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商標の無効審判とは?登録が無効になる理由・5年の除斥期間・請求されたときの対応

商標登録が済んで登録証も届いた。これで自社のブランドは守られた、と考えるのが普通です。ところが、登録から何年もたった後に、第三者から「その登録は無効だ」と特許庁に審判を請求され、登録が初めからなかったことにされる場合があります。これが無効審判です。

この記事では、商標登録の無効審判について、どのような理由で登録が無効になるのか、誰がいつまで請求できるのか、手続きの流れと審決の効果、そして自社の商標が無効審判を請求されたときに何をするのかを、弁護士・弁理士の立場からご紹介します。

1. 登録した商標が無効審判で消えることがある

審査を通った登録にも誤りは残る

登録された商標は、特許庁の審査官が「拒絶理由はない」と判断したものです。ただ、審査官は膨大な出願を限られた時間で処理しており、先に出願されていた似た商標を見落とす、識別力の判断を誤る、といった過誤登録をゼロにはできません。商標が似ているかどうかの判断は、専門家の間でも見解が割れるのが普通で、審査官の判断が唯一の正解とは限りません。

そこで商標法は、登録後に誤りを正す手続きを二つ用意しています。一つは登録異議の申立て、もう一つが無効審判です。登録異議の申立ては、商標公報の発行日から2か月以内に限り、誰でも申し立てられます(商標法43条の2)。これに対して無効審判は、期間の制限が緩やかな代わりに、請求できる人が利害関係人に限られます。

件数から見た実態

特許庁の『特許行政年次報告書2025年版』によると、2024年の商標登録は132,011件で、同じ年の登録異議申立ては291件、無効審判の請求は86件でした。登録の件数と比べると、無効審判は多くありません。ただし、無効審判は登録から何年もたってから請求される例が珍しくなく、件数の少なさは「自社には関係がない」という意味ではありません。

ブランドを重視する事業者は、他社の出願状況を継続的に監視し、似た商標が登録されそうになれば異議申立てで登録を止めようとします。その網をくぐって登録された商標や、監視を始める前に登録されていた商標に対しては、無効審判が残された手段になります。

異議申立てで負けた側の次の一手

登録異議の申立てをしたものの、特許庁が登録を維持する決定をした場合、申立人はその決定に不服を申し立てることができません(商標法43条の3第5項)。そのため、異議で登録を止められなかった側が、改めて無効審判を請求する例があります。異議申立てで一度守り切った登録であっても、無効審判で再び争われる余地は残っています。

侵害を警告した相手からの反撃

無効審判が請求される典型的な場面は、商標権者が第三者に対して権利侵害を警告したときです。警告を受けた側は、警告の根拠になっている登録そのものを崩そうとして、無効審判を請求します。無効審決が確定すれば商標権は初めからなかったことになり、侵害を主張する根拠も消えます。

商標権者が裁判所に侵害訴訟を起こしている間に、相手が特許庁に無効審判を請求すると、二つの手続きが並行して進みます。侵害訴訟の中でも、被告は「この登録には無効理由があるから権利行使は認められない」という主張ができます(商標法39条で準用する特許法104条の3)。裁判所と特許庁の判断が食い違う可能性もあり、商標権者にとっては大きな負担です。無効審判は過誤登録を正すために欠かせない制度ですが、商標権者から見れば、権利を行使した途端に自分の登録が標的になる制度でもあります。

2. 無効審判を請求できる人と無効理由

請求できるのは利害関係人だけ

無効審判を請求できるのは利害関係人に限られます(商標法46条2項)。登録商標と同じか似た商標を使っている事業者、使おうとして拒絶された出願人、侵害の警告を受けた者などが典型です。誰でも申し立てられる登録異議とは、この点で異なります。利害関係の有無は、審判の入口で審理の対象になります。

登録が無効になる理由

無効理由は商標法46条1項に列挙されています。主なものは次のとおりです。

  • 商品やサービスの普通名称、品質の表示など、識別力のない商標が登録された場合(商標法3条)
  • 他人の先に登録された商標や周知の商標と同一または類似する商標、公の秩序を害するおそれのある商標など、登録できない商標が登録された場合(同4条1項)
  • 先に出願された他人の商標があるのに、後の出願が登録された場合(同8条)
  • 地域団体商標の要件を満たしていないのに登録された場合(同7条の2)
  • 商標登録を受ける権利を持たない者の出願が登録された場合
  • 登録後に、権利者が商標権を持てない者になった場合や、商標が識別力を失うなどして登録できない商標に該当するようになった場合

実務で多いのは、先に登録されていた他人の商標と類似する(4条1項11号)、他人の周知商標と紛らわしい(同10号・15号)、識別力がない(3条)といった理由です。審査で見落とされた先行商標が、無効審判で改めて突きつけられる形になります。

同じ理由で二度は争えない

無効審判の審決が確定すると、誰であっても、同一の事実と同一の証拠に基づいて再び無効審判を請求することはできません(商標法56条1項で準用する特許法167条)。一度守り切った登録が、まったく同じ主張で蒸し返されることはありません。逆に言えば、別の事実や証拠を持ち出されれば、再度の請求はあり得ます。

3. 登録から5年で請求できなくなる理由と、期限のない理由

除斥期間は5年

登録から時間がたつほど、その登録を前提にした取引が積み重なります。そこで商標法は、一定の無効理由については、商標権の設定登録の日から5年を経過した後は無効審判を請求できないと定めています(商標法47条1項)。これを除斥期間と呼びます。

5年で請求できなくなる主な理由は、識別力がない(3条)、他人の先登録商標と類似する(4条1項11号)、先願に反する(8条)といった、私人間の利害調整に関わるものです。他人の周知商標と紛らわしい(4条1項10号・15号)という理由も、不正競争や不正の目的で登録を受けた場合を除いて、5年で請求できなくなります。

5年を過ぎても争われる理由

一方で、公の秩序や善良の風俗を害するおそれのある商標(4条1項7号)、他人の周知商標を不正の目的で使用する商標(同19号)、商標登録を受ける権利のない者による出願など、公益に関わる理由や登録を受けた側の悪質さが問題になる理由には、除斥期間がありません。登録から10年たっていても、これらの理由での無効審判はあり得ます。

「登録から5年たてば安心」という言い方は、除斥期間のある理由に限れば正しく、すべての無効理由に当てはまるわけではありません。自社の登録がどの理由で攻撃される可能性があるのかを把握しておくと、5年という節目の意味が具体的になります。

不使用取消審判は別の制度

登録商標を3年以上使っていない場合に取消しを請求される不使用取消審判(商標法50条)は、無効審判とは別の制度です。登録時の誤りを問うのではなく、登録後の使用の実態を問うもので、除斥期間の考え方も当てはまりません。無効審判を乗り切っても、使っていない商品やサービスの登録は不使用取消審判で消える可能性があります。不使用取消審判については商標の不使用取消審判とは?をご覧ください。

4. 無効審判の手続きの流れと審決の効果

請求書の副本が届き、答弁書を出す

無効審判が請求されると、特許庁の審判長は審判請求書の副本を商標権者に送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えます(商標法56条1項で準用する特許法134条1項)。指定される期間は、国内の商標権者の場合、通常40日です。副本が届いた日を記録し、その日から逆算して対応の予定を立てます。

答弁書では、請求人が挙げた無効理由に対して、登録が有効である根拠を主張し、証拠を提出します。先行商標との類否が争点なら、商標の外観、称呼、観念の違いや取引の実情を示す資料、周知性が争点なら、使用の期間、地域、売上、広告の実績を示す資料が中心になります。

審理は書面が中心

無効審判の審理は口頭審理が原則ですが、審判長は書面審理にすることができ(同法56条1項で準用する特許法145条1項)、実務では書面審理で進む事件が大半です。答弁書の後、請求人の弁駁書、商標権者の再答弁といった書面のやり取りを経て、審判長が審理の終結を通知し、審決が出されます。請求から審決までは、1年前後かかるのが通常です。

審決の効果は登録時にさかのぼる

審決の結果は二つに分かれます。

  • 請求不成立の審決:商標登録はそのまま維持されます
  • 無効の審決:審決が確定すると、商標権は初めから存在しなかったものとみなされます(商標法46条の2第1項)

登録後に無効理由が生じた場合は、その理由に該当するようになった時から存在しなかったものとみなされます。無効になった登録に基づいて過去に行った警告や差止めの請求は、根拠を失います。ライセンス料を受け取っていた場合の扱いなど、後始末が必要になる場面もあります。

審決に不服があれば30日以内に出訴

審決に不服がある当事者は、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起できます(商標法63条1項)。出訴期間は審決の謄本の送達から30日で、延長はできません。訴訟の被告は特許庁長官ではなく、審判の相手方です。審決取消訴訟の手続きは審決取消訴訟とは?特許庁の審決に不服があるときの出訴期間・手続きの流れ・費用で取り上げています。

5. 無効審判を請求されたときの対応と費用

最初の40日で決まること

無効審判で守る側の勝敗は、答弁書とそれに添える証拠でほぼ決まります。副本が届いてから答弁書の期限までは40日程度しかなく、その間に無効理由の分析、証拠の収集、答弁書の作成を終えなければなりません。事前に相手方から警告や交渉があり、無効理由が予想できる場合は、請求される前から証拠を集めておくと有利です。

争点によっては、答弁と並行して相手方と交渉する選択肢もあります。互いの商品が競合しないのであれば、使用範囲を分ける合意や、請求の取下げを条件にした話し合いで決着する例もあります。無効審判を最後まで争うのか、交渉で終わらせるのかは、登録を失ったときの事業への影響と、審判で勝てる見込みを並べて判断します。

当事務所の費用

無効審判を請求された場合は、早い段階で弁理士・弁護士へご相談ください。当事務所で商標権者側の代理をお引き受けする場合の費用は、主に次の項目で構成されます。コピー代や郵送費などの実費は別途発生します。

  • 審判代理人受任手数料: 約200,000円~
  • 答弁書作成手数料: 約150,000円~
  • 成功報酬: 約100,000円~

口頭審理が開かれる場合や、弁駁書に対する再答弁など書面のやり取りが重なる場合は、作業量に応じて費用が変わります。無効理由の内容と証拠の状況を確認したうえで、個別にお見積りをご提示しています。審決取消訴訟まで進む場合の費用は、審判の費用とは別になります。

登録異議の申立てについては商標登録の異議申立とは?成功するための重要なポイントを、無効審判の実例については「阪神優勝」が使えないは勘違い!商標無効審判とは?をご覧ください。

6. よくある質問

Q1. 登録から5年たてば、もう無効審判は請求されませんか?

先登録商標との類似や識別力の欠如など、除斥期間の定めがある理由については、設定登録の日から5年を過ぎると請求できなくなります。公序良俗違反や不正の目的による登録など、除斥期間のない理由は5年を過ぎても請求できます。3年以上の不使用を理由とする不使用取消審判は別の制度で、5年の制限とは関係がありません。

Q2. 登録異議の申立てと無効審判はどう違いますか?

登録異議の申立ては、商標公報の発行日から2か月以内に誰でも申し立てられる手続きで、特許庁が職権で登録を見直します。無効審判は、利害関係人だけが請求でき、請求人と商標権者が当事者として争う手続きです。異議で登録が維持された場合、申立人は不服を申し立てられませんが、無効審判を請求する道は残ります。

Q3. 答弁書を出さなかった場合はどうなりますか?

答弁書を提出しなくても審理は進み、請求人の主張と証拠だけを材料に審決が出されます。反論の機会を放棄する形になるため、登録を守りたいのであれば期限内の提出が前提です。期限に間に合いそうにない場合は、早めに代理人へ相談し、対応方針を決めてください。

Q4. 無効審決が確定した後も、その商標を使い続けられますか?

登録が無効になっても、商標を使うこと自体が直ちに禁止されるわけではありません。ただし、独占的に使う権利はなくなり、他人の使用を止めることもできません。無効理由が他人の先登録商標との類似であった場合は、使用を続けると、その他人の商標権を侵害するおそれがあります。

Q5. 侵害の警告を受けました。こちらから無効審判を請求できますか?

警告を受けた者は利害関係人に当たるため、無効審判を請求できます。侵害訴訟を起こされた場合は、訴訟の中で登録に無効理由があることを主張して権利行使を退ける方法もあります。どちらの手段を使うか、両方を使うかは、無効理由の強さと訴訟の進行状況を見て判断します。

ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247

参考資料

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ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘

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