調理用具の商標権になぜ無料で追加できる食器の権利を入れ忘れるのか

無料商標調査 定休日12/28-1/5

索引

初めに

先週はアパレルの分野の商標権について商標登録のことが分かっていない素人さんがもし願書作成代行をしたなら、やらかすであろうと予測できる範囲を調べてみると、その通り、権利漏れが疑われる商標権が多数見つかる事例を紹介しました。今週は、食器関連について、何も知らないバイトが願書を作成したら、まず権利範囲から落としてしまうと事前に予測できる事例を検証します。今回は調理用具の商標権に食器の権利申請漏れがどれくらいあるかを調べます。

(1)願書提出時に調理用具と食器を入れておけば追加費用がかからないのに、なぜ後で権利化すると倍額費用を抜かれてしまう食器を商標権に含めない?

(A)専門家がチェックした形跡が全くない

ここ1,2年で、明らかに権利範囲の狭い商標権が多数発生しています。もし、商標登録のことに疎い素人さんが願書を作成したら、おそらくこれの権利申請漏れをおこすだろう、と事前に予測できるものがあります。 素人さんがやらかす権利申請漏れは、我々商標登録の専門家が見れば一発で分かります。その様な権利申請漏れが強く疑われる商標権がどんどん見つかります。 専門家の目からみて、商標権の取得の際に、この範囲の権利を取得するなら当然権利範囲に入っていると予測できる範囲が含まれていない。その案件が急増しているということは、専門家が誰も願書をチェックしないままに、そのまま特許庁に提出されている実務があることが疑われます。 あなたも、必要のない権利なら、わざわざ登録することもないだろう、と思うかも知れません。 ところがここ1,2年で急増している権利申請漏れ疑惑案件には特徴があって、「最初に願書に記載しておけば追加の費用が発生しなかったのに、後から権利が必要になった場合には、最初の商標権の取得に要した全額の倍額以上が必要になる」という条件を満たすものなのです。 商標権の権利申請の際に、取得する権利範囲を広げると追加費用が発生するので今回は権利申請しない、という事例があることは私も理解できます。 けれども近年急増している事例は、願書を提出するときに合わせて取得しておけば追加の費用がかからない案件なのです。 後から権利申請すれば、何倍も費用を払うことが分かっていて、あえて、権利を取得しないのでしょうか。 もし最初に商標権の権利範囲に無料で含めることができる時点で含めずに放置した場合、他人にどうぞ権利を取得してください。私は何も文句はいいませんから、と宣言するのと同じです。 商標権の権利に含める範囲が互いに全く関連性のないものなら、私も理解できます。 ところがそうではないのです。密接に関連しあう商標権の権利範囲について、それを権利範囲に含めるなら、これも権利範囲から落としてはいけないでしょう、という事例が多数発見できます。

(B)2010年から2020年までの各年度で調理用具を権利範囲に含み食器を含まない案件数の推移を調べてみた

下記の図1は、食器の権利が抜け落ちた、調理用具を権利範囲に含む商標権の発生数を各年度ごとに積算してみました。私の事前予測では、素人さんなら調理用具に気を取られて、食器を権利範囲に指定するのを忘れる、というものです。当たっているでしょうか。

Fig.1 食器の権利が抜け落ちている、調理用具を権利範囲にふくむ商標権数の推移を表したグラフ

食器の権利が抜け落ちている、調理用具を権利範囲にふくむ商標権数の推移を表したグラフ 本当に調理用具だけを売るのですか。本当に食器の権利は要らないのですか? 特許庁に願書を提出する前なら、願書の指定商品の欄に、調理用具に加えて食器を記入するだけで、一切追加料金が発生することなく、調理用具と食器を権利範囲に含む商標権が得られます。 これに対して、特許庁に提出するための商標登録出願の願書の指定商品の欄に、うっかり食器を記入するのを忘れて特許庁に提出してしまうと、後から願書に食器を追加することは特許庁から拒否されます。 商標権の内容を決定する願書の記載に、最初に記入されていなかった権利範囲に関する事項を追加することは、商標法で認められていないからです。 商標法の第16条の2の規定によると、願書に記載する指定商品について、最初に記載のなかった商品を追加する補正があった場合は、審査官はその補正を却下することが定められているからです。 私の想像ですが、最初に願書にうっかり商品を指定するのを忘れていた場合、願書に記載漏れがあった商品を追加することができる、と誤解している人がいるように思います。商標法には、最初に記載のなかった商品があったことが商標権の発生後に判明した場合には、その商標権について願書の提出時が手続補正書を特許庁に提出した時になる、との規定があるからです(商標法第9条の4)。 願書に最初に記載していなかった商品を追加できる、というのは商標法を誤解している証拠で、この9条の4の規定は、審査官がうっかり見逃した場合はそのように商標権を扱いますよ、という規定に過ぎないからです。 商標登録の専門家なら、この事情を把握しているので、権利申請漏れがないようにいつも注意しています。 上記の図1では2020年になって、急に調理用具の商標権を取得する際に、まるでみんなで申し合わせた様に、食器の権利を落としている件数が増加しています。 もし個人単位で権利申請漏れをやからしているのであれば、2020年以前の各年度のばらつきの範囲内にグラフの形状が落ち着くはずです。 でも実測値はそうはなっていません。 これは私の勝手な推測ですが、バイト派遣などの商標登録の専門家以外の多数が、間違ったひな型をコピペして使っているのではないか、と疑っています。 専門家がこれから特許庁に提出する願書を一目見れば、権利申請漏れがあるのが分かります。そのまま願書を提出することはありえず、無料で権利範囲に含めることができる食器が権利範囲に入っていない。本当にこのまま特許庁に提出してよいのですか?いまなら無料で追加できますよ、とお客さまに伝えて注意を促します。 もし今回、食器を権利範囲に含めない場合、後から食器の商標権が必要になった場合、今回の調理用具と同額(かそれ以上の)費用をがっつり頂きますよ、と専門家がお客さまに注意を促したと仮定すると、2020年のようなグラフの形にならず、図1のグラフの分布は過去のものと同じ程度になるのではないでしょうか。 誰が煽っているのか分かりませんが、商標登録は簡単にできる、と宣伝して、本当に簡単に願書を作成して、そのまま誰もチェックせず、願書を特許庁に提出しているのではないでしょうか。

(2)商標登録の専門家は何をしているのか?

(A)専門家が実務を放棄しているように見える

ここのところ連日スクープしている通り、商標権を取得する際に、権利申請漏れが疑われる案件が急激に増加している点が問題になっています。 特許庁に権利申請する商標権の権利範囲を狭くすればするほど、専門家は儲かります。 権利範囲が狭ければ、調査も、願書の作成も、どの範囲で権利化を図るかも、ものすごく楽になります。 また最初から審査に合格できることが分かっている権利の空白部分をピンポイントで攻めることにより、特許庁の審査官と折衝する必要がなくなります。 同一料金で取得できる権利範囲を広く申請しても、狭く申請しても、お客さまが払う費用が同じなら、あえて言われた以外のことをするのは商標権の取得代行業務側では損になるからです。 しかも、同一料金で取り切れる範囲の全てを一人のお客さまに渡してしまうと、一つ分の手数料しか受け取ることができません。 これに対して同一料金で取ることができる範囲を二分割すれば、同じ商標で、最初に申請しなかった範囲を後から同一料金を払って取り直す場合、2倍の倍額の手数料を回収できることが期待できます。分割して狭く権利申請すればするほど、手間がかからず、後から手数料を何倍も回収出来る結果になります。 また商標権の権利申請にピンポイント申請すれば、審査で一発合格できるので、不合格のリスクによる合格手数料の取りはぐれも防ぐことができます。 最初に権利を取らなかった部分を他の誰かが横取した場合には、その解決に異議申立や無効審判、裁判などを起こす必要があり、マッチポンプで手続き代行側は稼ぐことができます。 商標登録出願の申請代行業者に専門家が関わっていないのではないか。 いちおう関わっていることになっているけれど、実際は手を抜いてみていないのではないか。私は本当に疑っています。 商標権の権利をお金を払って取得するときに、調理用具の権利は取得するけれど、食器の権利は取らない、という選択肢は想定しにくいです。 想定しにくいから、2020年度以前は一定の範囲に図1のグラフの分布が収まっています。近年になって、誰も特許庁に願書を提出する前に専門家がチェックしなくなった、と仮定すれば、図1の様に、2020年になって、急に調理用具の商標権に食器が含まれない商標権が激増する理由を説明することができます。

(3)お客さまは商標権取得にかかる費用しか見ないことを計算している

(A)商標権に権利漏れがあるかどうかはお客さまには事前に分からない

多くのお客さまは商標登録にかかる費用と、自ら取得を希望する権利が取得できることに興味があり、取得した商標権が妥当なものであったかどうかを検討することを権利取得前から考える人はほぼいないです。 商標登録の場合は権利が取得できたかどうかが重要ではなくて、どの範囲で商標権が得られたのかが重要であり、その権利内容で商標権の売却価格とかライセンス額が影響を受ける、と聞いて驚く人が多いです。 弁理士として独立して、東京に特許事務所を開設してから20年近くが経ちますが、私の経験上、商標権の権利範囲に、例えば、調理用具を含めたいと希望するお客さまに、食器の権利は大丈夫ですか、最初の出願に入れるなら無料で済みますよ、と提案すると、ほぼ100%のお客さまが自分の取得しようとする商標権の権利範囲を見直します。 逆にいえば、注意を促さないと、お客さまはこれから権利を取得しようとする範囲が妥当かどうかは検討しないように見えます。 つまり、商標登録の専門家が念のために内容を確認すると、確認した時点でお客さまの本当の希望がだんだんお互いに分かってくる、というのが実感です。 この形で調理用具にについてだけ商標登録すると、食器の権利が申請内容が漏れますよ。うっかり権利取得を忘れた場合、後から取り直すには倍額費用がかかりますよ。また、権利を取得しておかなければ他人に取られてしまうリスクも発生します。今は無料ですけど、後で権利を取り直すとすると、未来は必ず追加費用がかかりますけど大丈夫ですか、と聞いて驚くお客さまもいます。 多くのお客さまは、調理用具を権利範囲に含む商標権が欲しい、といった場合、その権利をピンポイントに含む権利だけを欲しいといっているのではなくて、それも含めて同一料金内で済む、良い感じの商標権が欲しい、と考えている人がほとんどです。 調理用具を権利範囲に含む商標権が欲しいというお客さまがいたとして、そのお客さまのいう通りに調理用具だけを権利にした場合、他のアイテムも無料で追加できると後で知ったら、多くのお客さまは怒ると思います。 また、仮に最初に権利を取得しておかないと権利取得漏れが起きて、将来の商標権の売却価値も下がることが分かると、やはり多くのお客さまは怒ると思います。 ここでお客さまを案内する側は二つの道に分かれます。 小さな親切が大きなお世話になると分かっていながら、調理用具を取得するなら、無料で追加できる食器の権利範囲も同時取得しなくてよいか聞きます。後から食器の権利を取得するには倍額費用が発生しますし、権利取得漏れがあると、ライバルに同じ商標について食器の権利を横取りされる可能性があるからです。さらに権利取得漏れで将来の商標権の売却価値が下がっては困るからです。その上で、あえて調理用具だけの権利を取得する、と主張する方がいるのであれば、その希望に従います。 もう一方の考え方は、お客さまに言われたことだけをする、ということです。仕事の最強の手の抜き方です。がんばってもがんばらなくても貰える手数料が同じなら、必要以上のことはしない、という方針で接客にあたる、ということです。 ただ、専門家が実際にお客さまの前に出て、言われたことしかしない、というのでは子供のおつかいになってしまいます。そんな仕事にプライドがない専門家は実際にはいないと思います。 ですから、図1のグラフの様な権利漏れが疑われる商標権が多数発生する背景には、専門家がお客さまの相手をしなくなっている、ということが示唆されます。 もし実際に接客し、願書を作成する部隊がバイト派遣の商標登録の専門家でないなら、お客さまから言われたことしかできないので、図1のグラフの様に、権利取得漏れの商標権が多数増加してもおかしくありません。

(4)まとめ

今回は調理用具の商標権を取得する際に、権利範囲から食器が漏れている商標権が2020年に急増している事例を紹介しました。もし素人さんが手続きをしたなら、きっとこの範囲の権利を権利範囲からうっかり落とすだろうと予測できる範囲で、本当にその通り、権利取得漏れが疑われる案件を発見できます。 それも狭い分野だけの話ではありません。権利取得漏れが疑われる分野は幅広く検出できます。 うっかり権利を取り忘れたら、最初の商標権取得時にかかった費用の倍額以上を払って、権利を再取得する必要があります。どんなに狭い範囲であったとしても権利を取り直すには倍額がかかります。 くれぐれも特許庁に願書を提出する前に、うるさいほどに、実際に弁理士が確認したか確かめるようにしてください。 特に、その弁理士と直接、話をするようにしてください。弁理士が実際に願書を作ってくれたなら、内容をよく把握していますし、質問や電話にも快く応じてくれます。 もしそのような専門家が実際には存在しないとか、内容を把握していないのであれば、問い合わせても邪険にされると思います。 ひどい商標登録出願の代行業者の場合は、決して弁理士が電話口に出ないと思います。その人はいることになっているだけで、実際にはそこには存在しない可能性もあるからです。 ちなみに弁理士以外が特許庁に願書を提出する代理業務を行うのは弁理士法違反になります。業者に費用を払ったのちに業者が逮捕されて行方不明になると大変なことになります(実際に逮捕された業者が存在します)。 黙っていては情報弱者として養分を吸い取られるだけの存在になってしまいます。事前確認は決して怠らないようにしてください。 ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘 03-6667-0247

無料商標調査

あなたの商標が最短1ヶ月で登録できるかどうか、分かります
識別性を判断することで、商標登録できるかどうか、分かります
業務分野の検討が、商標の価値を最大化します

コメントする