(1)「SUBARU」を社名に冠した新たなスタート
2017年4月1日、重工業メーカーの富士重工業株式会社は、株式会社SUBARUへと社名変更をしました。
「SUBARU」は、元々、富士重工業における自動車事業のブランド名です。
1958年には初めて「SUBARU」のエンブレムを付けた軽自動車を発売。この「スバル360」は、「てんとう虫」の愛称で呼ばれ、人々に親しまれました。
そしてその名前は広く世間に浸透していき、一般的な知名度が高いのは、社名よりも「SUBARU」となっていきます。
このような状況はほかの企業にもみられ、「松下電器産業株式会社」が「パナソニック株式会社」になり、「日本光学工業株式会社」が「ニコン」になったように、社名変更につながったケースもあります。
世間に浸透した名称を社名とすることは、その企業のブランド力を高めることになるのです。
そして富士重工業も、創業100周年を機に「SUBARU」を社名に冠し、新たなスタートを切りました。
(2)モチーフは、6つの星が輝くプレアデス星団
(2–1)「SUBARU」と「昴」の関係
「SUBARU」は、ローマ字で表記されていますが、日本語の「昴(すばる)」を表しています。
そのため「SUBARU」は、和名が付けられた初めての車としても知られています。
昴とは、牡牛座にあるプレアデス星団を指し、肉眼で6つの星がみえることから「六連星」という別名をもっています。
この「六連星」は、「むつらほし」と読みます。
清少納言の随筆「枕草子」には、「星はすばる」という一文が綴られており、古くから日本人に親しまれていたことがわかりますね。
(2–2)6つの星に込められた願い
では、なぜ「SUBARU」と名付けられ、6つの星が輝くプレアデス星団がモチーフとなったのでしょうか?
これには企業のたどってきた道のりが深くかかわっています。
元々、富士重工業は、系列の6つの会社が合併して設立されたものでした。
「昴」は、6つの星が集まっていることから、統(す)べるという意味をもち、「統(す)まる」から「すばる」に変化したといわれています。
そのため「6社を統べる(1つにまとめる)」という思いや、お互いに結束や融合をして大成する、という願いが込められているのです。
(2–3)六連星がつないだ国立天文台との縁
1958年の「スバル360」発売に先立ち、当時のデザイナーは国立天文台(旧・東京大学東京天文台)に足を運びました。
それは、エンブレムに描く星を、より本物の天体に近いデザインにできるよう相談するためです。
若い星の集まりであるプレアデス星団。そのなかで最も明るい星はアルキオネです。
そのアルキオネを、タイゲタ、マイア、エレクトラ、メローペ、アトラスという5つの星が囲んでいます。
そのため、6つの星のなかで一番明るい星を存続会社である富士重工業に見立て、ほかの系列会社を示す5つの星が囲むデザインが採用されました。
初期の「SUBARU」エンブレムをみると、天体と同じように配置されていることがわかります[下記(3−1)参照]。
単にイメージをかたちにするのではなく、天文学的な観点をふまえてデザインするのですから、当時のデザイナーの強いこだわりが感じられますね。
ちなみに、国立天文台ハワイ観測所にある大型望遠鏡は、「すばる望遠鏡」という愛称で呼ばれているんだよ。
「すばる」を通した不思議な縁があるんだね。
(3)「SUBARU」の商標について 〜初期から現在への移り変わり
(3–1)数多くの商標が登録
「SUBARU」は、文字としても、図形を含んだものとしても、多数の商標が登録されています。
また六連星のデザインは、過去に使用されなかった時期もあるなど、さまざまな変遷をたどり、初期のデザインからリニューアルされています。
以下では、そのなかの一例をご紹介します。
初期のデザインの一例(商標登録 第1449767号)
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
- 権利者:株式会社SUBARU
- 出願日:1976年5月7日
- 登録日:1980年12月25日
リニューアルしたデザインの一例(商標登録 第3053942号)
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
- 権利者:株式会社SUBARU
- 出願日:1992年9月22日
- 登録日:1995年6月30日
「SUBARU」とレースの切り離せない関係
「SUBARU」を昔から知る人にとって、世界ラリー選手権(WRC)での活躍は忘れられないものだといいます。WRCはラリー競技の最高峰といわれ、世界各国の自動車メーカーが年間王者を目指し、熾烈な闘いを繰り広げるレースです。
ここで「SUBARU」は、3度の年間王者を獲得し、世界の自動車ファンにその名を知らしめました。
けれど、残念ながら、2008年にこのレースから撤退しました。
それを惜しむファンも多いなか、「SUBARU」の子会社である「スバルテクニカインターナショナル(STI)」は、「世界最大の草レース」と呼ばれる「ニュルブルクリンク24時間レース」への参戦を始めます。
そして2011年には初優勝をおさめ、これまで4度の栄冠に輝いています。
また「SUBARU」と「STI」による2017年のモータースポーツ参戦計画では、上記のレースのほか、「SUPER GTシリーズ」や「グローバルラリークロス選手権」へのエントリーも発表されています。
いまも続くレースへの挑戦。今後、ますますの活躍を期待したいですね。
(4)まとめ
街を行き交うさまざまな車種やメーカーの車。
それらが製造され、ユーザーの元に届けられるまでには、関係者たちの膨大な労力が費やされています。
きっとその途上では、さまざまな葛藤や紆余曲折もあったのでしょう。
1つのブランドを成立させ、世間に浸透させるためには、多くの人の力が必要とされています。
そして、そのブランドを社名として掲げることは、企業の力をいっそう高めるきっかけにもなります。
商標は、ブランドの象徴となる大切なものです。
それを商標登録をすることは、正当な権利を保持することはもちろん、製作者やユーザーをはじめ、その車にかかわる多くの人の思いも守ることにつながるのです。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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