裁判所判断による「商標権使用ライセンス料率」のリアル

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1. 知らないと損する!裁判所認定の衝撃データ

商標権の侵害訴訟で、あなたは何%のライセンス料を請求しますか?多くの企業が「市場相場の売上の3%程度かな」と考えているかもしれませんが、実は少し違います。

2025年3月に経済産業省が公表した最新調査で明らかになった事実は、多くの知財担当者を驚かせました。

[参考資料]経済産業省発表:実施料率が関連する裁判例調査
(2025年3月 株式会社野村総合研究所)
https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/royalty_judical.pdf

裁判所が認定する商標権ライセンス料率の平均は4.8%

産業分野 件数 平均料率 最小値 最大値
医療・福祉 1件 4% 4% 4%
宿泊業、飲食サービス業 2件 5.9% 3.8% 8%
卸売業、小売業 8件 2.5% 0.2% 5%
情報通信業 3件 3% 3% 3%
製造業 3件 8% 1% 20%
生活関連サービス業、娯楽業 4件 7.3% 0.15% 15%

実際の商標権のライセンス料は、市場相場より約1.8ポイントも高い水準だったのです。この数字の背景には、裁判所特有の判断基準と、見落とされやすい重要なポイントが隠されています。

料率 事件・裁判所 主な着眼点 ファクト抜粋
0.15 % ベガスベガス事件(東京地裁, 2021) 限定的な店舗名効果/非競業 「名称が売上げに貢献する程度は限定的」
0.5 % 東京フード/BOTEJYU事件(東京地裁, 2022) 相場2.6 %より低い顧客吸引力 「平均1.5〜3.8 %だが本件は0.5 %が相当」
1 % 湯山製作所事件(大阪地裁, 2019) 刻印の視認性低/利益率考慮 売上高の1 %(0.5+0.5)と認定
3 % 東京フード事件(東京地裁, 2024) 過去ライセンス+相場 「原則売上×料率で3 %」
4 % ヴェンガー事件(東京地裁, 2023) 世界的ブランド力/競合 「4 %より高くすべきでない」
5 % モトデザイン事件(東京地裁, 2019) 高い意匠性・少数サンプル 第14類平均7 %を下回る5 %採用

2. 数字で見る裁判所の現実

経済産業省の実施料率調査によると、2018年以降の商標権関連判決23件を分析した結果、驚くべき実態が浮き彫りになりました。平均料率4.8%という数字だけでも驚きますが、さらに注目すべきはその幅の広さです。

最小値はわずか0.15%でしたが、最大値はなんと20%。つまり、同じ商標権侵害でも、事案によって133倍もの差が生まれているのです。

一方で、この巨大な格差の背景には重要な統計的な罠が隠されています。

実は、平均4.8%という数字の正体は「外れ値」の影響も受けています。

裁判例23件中2件が10%超(うち1件は20%)という突出した高い料率を示しており、これらが全体平均を大きく押し上げています。

仮にこの2件の異常値を除いて21件で再計算すると、平均は約3.2%となり、市場相場の3.0%に極めて近い水準に収束します。

つまり、「裁判所は市場相場より高く判断する」という一般論は、実は少数の特殊な事案により統計の値が上振れしている可能性があります。

商標権侵害問題に遭遇したとしてもライセンス料は3%を払えば済む、と考えていると20%の攻撃がくることもある。ここを理解している企業とそうでない企業との間に、明確な差が現れているのです。

業種別で最も多かったのは卸売・小売業の8件。これは、商標権が消費者に直接アピールする業界ほど争いが多く、同時に高い料率が認定されやすいことを示唆しています。

一方、民間企業間の通常のライセンス取引では平均3.0%に留まっており、裁判所がいかに厳格な基準で判断しているかが分かります。

3. 裁判所が最も重視する「二大要素」

23件の判決を詳細分析すると、裁判所が料率算定で重視する要素が明確に見えてきます。特に注目すべきは、67%という高い採用率を誇る二つの要素です。

第一の要素:商標表示の優位性

ブランドの知名度や顧客吸引力を客観的に証明できるかどうかが、料率を大きく左右します。単に「有名ブランドだから」という主観的な主張では通用しません。裁判所は売上寄与率調査、メディア露出データ、SNS指標、顧客アンケート結果など、具体的な数値による裏付けを求めています。

第二の要素:一般的な相場

業界平均やライセンスハンドブックの数値など、客観的な相場データも同じく67%の高い採用率を示しています。ただし、裁判所は相場をそのまま適用するのではなく、あくまで「出発点」として捉え、個別事案の特殊事情を加味して最終的な料率を決定しています。

興味深いのは、33%の採用率だった「競業関係」と「既存ライセンス・過去の実施許諾例」です。これらの要素は決して軽視されているわけではなく、むしろ適切に立証できれば強力な武器になることを示しています。

4. 料率分布が物語る「真実」と「統計の錯覚」

23件の料率分布を詳しく見ると、平均4.8%という数字の真実が明らかになります。約7割にあたる16件が5%未満という事実は、大多数の事案で裁判所が市場相場に近い判断をしていることを示しています。

0~2%の範囲に9件、2~5%の範囲に7件が集中している一方で、5~10%の範囲には5件、10%超の高料率ケースは2件のみ。この分布こそが統計の本質を物語っています。

21件の「通常事案」は平均約3.2%で市場相場とほぼ一致している一方で、2件の「特殊事案」(10%と20%)が全体平均を大きく押し上げているのです。

つまり、「裁判所は相場より高めに見る」という印象は、実は統計上のマジックであり、現実的には裁判所も市場メカニズムを十分に理解した合理的な判断をしていることが分かります。

むしろ重要なのは、どのような要因が料率を極端に高くする「特殊事案」を生み出すのか、その境界線を理解することです。

特に注目すべきは、20%という最高料率を認定した1件です。

この事案では、極めて悪質な侵害態様と、被告の高い利益率が認定されました。逆に、0.15%という最低料率のケースでは、商標の顧客吸引力が限定的で、競業関係も薄いという判断がなされています。

5. 実務に活かせる重要判例の教訓

具体的な判例を見ると、料率算定のポイントがより明確になります。

東京地裁の「ベガスベガス」事件(2021年)では、店舗名としての限定的な効果と非競業関係を理由に、わずか0.15%の料率が認定されました。裁判所は「名称が売上げに貢献する程度は限定的」と明確に判断理由を示しており、商標の実際の経済的価値を厳格に評価していることが分かります。

一方、東京地裁の「ヴェンガー」事件(2023年)では、世界的ブランドとしての地位と直接的な競合関係を根拠に4%の料率が認定されました。しかし、同時に「4%より高くすべきでない」という上限も示されており、有名ブランドでも無制限に高い料率が認められるわけではないことを教えています。

特に実務上参考になるのは、東京地裁の「東京フード」事件(2024年)です。この事案では、過去のライセンス契約実績と業界相場の両方を考慮して3%の料率が認定されました。「原則売上×料率」という計算式を明示した点も、今後の交渉や訴訟対応の指針となる重要な判断です。

6. 成功する交渉戦略の5つの鉄則

これらの分析から導き出される実務上のポイントは明確です。まず理解すべきは、裁判所は基本的に市場相場を尊重するが、特殊な事情がある場合には大幅な調整を行うということです。平均2.6%という民間相場と、外れ値を除いた裁判所認定平均3.2%の近似性は、この傾向を裏付けています。

重要なのは、自分の事案が「通常事案」なのか「特殊事案」なのかを正確に見極めることです。ブランド力の客観的証明が料率を左右する最重要ファクターですが、それが極端な高料率につながるかどうかは、侵害の悪質性や競業関係の程度によって大きく変わります。

既存ライセンス契約の威力も見逃せません。自社や業界で締結したライセンス契約の実例があれば、それは「市場が認めた適正価格」として強力な説得力を持ちます。特に、通常の3%前後の相場感を逸脱しない範囲での交渉では、過去の契約実績は極めて有効な根拠となります。

競争関係と侵害態様の整理は、事案が「特殊事案」に該当するかどうかを判断する重要な要素です。直接競合の度合い、侵害者の悪質性、フリーライドの程度など、客観的な事実関係を整理し、それぞれが料率にどう影響するかを論理的に組み立てる必要があります。

最後に、現実的な期待値の設定も重要な戦略要素です。統計的には大多数の事案が3%前後に収束することを理解し、極端に高い料率を狙うのではなく、適正な相場範囲での最大化を目指すことが現実的なアプローチといえます。

7. 今すぐ始めるべき準備とアクション

統計の真実を理解した今、実務戦略も見直す必要があります。平均4.8%という数字に惑わされることなく、大多数の事案が市場相場(3%前後)に収束するという現実を踏まえた準備が重要です。

0.15%から20%という巨大な振れ幅は、適切な準備と立証戦略によって、相場範囲内での最適化や、例外的な高料率の獲得が可能であることも意味しています。

重要なのは、争いが起きてから慌てて資料を集めるのではなく、平時からブランド価値を数値化し、客観的なデータを蓄積し続けることです。

ただし、その目標は必ずしも突出した高料率の獲得ではなく、適正な相場範囲での最大化に置くべきでしょう。

また、ライセンス交渉においても、現実的な相場感を基軸とした戦略が重要です。統計上の外れ値に基づく過大な要求ではなく、市場メカニズムを理解した裁判所が納得できる合理的な根拠に基づく提案を行うことで、より建設的な交渉が可能になります。

商標権の真の価値を最大限に引き出すためには、統計の錯覚に惑わされることなく、冷静なデータ分析に基づく戦略立案が不可欠です。

平均3.2%(外れ値除く)という現実的な水準を理解した上で、自社ブランドの独自性を適切に評価してもらうことこそが、持続可能な知財戦略の基盤となるのです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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