索 引
1. 洋服を登録するとき、下着を一緒に指定していますか
洋服のブランド名を商標登録するとき、「下着」も願書に入っていますか。同じ第25類なら、洋服に下着を加えても特許庁への出願料・登録料は増えません。ところが、出願後に下着の指定漏れに気づいても、権利範囲を広げる補正はできません。
下着を別の1件・1区分で出願し、10年分の登録料を一括で納めるなら、特許庁料金だけで44,900円です。代理人に依頼する手数料は別にかかります。最初の願書に一緒に入れられた範囲を、後から費用をかけて取り直すことになります。
洋服で登録できたという知らせだけで安心せず、指定商品の欄を読んでください。「第25類を取った」ことと、第25類に含まれる商品をすべて指定したことは同じではありません。下着を外す理由を確認しないまま、願書を提出していないでしょうか。
2. 2019年から2024年の集計で見える変化
当事務所の集計では、洋服を権利範囲に含む一方で、下着を含まない登録が2020年以降に増えています。各年度に発生した商標権について、下着の指定漏れが疑われる件数を示したのが次のグラフです。

Fig.1 洋服を含み、下着を含まない商標権の件数
- 2019年:158件
- 2020年:297件
- 2021年:490件
- 2022年:349件
- 2023年:216件
- 2024年:202件
2020年は2019年を上回り、2021年には490件になっています。その後は減少していますが、2024年の202件も2019年の158件を上回ります。
この件数は、当事務所が定めた条件で登録データを集計したものです。同じ区分で料金を増やさず指定できる隣の商品が、これだけ外れている理由は、依頼者に説明されるべきです。
3. 2020年を境に増えた背景を、出願実務から考える
当事務所では、この変化の背景に、権利範囲を狭く絞って審査を通す実務が業界に広がったことがあると見ています。依頼者には「早く登録できる」「拒絶理由への対応をしなくてよい」という分かりやすい利点があり、手続きを扱う側にも都合があります。
指定商品を絞れば、調査や調整の範囲も小さくなります。登録に至らず費用を回収できない事態を避けたい業者にとっては、審査を通しやすい範囲だけを出願する動機が生まれます。経験の浅い担当者を含む体制で大量の案件を処理する場合にも、狭い指定のひな型は扱いやすいでしょう。
その結果、短期間で登録できたことが成果として伝えられ、同じ料金で指定できた下着が外れている点は説明されないままになる。これが当事務所の問題意識です。依頼者の取りこぼしにつながる、見過ごせない実務上の仕組みです。
「洋服だけでいいですよね」と聞かれれば、商標の分類を知らない依頼者は、下着も含まれるものと思って「はい」と答えます。単に了承を得るのではなく、何が外れ、今なら料金を増やさず何を入れられるのかを説明するのが、専門家側の仕事です。
4. 同じ第25類でも、洋服と下着は同じ範囲ではない
日常の会話では「服を買う」という言葉に下着や靴下も含めるでしょう。しかし、願書に記載する商品名は、日常語の感覚だけでは決められません。洋服と下着は同じ第25類に入りますが、類似商品・役務審査基準では、洋服などは17A01、寝巻き類・下着・水泳着などは17A02という類似群で扱われます。
区分は出願を分類し、料金を計算する単位です。権利範囲は、願書に書いた指定商品で決まります。類似群コードは、審査で商品どうしの類似を推定するための目安です。洋服と下着は別の類似群にあり、「洋服」とだけ指定した登録で下着まで守れると考えるのは誤りです。
下着、寝巻類、水着、靴下、手袋、ネクタイ、帽子、ベルト、靴について、それぞれ願書のどの記載でカバーするのかを確認します。「被服」のような上位の表示に含まれる商品もあれば、別に指定する商品もあります。一覧の単語をそのまま足すのではなく、具体的な商品と願書の表現を対応させてください。
なお、ティーシャツ、キャミソール、タンクトップには、外着と下着の両方の使われ方を踏まえ、17A01と17A02の両コードが付されています。これらの商品は、洋服と下着の両方に関わる商品として扱われます。商品名ごとの扱いは特許庁の類似商品・役務審査基準と類似群コードの説明で確認できます。
5. 出願前なら同額でも、後から取り直すと44,900円から
特許庁の商標料金は、基本的に区分数で計算します。同じ第25類で指定商品を増やしても、区分数が変わらなければ出願料・登録料は同額です。「無料で追加」とは、この特許庁料金の話です。代理人の調査料や手数料は、依頼先の料金表で決まります。
一方、下着を新たな1件・1区分で取り直す場合、出願料は3,400円+8,600円で12,000円、10年分の設定登録料は32,900円です。合計44,900円に、依頼先の手数料などが加わります。5年ごとの分割納付や複数区分の出願では計算が変わります。料金は特許庁の料金一覧で確認してください。
願書は提出後に権利範囲を自由に書き足せる書類ではありません。試験の答案を出した後で答えを足せないのと同じように、出願後に「下着も欲しかった」と言って範囲を広げることはできません。ただし、範囲を狭める補正や、所定の条件を満たす誤記の訂正などは別です。
不足分の出願日は、新たに出願した日になります。その間に他人が同じような商標を先に出願していれば、費用を払っても登録できません。出願前の確認と後からの取り直しでは、費用だけでなく条件も違います。
6. 不使用取消が心配だから、下着を外すのでしょうか
「使っていない商品を入れると、不使用取消審判が心配だ」と説明されることがあります。しかし、それは同じ特許庁料金で確保できる下着を外す理由になりません。不使用取消審判は、指定商品・役務ごとに請求されます。下着が未使用でも、使っている洋服の登録はそのまま残ります。
請求の対象に使っている商品が含まれる場合は、その請求に含まれる商品について、法律の要件を満たす使用を証明して守ります。請求登録前3年以内の国内での使用、使用した者、商標と商品の対応などを示すため、商品写真、カタログ、取引書類を残しておきます。指定商品を狭くしても、使っている商品を狙った請求は同じように来ます。攻撃されたのですから、証拠で守るのは当然です。
請求が未使用の下着だけに向けられたなら、放置すればよいだけです。失うのは請求された部分だけで、洋服の登録はそのまま残ります。使っていない商品を失っても、事業に実害はありません。反論しなければ代理人費用もかからず、追加の費用もありません。
まず請求書で対象を確認し、使っている商品が含まれていれば証拠で守り、未使用の下着だけなら放置する。この区別を伝えずに「取消審判が心配だから」と最初から下着を捨てさせる説明は、権利を狭くして審査を通す側の都合です。制度と使用証明は特許庁の商標登録取消審判の案内を参照してください。
7. ブランドを広げるとき、売るときにも指定の漏れが響く
例えば、洋服から始めたD2Cブランドが、ルームウェア、下着、靴下へ商品を広げる場合を考えます。初回の願書が「洋服」だけなら、新商品がその記載で守られるかを確認し、足りない範囲は改めて出願することになります。
初めの商品がTシャツでも、願書の記載が「洋服」なのか「ティーシャツ」なのか「被服」なのかによって、守られる範囲が変わります。販売した商品と願書の単語を混同しないでください。
追加出願の前に第三者の商標が障害となれば、名称の変更を検討することもあります。既存顧客への説明、パッケージやタグの作り直し、ウェブサイトの改修、SNSアカウントの変更まで及ぶと、費用は出願料だけにとどまりません。
商標権は、移転や売買の対象になる資産でもあります。M&Aや事業承継で買い手がブランドの取得を検討するとき、下着や靴下の範囲がなければ、補う費用と取得できない可能性が査定に入ります。どこまで権利を持つかは、登録証の有無ではなく、指定商品の欄で決まります。
8. 出願前の10分で、担当者に確認したいこと
願書の「指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分」の欄を、担当者と一緒に読んでください。下着、寝巻類、水着、靴下、手袋、ネクタイ、帽子、ベルト、靴を挙げ、それぞれ入っているのか、どの表示に含まれるのか、外すなら理由は何かを聞きます。
「第25類で、特許庁の印紙代を増やさず一緒に指定できる範囲はどこですか」と尋ねてください。3年後、5年後に予定する商品の展開も伝えます。今売っている品目だけを書き写すのではなく、同じ区分で取り残す範囲がないかを検討する時間です。
願書の代理人欄に記載される弁理士又は弁護士の氏名を確認し、出願前に本人から説明を受けてください。調査の結果、他人の先行商標が見つかったのか、単に手続きを簡単にするため外したのかでは、依頼者が選ぶべき対応も変わります。
指定商品を広げれば、調査する範囲も増えます。そこで障害が見つかった場合には、意見を述べて争うのか、商品を絞るのか、出願を分けるのかを、理由と費用を示したうえで判断します。最初から狭くして「一度で登録できた」と伝えるだけでは、依頼者は失った範囲に気づけません。
当事務所へのご相談は相談フォーム、費用の考え方は商標登録の費用ページをご覧ください。出願前の願書案があれば、どの商品を含め、何を外そうとしているのかを一緒に確認できます。
9. よくある質問
Q1. 第25類を取れば、下着も自動的に守れますか?
守れません。権利範囲は区分名ではなく指定商品で決まります。「洋服」だけの指定では、下着は権利範囲に入りません。
Q2. 同じ区分なら、下着の追加は本当に無料ですか?
出願前に同じ第25類の範囲で一緒に指定するなら、特許庁の出願料・登録料は増えません。代理人の手数料などは依頼条件を確認してください。出願後に範囲を広げる追加とは区別します。
Q3. 登録後に下着を足すには、いくらかかりますか?
新たな1件・1区分の出願と10年分一括納付なら、特許庁料金は合計44,900円です。代理人費用などは別途かかり、新しい出願の審査を受けます。
Q4. 不使用取消審判を避けるため、下着を外すべきですか?
外す理由になりません。不使用取消審判は商品ごとに請求されます。使っている商品への請求は使用証明で守り、未使用の下着だけへの請求は放置すればその部分が消えるだけで、実害も追加費用もありません。
Q5. すでに洋服だけで登録している場合は、何から始めますか?
登録原簿などで指定商品を確認し、下着が本当に含まれていないかを確かめます。不足していれば、新たな出願の前に先行商標を調べてください。最初に依頼した担当者には、下着を外した理由と、当時どのような説明をしたのかを確認します。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
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