は、2020年4月1日以降の出願では出願日から25年です(意匠法21条)。それより前の出願については、登録日から20年でした。意匠権には更新の制度がなく、期間が満了すると誰でもそのデザインを使えるようになります。
費用の面では、商標登録は1区分・10年分を一括で納める場合、特許庁料金が出願料12,000円と登録料32,900円の合計44,900円です。意匠登録は出願料と、年ごとの登録料を納める仕組みで、維持する年数によって総額が変わります。意匠の料金は意匠登録のページでご案内しています。どちらも代理人の手数料は別にかかります。
審査にかかる期間や、出願書類の作り方も異なります。商標は文字や図形と指定商品を願書に書きますが、意匠は六面図などの図面や写真でデザインを特定します。図面の描き方ひとつで権利の範囲が変わるため、意匠の出願は図面の準備に時間をかけます。
6. どちらで守るか、両方を使う場面
守りたいものが名前やロゴなら商標、製品の形なら意匠です。迷うのは、その中間にあるものです。飲料のボトルの形、化粧品の容器、菓子の形、店舗の外観などは、意匠として出願できるだけでなく、立体商標として商標登録できる場合もあります。
ただし、立体的な形を商標として登録するには、その形だけで「あの会社の商品だ」と分かる状態になっていることが必要で、発売直後の商品では認められにくいのが実情です。発売時は意匠で守り、長年の販売で形が出所を示すようになった段階で立体商標を検討する、という組み合わせが現実的です。意匠権は25年で終わりますが、その間に立体商標を取れれば、更新で守り続けられます。
パッケージも両方が関わります。パッケージに印刷した商品名やロゴは商標、パッケージの形状や模様の全体は意匠です。模倣品への対応では、名前を変えて形だけ真似た商品には意匠権、形を変えて名前だけ寄せた商品には商標権と、使い分けて対処します。意匠と商標を組み合わせて権利を固める考え方は、意匠と商標の合わせ技で権利を強化する方法の記事で取り上げています。
予算に限りがある場合は、模倣されたときに事業への影響が大きい方から取ります。名前を変えられると顧客が探せなくなる商品なら商標を優先し、形そのものが売りの商品なら意匠を優先します。どちらか一方だけで足りるかどうかは、商品と販売の仕方を見ないと判断できません。
当事務所では、実務10年以上の弁理士・弁護士がお客さまを直接担当し、商標と意匠のどちらで守るかの相談からお受けしています。商品名やロゴについては無料調査のお申込みから、費用は商標登録の費用のページからご確認ください。
7. 商標登録と意匠登録の違いについてよくある質問
Q1. 商標登録と意匠登録の違いは何ですか?
商標登録は商品やサービスの出所を示す名前やマークを守り、意匠登録は物品や画像、建築物などのデザインを守ります。商標は使用中の名前でも登録でき、更新すれば期限なく維持できます。意匠は公開前の新しいデザインであることが必要で、権利は出願日から25年で終わります。
Q2. 商標登録と意匠登録の手続きはどのように行われますか?
どちらも特許庁に願書を提出し、審査を経て登録されます。商標は商標と指定商品・指定役務を願書に記載し、意匠は図面や写真でデザインを特定して出願します。出願前の調査、拒絶理由への対応、登録料の納付という流れは共通です。
Q3. 商標登録と意匠登録の保護期間はどのくらいですか?
商標権は設定登録の日から10年で、更新により10年ずつ延ばせます。意匠権は2020年4月1日以降の出願で出願日から25年、それ以前の出願では登録日から20年です。意匠権に更新はありません。
Q4. 商標登録と意匠登録の保護範囲はどのように異なりますか?
商標権は、登録商標と同一または類似の商標を、指定商品・指定役務と同一または類似の商品・役務に使う行為に及びます。意匠権は、登録意匠と同一または類似の意匠を使った物品などを製造、販売する行為に及びます。名前を守るのが商標権、形を守るのが意匠権です。
Q5. 商標登録と意匠登録の両方を行う必要がありますか?
名前と形の両方が商品の売りになっているなら、両方を取ると模倣への対応がしやすくなります。名前だけ、または形だけが重要な商品なら一方で足りることもあります。予算に限りがあるときは、真似されたときの影響が大きい方から取り、意匠は発表前に出願の要否を決めてください。
参考資料
商標法2条・3条・4条・8条・19条・25条・37条、意匠法2条・3条・4条・21条・23条、特許庁「令和元年意匠法改正特設サイト」「産業財産権関係料金一覧」。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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