ありふれた一般名称は商標登録できるのか?

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ありふりた商標として登録できない一般的な名称は、商標法の第3条に規定があります。今回はこの規定にそって、どのような商標がありふれているか、解説します。

1.商標法第3条第1項第4号

ありふれた名前や言葉が商標として登録できるかどうかは、商標法でしっかりと定められています。具体的には、商標法第3条第1項第4号に関連した規定がポイントになります。詳しく見ていきましょう。

「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」

(商標法第3条第1項第4号)

この規定は、たとえば「山田」「タカハシ」「HIRANO」など、広く使われている名字や名前に関するものです。

「秋和」など、少し珍しい名前の場合は、適用されるかどうか微妙です。商標登録が可能かどうかは、特許庁の判断により異なります。昔、審査官は50音順の電話帳を参考にして、名前が「ありふれている」かどうかを判断していたそうです。

また、ありふれた名前に業種名や「株式会社」などの法人名が加わったものも、商標として登録が難しい場合があります。しかし、例外もあり、同じ名前の商標が他に登録されていない場合には、商標登録が認められることもあります。

ロゴやデザインが鍵となる場合

単なる名前でも、デザインやロゴと組み合わせた場合には話が変わります。見た目に特徴があれば、商標として認められることがあります。シンプルな文字だけでなく、視覚的にユニークな要素を加えることで、商標登録が可能になるケースもあるのです。

このように、ありふれた名称であっても、工夫次第で商標登録の可能性が広がることがあります。

2.商標法第3条第1項第5号

「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」

(3条第1項五号)

商標法第3条第1項第5号では、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」は登録できないとされています。この規定は、商標があまりにも単純で独自性に欠ける場合、商品やサービスの識別力を持たないと判断されるために設けられています。

1. 極めて簡単でありふれた標章の例

具体的な例として、「単なる円」や「直線」、立体的な形状であっても「ありふれた立方体」などが該当します。こうした単純な形状は、他の商品やサービスと区別するための「目印」としては不十分であり、商標登録の対象から外されるのです。

また、数字についても、桁数にかかわらず、単純でありふれたものとされ、原則として商標登録の対象とはなりません。

2. 商標審査基準の例

特許庁が公表している「商標審査基準」によると、具体的にどのような標章が「極めて簡単で、ありふれた標章」に該当するのかが明記されています。たとえば、以下のようなローマ字の構成が挙げられています。

  • 該当する例: 「ローマ字の2文字をハイフン(-)でつないだもの」(例:「A-B」)
  • 該当しない例: 「ローマ字の2文字をアンパサンド(&)でつないだもの」(例:「A&B」)

このように、シンプルな構成の商標であっても、細かい違いによって審査が通るかどうかが異なる点がポイントです。特に記号やローマ字の使い方が判断に影響を与えることがあります。

この規定は、識別力が乏しい商標を排除し、消費者にとって商品やサービスの「目印」として機能する商標だけを保護するために存在しています。

3.商標法第3条第1項第6号

「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」

(3条第1項六号)

商標法第3条第1項第6号は、「前各号に掲げるもののほか、消費者が特定の業務に係る商品やサービスと認識できない商標は登録できない」と規定しています。これは、識別力がない商標についての総括的な規定です。つまり、1号から5号に該当しなくても、識別力がないと判断されれば、この6号によって商標登録が拒絶されることになります。

1. キャッチフレーズや宣伝文句の取り扱い

この規定で特に注目されるのが、キャッチフレーズや広告の宣伝文句です。単なる宣伝文句は、商品やサービスの識別力を持たず、消費者が特定の企業や製品を認識できないため、商標として認められない場合があります。

商標審査基準によれば、「出願商標が、企業理念・経営方針等としてのみ認識されるか否かは、全体から生ずる観念、取引の実情、全体の構成及び態様等を総合的に勘案して判断する。」とされています。審査は個別の状況に基づいて行われるため、以前の審査基準のように、キャッチフレーズや広告の宣伝文句に該当する、というだけでは拒絶されないことを示しています。

2. 元号の取り扱い

現行の元号もこの規定に該当します。たとえば、「令和」という現在の元号は、商標登録が認められません。しかし、過去の元号である「平成」などは、現行の元号ではないため、第6号には該当せず、商標登録が可能となる場合があります。

さらに、天皇の退位に伴って新しい元号が定められると、現在の元号(令和)はもはや「現在の元号」ではなくなるため、第6号に該当しなくなる可能性があります。元号については単なる時期を示す表示かどうかを個別の事情を考慮して判断されます。

ここがポイント

商標法第3条第1項第6号は、消費者が商品やサービスを他と区別できない場合、商標登録を拒絶するための重要な規定です。特にキャッチフレーズや元号の取り扱いは、個別の事例によって判断されることが多く、画一的なルールが適用されないため、慎重な審査が必要です。

4.商標法第3条第2項

「前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」

(3条第2項)

商標法第3条第2項は、いわゆる「使用による識別力の発生」を規定しています。商標法第3条第1項の3号から5号に該当する商標であっても、長年にわたって特定の者が使用を続け、その結果、消費者がその商標を「目印」として認識するようになった場合、その商標も登録が可能になるという救済措置です。

1. 使用による識別力の発生とは?

一見すると一般的な名称や、よく見かける苗字、地名と商品やサービス名の組み合わせである商標でも、長期間にわたって使用されてきた結果、特定の商品やサービスの「出所表示」として認知されることがあります。このような場合、この規定に基づいて商標登録が認められる可能性があります。

2. 周知性の立証が必要

この規定が適用されるためには、その商標が全国的に「周知」されていることを立証する必要があります。つまり、消費者の多くがその商標を特定の商品やサービスに関連付けて認識しているということを証明しなければなりません。

通常、この規定が適用されるのは、商標法第3条第1項の3号から5号に該当するという拒絶理由が通知された場合です。この場合、意見書や証拠を提出し、全国的な周知性を得た商標であることを主張します。

3. 商標の一致と使用者の一致

周知性を獲得した商標と出願している商標が完全に一致している必要があります。この一致は非常に厳格に判断されます。しかし、商標の使用者と周知性を獲得した者が完全に一致している必要はありません。たとえば、商標の使用権者がその商標を使用して周知性を得た場合でも、この規定の適用が認められます。

4. 一号、二号、六号への適用除外

商標法第1条第1項の1号、2号、6号に該当する商標には、この規定は適用されません。これは、これらの商標が識別力を持つようになると、もはや「普通名称」や「慣用商標」には該当せず、6号の「消費者が認識できない商標」にも該当しなくなるため、特に救済の必要がないからです。

ここがポイント

商標法第3条第2項は、通常は商標登録が難しい一般的な名称や地名などであっても、長年の使用によって識別力を獲得した場合に登録を認めるための規定です。全国的な周知性を証明することが必要ですが、この規定によって多くの商標が救済される可能性があります。

ファーイースト国際特許事務所
弁理士 秋和 勝志
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