アパレル分野で権利漏れ商標登録案件が急増か

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初めに

2021年1月時点で、最近成立した商標権の権利範囲が異様に狭くなっている点がファーイースト国際特許事務所内で問題になっています。商標公報で調べてみると、急速に権利範囲の狭い商標権が全体的に増えている、というのです。所内弁理士・弁護士が集まって、もし、商標権に詳しくない素人さんが商標登録出願をした場合に、一番影響が出やすいのはどこか、それはアパレルの分野ではないか、と話がまとまりました。実際にアパレルの分野で商標権の取得権利範囲に影響がでているのか2010年までさかのぼって国内商標登録案件を精査してみました。

(1)商標登録の際にミスが出やすい分野はどこか

(A)予想はアパレルの分野

最近取得された商標権の権利範囲が狭い傾向があるのは私も感じています。最近、取得される商標権の取得範囲が異様に狭くないか、と所内の現役弁理士・弁護士に聞いてみたところ、今日もちょうどその話を職員間でしていた、との返事が返ってきました。

最近、取得される一つひとつの商標権の権利範囲が狭くなる現象が急速に進んでいる、というのです。

仮に商標登録に疎い素人さんが商標出願の実務をいきなり手がけたとしたら、どの分野に一番影響がでるか商標専門弁理士に聴いてみたところ、そればアパレルではないか、というのが答えでした。

理由は、アパレル分野の場合は知らなければ同一料金で取得できる権利範囲の中に思いつかないものが隠れているからです。

我々知的財産権の専門家にとっては当たり前でも、普段から商標登録出願を扱っていないアマチュアの場合は、アパレルの分野の場合にどの範囲で商標登録するのが普通なのか研究していないので分かりません。

これに対してプロなら日常業務でアパレルについての商標登録出願も扱うので、通常のアパレル業務を手がける人たちがどの範囲で権利申請するか知っています。このためもし同じ料金で商標登録する場合、アパレルの業務分野を攻めるなら、この権利範囲は落としてはいけないだろうとの基準を持っています。

(B)衣服の商標権は取得してもうっかり靴の権利を落とすのではないか、との予測

商標登録に疎い人が特許庁にもし商標登録出願の権利申請をした場合に、うっかり権利申請漏れのミスをしてしまう分野の一つとしては、アパレルの分野が挙げられる。具体的にはアパレル関連出願の際に服の権利は指定しても、うっかり靴の権利を申請するのを忘れるのではないか、というのが、うちの商標専門弁理士の事前予測です。

それが本当かどうか、2010年から2020年までに特許庁の審査に合格し、商標権が発生して現在でも権利が残っているものを基準に実際に調べてみました。

調査する基準としては、商標権の中に服の権利は含むが、靴の権利を含まないものです。その結果が次のグラフです。

Fig.1 商標権のうち、服の権利は含むが靴の権利の取得漏れが疑われる登録件数

服の商標権は含むが靴の商標権の取得漏れが疑われる登録件

上記のグラフは横軸が2010年から2020年の各年度を示し、縦軸は商標権の権利範囲の中に服を含むが靴は含まないものを基準にカウントしています。

ファーイースト国際特許事務所の商標弁理士の予想通り、商標法のことがよく分かっていないアマチュアが申請手続きをしたとすれば増えると予測できる範囲で、有意に、権利申請漏れが疑われる登録例が2020年に急増しています。

(C)プロなら落とさないはずの権利範囲が抜けている

プロなら落とさないし、アマチュアなら落とすだろうと予測できる範囲の商標権があって、実測するとその通りになっています。

これでアマチュアが大量の商標登録業務を行っている、と断定はできません。しかしこの一方で統計上は嘘を付くことができません。

例えば、相撲でも勝ち負けの分布をグラフにすると勝負が自然に行われたならグラフはなだらかな曲線形状になります。

ところが勝ち星を調整するために人為的に八百長が行われると、相撲の勝ち負けのグラフに不自然な折れ曲がりがでてくると予測できます。

グラフを見ても誰が八百長をしているかまでは分かりません。しかし自然分布ではありえない、不自然な形状が降格回避ラインに表れます。

商標登録の場合も同じで、上記の図1をみても、誰が商標権の権利範囲を狭くしぼりこんでいるのか分かりません。しかし商標法のことをよく分かっていない人が手続きをしたなら権利の申請漏れが生じるであろうと予測できる範囲で、その通り、権利の申請漏れが生じています。

同一料金で権利化できるのに見送っている

商標権を取得する側からすれば、服の商標権を取得して、さらに靴の商標権を取得する際に追加の料金が発生するなら、今回は予算の関係で靴の商標権の取得を見送る、というはあると思います。

しかし商標法の場合、服の商標権も靴の商標権も基準となる指定商品は同じ商標区分の第25類の一つの区分に入りますので、追加料金を払わずに商標登録できます。

逆に最初に服だけを登録しておき、後から靴について登録するなら2倍の料金を支払う必要があります。

本来一回の手続だけで取得した場合、一回分の支払いで商標権を取得できるのに、なぜ、あえて複数回に分けて商標登録をする必要があるのでしょうか。

スーツ購入に例えると、ジャケットとスラックスを購入するのに追加料金なしで同一料金で両者を取得できるのに、それをしないで、ジャケットとスラックスの料金を払って、ジャケットだけ受け取っているのと同じ、ということです。

(2)専門家のチェックが行き届いていない懸念があります

(A)仮説1:下請け任せの大量出願処理業務が急増した

プロなら落とすはずのない権利範囲の指定が抜けている商標権が2020年度に急増している理由は何でしょうか。

自然増なら2020年も含めてグラフ全体の頂点は自然になだらかなグラフになりますが、図1ではそうはなっていません。2020年だけ、服について権利申請はしているが、同一料金で取得できる靴の権利が抜けている商標権の数が急増しています。

しかもこれは、プロからみて、アマチュアが手続きを請け負ったならおそらくこうなるであろうとの予測に合致しています。

例えば、以前、弁護士業界でテレビで大々的に宣伝してお客さまを集めて、バイト部隊にひな型あてはめ大量処理を行う業者が現れました。業務停止命令を受けたり、資金管理がずさんで破産して営業実態がなくなってしまったりした業者もいます。

これらの業者の特徴は大々的に宣伝を行い顧客を大量に集めた上で、ひな型マニュアルに従った定型処理で時間当たりの処理件数を増やす、ということです。業者の売上は処理件数に比例しますので、手を抜けば抜くほど、売上が上がるという悪魔のささやきがあります。

私は信じたくありませんが、商標登録の業界でもこのささやきに心を奪われる業者も現れるのではないか、と危惧しています。

商標登録業務の場合もひな型マニュアルにより定型業務化して、下請けに大量処理させれば売上を稼ぐことが可能になります。

(B)仮説2:専門家のチェックなしに特許庁に提出される

権利指定漏れが疑われる商標権が増加している背景には、特許庁に提出する願書内容が専門家によるチェックを受けていないことが示唆されます。
プロがチェックしたなら、落とすはずのない範囲が欠落している登録事例が有意に増加しているからです。

例えるなら、今晩カレーを作るのに、なぜタマネギとジャガイモを買い忘れるのかな、とか、今晩麻婆豆腐を作るのに、なぜ豆腐を買い忘れるのかな、とのレベルの登録事例が増えているように感じるのです。

もし自分でカレーとか麻婆豆腐とかを作ったことのある経験のある人ならこの様な初歩的なミスはしません。

もしかしたら商標権がどのようなものか知らない人が願書を作成して特許庁に提出しているのではないか、との懸念が生じます。

(B)仮説3:権利範囲を狭く絞り込むと大量処理できる

お客さまから「服について商標権を取得したいのですが」との相談を受けた場合、「分かりました。服ですね。では服の範囲で実際に商標権が取得できるか調べてみましょう」、というのは素人対応です。

もしかするとお客さまは「服の販売」ではなくて「服のデザイン」の商標権を取りたい、と考えているかも知れません。また「服の販売」以外にも、例えば服のクリーニングとか仕立て直しなどの業務も考えているかも知れません。

この場合、お客さまが全く商標登録のことを知らない場合には「服の販売」についての商標権を取得すれば、服のデザイン等の権利とか靴の権利も自動で付いてくる、と誤解されているかも知れません。

プロならお客さまがどの範囲で権利漏れを起こすのか長年の経験で分かります。

このためお客さまが服について権利を取りたい、費用が余計にかかるのはいやなので他のアイテムは権利化しなくてもよい、と相談した、とします。

私なら、服についての商標権を取得する場合、服に加えて靴の権利範囲を追加しても追加費用は掛かりません。服だけで商標権を取得する場合と費用は同じです、と説明します。

この場合、ほぼ100%のお客さまは、追加費用が掛からないならそれについても実は販売したいので商標権を取得したい、と本音を伝えてくださいます。

また服の販売について商標権を取得しても服のクリニーングについての商標権は得られないですし、服のレンタルの権利も得られないですけど大丈夫ですか、と伺います。

そうするとお客さまの中には、いやいや、服の販売ではなくてクリーニングがメイン業務だ、と教えてくれるお客さまもいます。

この方は服について商標権を取得すれば服のクリーニグについて商標権を取得することは伝わるはず、と考えていることが聞いてみて初めてわかります。

つまり、商標権を取得する際には、お客さまと専門家との間で取得する権利範囲のすりあわせをする必要があります。

プロなら落とすはずのない範囲の欠落がある商標権が急増している背景には、こういったお客さまと専門家との間の意思疎通が欠落している実情があるのではないか、と私は疑ってしまいます。

(3)手を抜けば儲かる構造問題の存在

(A)単位時間当たりの処理件数至上主義の登場か

お客さま一人ひとりの要望にきちんと耳を傾け、きちんとそれぞれのお客さまの要望に添う内容の願書を作成するには時間がかかります。

また一回当たりの同じ料金でお客さまの希望する権利範囲をできるだけ広く確保しようとしれは、これまた時間と労力がかかります。

これに対して、お客さまから言われたことしか対応しない、という方針を貫けば、これらの手間が掛からず単位時間の出願処理件数が増えて売上が上がり、儲かります。具体的にどうなるかは次のように予測できます。

(B)高い合格率を維持しつつ大量出願ができる

アパレルの場合、最初から服の権利範囲だけに絞り込んで権利申請するのであれば、調べるのは服の範囲だけで済みますし、先行権利がないことを確認するだけで簡単に服だけについて事前に準備されたひな型出願が可能になります。短時間で大量出願が可能になります。またピンポイントで出願しているので先行登録商標を侵害する可能性が低くなり審査合格率も高くなります。

(C)審査段階で審査官と折衝する必要がない

アパレルの場合、最初から権利範囲を服に絞り込んでおけば、服以外に権利範囲を広く指定した場合と比較して、先行権利と衝突する可能性が低くなり、審査で審査官から登録を認めないと言われる確率が高くなります。

本当の専門家なら審査官から登録を認めないといわれても、そこからが腕のみせどころです。審査官との折衝の結果、最終的に商標権が得られたなら、挑戦して権利を取り切ることができた範囲の全ての商標権を取得することができます。

これに対して最初から権利範囲を狭く設定した場合は、権利取得に挑戦しなかった範囲について本当は挑戦すれば権利取得できたのに、それをしなかった場合には、その部分について果敢に権利化に挑戦するライバルに先に商標権を取得されてしまうリスクが残ります。

(D)相談時間を削減できる

最初から権利範囲をアパレル分野の服だけに絞り込むことが許されるなら、同一料金で取得できる靴の権利化についてどうするのかの相談時間を削減することができます。

(E)短期間で登録できる

少しでも審査合格に不安がある範囲は最初から権利範囲から除いておくことで審査に一発合格できるため、短期間で登録できるメリットがあります。

上記の通り、アパレルの場合、服だけに権利範囲を絞り込んで出願すれば限られた時間内に大量出願が可能になるため売上を上げることができます。つまり商標登録手続の代行業者にとっては申し分のない対応策ということになります。

表現を換えると、商標登録の分野も手を抜けば儲かる、という潜在問題があります。これはどのサービス業も基本的に同じで、料金体系が同じであれば、手を抜けばぬくほど業者側が儲かる結果になります。

実際は業者側のモラルにまかせられているのが実情です。

そのモラルにひびが入りかけているのではないか。そんな印象を私は上記のグラフから感じています。

(4)まとめ

仮にアパレルの分野で服だけの商標権を取得して、本当なら服の権利の取得時に靴も同時申請しておけば追加料金を払わずに靴についても権利を確保できたことを後になってから知ったとすればどうでしょう。

もし最初の段階で服の商標権を取得した場合、同じ商標で靴について商標権が必要になった場合、また同一料金を払って靴について権利を取得しなければなりません。

問題は、商標登録をしている最中にこの問題、つまり権利漏れ問題が隠れていることに気がつきにくい点です。

最初に服だけの商標権を取得した場合、アパレルの商標権取得の業務は終了したとして忘れてしまいます。

そしてアパレルの業務が好調になってきて、靴も扱うようになった時点で、商社などから「靴についての商標権確保は大丈夫ですよね?もし商標権を取得し忘れているなら他社に権利を取られて後から商売ができなくなりますよ」、と何年も経ってから教えられて、そこで初めて権利漏れがあることに気がつきます。

お金を払って商標登録する前に、本当にその内容で権利申請してよいのか、十分疑問点を解決してから出願するようにしましょう。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247


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