1.標準文字とロゴタイプ
商標登録を受ける場合、特許庁長官に願書を提出します。
願書には商標を記載する欄が有り、商標登録を受けた場合、願書に記載した商標が登録商標となります。
文字の商標の登録を受けるならば、商標法の定めに抵触しない限り、標準文字とロゴタイプのいずれでも登録を受けることが可能です。
標準文字とは、特許庁長官により指定された文字であり、特徴のない普通の文字です。他方、ロゴタイプは出願人がブランドのコンセプトなどを考慮した上で自由に作成するものであり、様々な態様のものがあります。標準文字とロゴタイプのうち、いずれか一方のみの登録で足りるとするか、双方とも登録を受けるとするかは出願人の方針次第となります。
例えば、以下は、標準文字とロゴタイプの双方につき、商標登録を受けている例です。
(商標登録第4478963号の商標公報より引用)
(商標登録第5893980号の商標公報より引用)
2.ロゴタイプの著作権
(1)著作物
出願商標が著作物であれば、著作権法でも保護されます。
著作権法によれば、著作物とは、以下のように定義されています。
(1) 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(著作権法2条1項1号)
以下は、著名な企業のシンボルマークであるところ、企業のイメージが表現されたものであり、著作権による保護を与えるべき創作性も認められるため、著作物といえます。
(商標登録第4939119号の商標公報より引用)
(2)ロゴタイプの著作物性
シンボルマークは内容によるものの、著作物であると比較的認められやすいといえますが、ロゴタイプが著作物と認められ、著作権により守られるかは、検討が必要です。
ロゴタイプは装飾が施された文字であり、一見、創作性が認められるようにも思えます。
ただ、装飾が施されているとしても、ロゴタイプは文字であることには変わりありません。
文字は情報を伝える機能を有するものであり、実用性を有するものです。
文字に著作権による保護を与えると、文字を自由に使用することができなくなり、情報を伝えるのに支障が生じる危険があります。
情報を伝えるのに使用される文字のうち、印刷用書体であるタイプフェイスにつき、以下のように最高裁は判示し、タイプフェイスに著作物性が認められるケースは例外的なものであると述べた上、ゴナ書体と呼ばれるタイプフェイスの著作物性を否定しました。
日本語のタイプフェイスであれば、何千字もの文字を統一的なデザインに基づき作成する必要があり、多大な労力を要します。
ただ、タイプフェイスに著作物性を認めたときの弊害を考慮すると、著作権による保護を認めるのは消極的にならざるを得ないと考えられます。
印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。
(ゴナ書体事件:最判平成12年9月7日民集54巻7号2481頁)
上記最高裁判例以前において、文字に美的創作性が存在し、著作権による保護を与えても情報伝達手段を害さないとしてデザイン書体に著作物性を認めた裁判例もあります(装飾文字「趣」事件:大阪地判平成11年9月21日判時1732号137頁)。
他方、著名な「Asahi」のロゴタイプにつき、裁判所が以下のように判示し、著作物性を否定した例もあります。
【商標】
(商標登録第2055143号の商標公報より引用)
【判旨】
ところで、右ロゴマークは欧文字「Asahi」について、「A」、「a」、「h」、「i」の各文字における垂直の縦線を太い線で表し、その上下の辺を右上がり四四度の傾斜とし、「A」、「s」、「a」、「h」の各文字における傾斜線を細い線で表し、その傾斜を右上がり四四度とし、「A」、「s」の各文字の細い傾斜の先端にあるはねを三角形状となし、その右上がり傾斜辺を四四度とするといったデザインを施した点に特徴があり(中略)、また、「A」の書体は他の文字に比べてデザイン的な工夫が凝らされたものとは認められるが、右程度のデザイン的要素の付加によって美的創作性を感得することはできず、右ロゴマークを著作物と認めることはできない。
(「Asahi」ロゴマーク事件:東京高判平成8年1月25日判時1568号119頁)
確かに、ロゴタイプは、タイプフェイスと異なり、印刷用書体として使用されるものではなく、文書の作成と関連性が低いものです。
タイプフェイスに著作物性を認めると、文書を複製する際、文書の著作権者に加え、タイプフェイスの著作権者の許諾が必要となり、権利処理が煩雑となる弊害が生じます。他方、ロゴタイプは、文書の作成に使用されるものではなく、このような弊害が生じるおそれは低いといえます。
ただ、ロゴタイプは、装飾を施しているとしても、文字の字体を基礎とするものであるため、ロゴタイプの著作物性を認めると、文字の字体に著作権が及ぶと受け取られかねず、文字の有する情報伝達の機能を阻害するおそれは否定できないと考えられます。
そのため、ロゴタイプに著作物性が認められるとしても、ロゴタイプが美的特性と独創性とを有し、情報伝達に使用されないものでなければならないと考えられます。
3.おわりに
ロゴタイプに著作権の保護が与えられるのは例外的なケースに限られます。
そのため、出願商標としてロゴタイプを選ぶとしても、著作権に留意する必要性は比較的低いといえます。
ただ、ロゴタイプが第三者の作成に係るものであれば、念のため、出願人は第三者との間で著作物に関する権利につき合意しておくことが望ましいといえます。
ロゴタイプの製作者が注文者に対し、著作権に基づき使用料を請求した裁判例もあり、事前の合意があれば、こうした紛争の発生を回避することができます。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247